――私の友を傷つける者は許さない!
苛烈な苛烈な、激しい感情を持った声。
自分の心の声なのか、それとも他の何かの声なのか。
にはそれを判断する余裕などなかった。
頭に直接流れ込む意思に追随するように、怒りにくらんだ目でアクマを睨みすえる。
――盟約の下に命ずる
「……盟約の元に命ずる」
――天駆ける柱、天照らす光
「天駆ける柱、天照らす光」
――解き放たれし朋友が為、新たなる寄り代を求めよ
「解き放たれし朋友が為、新たなる寄り代を求めよ」
――暁の光、希望の明星
「暁の光、希望の明星」
――目覚めよ、6枚羽の綺羅星
「目覚めよ、6枚羽の綺羅星」
うわ言のようにが呟くと共に、その身体に細かい光の粒子がまとわりつく。
最後の言葉を言った瞬間、圧倒的な光の奔流が現れた。
「――っ!」
あまりのまぶしさに、のみならず神田も目をすがめた。
アレンがイノセンスの形を変えるとほぼ同時に、それも勢いを潜める。
潜めて、神田が目を見開いた。
「な――!!」
アクマをまっすぐに見据えるの背に、ありえないものが存在している。
「ララ……」
労りに満ちた声でそっとララをなでると、はきっとアクマを見上げた。
「……寄生型……!?」
神田の呟きも耳に入らない。
「よくもララを――!よくもアレン君を!」
初めて教団から連れだしてくれた人。
初めて教団以外で言葉を交わした人。
イノセンスに関係なく、私を私として接してくれた人達。
その人達を傷つけたお前を、私は許さない――!
怒りに身を任せると共に、光が再び輝きを増していく。
はそのことに、全く疑問を覚えなかった。
というよりも、疑問を覚えるほど心に余裕がなかった。
何が何だかわかっていないまま、ララにそっと手を伸ばす。
からくり人形と化した彼女の手を握りしめると、そこからも光が生まれる。
「――え?」
そうして初めて、自身も異変に気づいた。
「……神田……何、これ?」
「俺が知るか!」
「え?え?え??」
が戸惑う間も、光は優しくララを包み込む。
羽が幾重にも重なりあうように覆ったその大元は――の背中。
「わ、私、羽生えてるの?」
「――チィッ!、そのままその人形から離れるな!わかったな」
何が何だかわかっていないをよそに、神田が言い捨ててアクマへと走る。
何事かと視線をあげたは、その先を見て悲鳴を上げた。
「――アレン君!神田!!」
怪我でもしたのか血を吐いたアレンに向かって、アクマがイノセンスに擬態した手を振り上げている。
それを止めようと走り込む神田もまた、満身創痍だ。
――このままでは、2人とも死んでしまう!
その瞬間を見るのが耐えられず、は強く目を瞑る。
その背で翼が再び強く輝いた。
死なないで。
その思いに呼応するように光が走り、アクマと神田の間に割りこんだ。
「――!?」
「さん!?」
その光の元をたどって、今まで気づいていなかったアレンも目を見開く。
できることなら微笑みたかったが、アクマの腕を受け止めた瞬間がくりと全身にかかった負担に、の顔が小さく歪んだ。
「神田……あんまりもたない……!」
切羽詰まったその言葉だけで、神田は全てを了解してくれた。
アレンと派手に口論しながらも、怪我をした身体でアクマの腕を押し戻し、にかかる負担を減らす。
じわりとにじむ赤い色に、が悲鳴のような声を上げた。
「やめて!!」
「うるせェ!」
「さん、すぐに終わらせますから」
神田が怒鳴り、アレンも安心させるように微笑む。
そしてきっとアクマを睨み、奇しくも2人同時に叫んだ。
「「吹っ飛べ!!」」
「…………終わったの?」
「ええ。さんのおかげで助かりました」
おそるおそるララから手を離したに、アレンがへらりと笑い返す。
その手に握られているのは、ララの心臓だったイノセンス。
「アレン君、それ」
「ララに戻します」
迷いなく言い切ったアレンに、神田が舌打ちをせんばかりに顔を潜めた。
だが、それ以上何も言いはしない。
あの表情の豊かさが嘘のようにぎこちなく動くララを見ながら、はそっと神田を見上げた。
「……任務、優先しないんだ?」
「……泣くくらいなら始めから人形に思い入れを持つな。あれも見るな」
「…………ひどい、せっかくがまんしてるのに」
盛大に舌打ちをしながら乱暴に頬をこすられ、はにじむ視界でララを見る。
お世辞にも丁寧とはいえない手つきで拭われた頬がひりひりと痛んだけれど、滅多にない神田の思いやりが嬉しかった。
ぐず、と鼻を鳴らして、そっと目を閉じる。
――優しすぎる子守歌が、今は胸に痛かった。
あの後ぶっ倒れた神田を大騒ぎしながらトマと2人でどうにか病院に担ぎこみ(アレンは遺跡を離れようとしなかった)、手当をしてもらってから3日。
勝手に退院しようとする神田をどうにか止めようと、は四苦八苦していた。
「ね、神田、せめてあと2日は寝てようよ」
「その日数は一体どこから湧いてきた――コムイか」
『神田くーん!!ちゃんは無事!?ねえ無事!?』
「第一声がそれかてめェ」
「コムイさん、神田を止めてよ!」
『あっ!よかった、無事みたいだね!いやあ、リナリーが心配して心配して』
「そうなんですか……帰ったら謝らなきゃ」
「そしてこの状態で会話するな!!コムイ、声がでけェ!!耳が壊れるだろうが!!」
神田の腰にしがみついた状態のと、神田の耳に当てられた受話器から漏れるコムイの
声。
両方の半端ない大声に我慢の限界がきた神田は、彼女にぺいっと受話器を放り投げた。
「終わったら返せ」
そういったきり早々とガーゼを外し始めた神田に慌て、は受話器を押しつけ返す。
コムイと話している間は妙な行動に出ないだろうと判断したからだ。
――結局それが間違いだったと思い知るのと同時に、思いがけないことを言われることになったのだが。
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