「あー!クラウド、まぁた怪我したの!?」


ひょいと顔を覗かせた相手を見て、思わず大きな声が出てしまった。


「しょ……しょうがないだろ、文句なら教官に言ってくれよ!」
「他の兵士さん達はこんなにしょっちゅう怪我しません!ったく、綺麗な顔に怪我こさえちゃってさー……」


白い肌に容赦なく消毒液をぶっかけて、怪我の具合を確かめる。
見た目は派手な擦過傷だけど、そんなに酷くはなくて、ほっと胸をなでおろした。
きちんと治療をすれば、1週間ちょっとで治るだろう。


「他に怪我は?」
「いや、打ち身だけ   
「はい見せようねー」


問答無用とばかりに笑顔で圧力をかけると、クラウドも観念したようにパンツをめくり上げる。
かなり酷いその打ち身に、知らず眉根が寄った。


「……クラウド、これ本当に訓練でした怪我?」
「え?そうだけど……」
「だとしたら、教官が厳しすぎるか、あんたの受け身が下手すぎるかのどっちか!こんなに酷いの、滅多に見ないよ!?」


玉のような白いお肌が!と嘆いたら、結構本気で嫌な顔をされた。
いや、こんなところで働いていると、綺麗な肌は本当にありがたいものだと実感できるのだけれど。

重傷患者が担ぎこまれることも少なくないこのご時世、せめて自分の身体は大切にしてほしい。


ということを真顔で付け足すと、クラウドは虚を突かれたような表情をした後、疲れたような顔になった。


「……それを最初から言ってくれよ……」
「別に女顔だとか、女みたいだとか、そういうことは一言も言ってないでしょ?第一、あんたの肌、女性のものからは程遠いし」


クラウドは確かに綺麗な顔だけれど、もうちゃんとした男の人のものだ。
入社した頃はまだ中性的な顔立ちだったのに、時が経つのは早いものだとしみじみしてしまう。


「でも本当に、クラウドって色白だよね。日焼け止めとか塗ってないんでしょ?」
も充分白いと思うけど……」
「私のは努力の結晶です!もうすぐお肌の曲がり角なんだから」


女の肌の曲がり角は19歳。
え、若っ!!とか思っていたあの頃が懐かしい……。

いまや入念なお手入れを開始し始めた肌を触って、思わずため息が出てしまう。


「……女って、色々大変なんだな……」
「女は化粧で化けるって言うしねー。メイク落としたら別人とか、普通にいるらしいよ」
「……へえ……」


あ、ドン引きしてる。
まあ、女の子に幻想抱いてるお年頃なら、幻滅するのも仕方ないと思うけど。


……は、化粧してないよな?」


おそるおそるといったように訊かれて、怒るよりも苦笑がもれてしまった。
まったくもう、こういうところが好きなんだ。


「してないよ、20歳過ぎてからで充分だと思ってるしね。若いうちからせっかくの肌を隠す方がもったいない」


寝不足で顔色が悪い時にはチークや口紅を使ったりもするけれど、本当にそれだけ。
気張って化粧をするほど、飾って綺麗になれるとも思えないのだ。
だって私、平々凡々な顔だし。


……まずい、自分で考えておいて、結構ぐさっときた……。


ひっそりこっそりへこんでいたら、クラウドに何回か肩を叩かれた。


、平気か?」
「え?ああ、うん、大丈夫。どうしたの?」
「あの、さ。その……明日、俺、休みなんだ」


照れながら笑ったクラウドに、思わずこちらまで笑顔がこぼれてしまう。


「よかったじゃない!おめでとう、最近は休日返上ばっかだったもんね」


汗だくになって傷だらけになって、それでも頑張った甲斐があったわけだ。
まめのできた手を握ってぶんぶか振ると、クラウドが嬉しそうにうなずいた。


は明日、何か予定はあるのか?」
「私?あるっていえばそうかな。明日は新薬の開発論文の締切日だし、明後日は部内会議が朝から夕方まで3本立て続けに入ってるし、その次の日は   
「わかった、もういい。俺が恥ずかしくなるから、もうやめてくれ」


頭の中でスケジュールを思い出していたら、げんなりした顔で止められた。


いや、あの、これくらい普通なんですけど。
この仕事に就いて、何年経ってると?


目で問いかけたら、あんたの大変さと俺の大変さを比べるのがおこがましく感じるんだと、文句を言われる。


「そりゃあ、職種が違うんだから、それは当たり前じゃないの?私はクラウドみたいに戦う事なんて、絶対できないもの」


実際に人を傷つけるくらいなら、2週間医務室に缶詰になる方がずっとましだ。
それは向き不向きの問題でもあるから、人によって感じ方が変わるんだろう。


「でも、っていつ来ても医務室にいるよな。いつ休んでるんだ?」
「え?そんなことないよ、ちゃんとシフト制で交代してるし。クラウドが来る時に、たまたまいるだけじゃないかな」
「そうかな……ちゃんと休んでるのか?」
「休んでるよ。疑い深いんだから」


軽く笑ってクラウドの疑念を吹き飛ばし、背中の傷の手当てを終わらせる。
最後に足の打ち身を診ようと触ったら、クラウドの身体がびくりと震えた。


……おかしい、本当に「触る」程度にしか触れていないはずなのに。
一体どうしたのかと眉を顰めて見上げると、耳を赤くしたクラウドが慌てたように手を振った。


「いや、痛いわけじゃなくて。ぼーっとしてたところにいきなり触られたから、ちょっと驚いたんだ」
「……そう?痛まないなら、それでいいんだけど……」


触診して骨が折れていないことを確認した上で、処方薬を渡して出口まで見送る。


「あんまり怪我、しないでね」
「気をつける」
「じゃあ休日、楽しんでね」
「ああ」


手を振って別れた後の医務室は、何だかちょっとだけ寂しい。
休日を一緒に過ごせたらと思わなかったといえば嘘になるけれど、そんなのは彼女になった人の特権だろう。


「……さあて、論文論文!!」