「ごちそうさまでした!おいしかった!」
タルトを完食してクラウドにお礼を言うと、照れたような笑顔が返ってくる。
「それならよかった」
ケーキはもう食べ終わったけれど、紅茶を飲んだりしていたら、帰るタイミングを逃してしまった。
おしゃべりしながらまったりして、思ったよりもここを居心地よく感じている自分に驚く。
もっとどきどきしっぱなしだと思ったんだけどなあ……。
「はどうして、神羅に来たんだ?」
「んー……まあ、家庭の事情ってやつかな。元々医者とか製薬とかに興味もあったし」
家庭の事情の方は、言っても聞いてもあまり面白くないものだから、割愛しておく。
ひとまず不満はないよと笑うと、クラウドもうなずいた。
「、楽しそうだもんな」
「え?そうかな」
「俺が見る時は、いつも楽しそうな顔してる」
それはきっと、相手がクラウドだからだ。
反射的にそう思ったけれど、口には出せずに曖昧に笑う。
「そう見えるなら、ありがたいね」
「俺、が元気そうにしてると、自分も頑張んなきゃなって思うんだ」
「……そっか」
いきなり爆弾を落とされた。
何だこの破壊力。
赤くなりそうな顔を必死にこらえて、何でもないような表情でうなずく。
「じゃあ私、ますます頑張らなきゃね」
「いや、が無理して頑張る必要はないって!俺が勝手にそう思ってるだけだし」
「でもさ、そう思ってくれる人がいるって、すごくいいことだと思うから」
さらにそれがクラウドだと、私のやる気も上がるから。
とは、言えないけれど。
ガッツポーズをしてみせると、クラウドがおかしそうに小さく笑った。
「あ、そういえば、ザックスは?昨日ホームナンバー教えてくれるって言ってたのに、まだ聞いてないんだよね」
昨日ザックスはIDカードを忘れてきていて、自分のナンバーがわからなかったらしい。
書類にも頻繁に書くはずなのに、まだ覚えていないのがザックスらしいと笑ってしまった。
今度教えるな、と言われてそのまま別れたのだけれど……いつ会えるんだろうか。
携帯の番号も聞き忘れたから、連絡をとる手段がないのが痛い。
クラウドならば連絡先がわかるかもしれないと期待をこめて見たら、ものすごく嫌そうな顔をされた。
「……ザックスがいいのか?」
「え?そりゃ、ザックスは楽しいし、好きだけど……」
「ザックス、彼女いるぞ」
「へえ!可愛いんだろうね」
本能的に女の子を楽しませることができる人だから、きっと彼女も一緒にいて楽しいだろう。
笑って言ったら、クラウドはむっとした顔になった。
「……何で、ザックスばっかり……」
ぼそりと呟かれた言葉で、どうしてむっとしたのかがわかった気がする。
クラウドは多分、ザックスがうらやましいんだろう。
それは私にも少なからず覚えのあるものだったから、身を乗り出してクラウドの腕を叩く。
「ザックスは確かにおもしろいけど、クラウドもいいところあるじゃない」
「そうか?」
「ていうか、クラウドがザックスみたいだったら引いちゃう」
底抜けに明るいクラウドなんて、考えただけで寒気がする……。
クラウドはちょっと根暗で、でも付き合っていくとおもしろいあたりがちょうどいい。
そう考えて小さく笑うと、クラウドも不思議そうにしながらちょっとだけ笑った。
「……そっか」
「うん」
今度は大きくうなずいて、ポットから注いだ紅茶をぐいっと飲み干す。
それが冷えきっていたことに気づいて、かなり時間が経っていたのかと驚いた。
さすがにそろそろ帰らなければと、慌てて席を立つ。
「?」
「ごめん、すっかり長居しちゃった!帰るね、ケーキありがとう!」
バッグを取り上げながら早口でそう言ったら、強い力で腕をつかまれた。
「……クラウド?」
「あ、いや、その……何か、用事があるのか?」
「いや、別にないけど……あんまり長くいるのも迷惑でしょ?」
ここにいるのは楽しいけれど、それは私が勝手に思っているだけだ。
クラウドだって夕飯の支度とか、明日の準備とか、色々あるだろう。
あまり遅くまでいるのは迷惑だと思うのだけれど……。
そう思いながら首を傾げると、クラウドが力一杯かぶりを振った。
「全然!だって俺、が好きだし っ!!」
がばり、とクラウドが自分の口を手でふさぐ。
そのままじわじわと赤くなっていく様子を見ながら、ぎしりと固まった頭を無理矢理動かした。
今、何て言った?
予想すらしなかった言葉に、頭が動いてくれない。
クラウドのあの様子からして、単に友達としての「好き」ではなさそうだけれど 。
まさか、まさか、ねえ?
「ええと、その……」
何とか口を動かしてそれだけ言うと、クラウドが一気に真っ赤になった。
その顔のまま表情を引きしめて、まっすぐに私を見る。
「 俺、が好きだ」
真剣な目で見つめられて、自分の顔がじわじわと熱くなるのを感じた。
ああ、私、今絶対真っ赤だ。
せっかく紅茶で潤した喉が、またからからに乾いている。
何度も唾を飲み込んで、唇をなめて、ようようの思いで声を絞り出した。
「 私、も」
押し出した声は変にかすれていて、少しひっくり返ってしまったけれど、クラウドにはちゃんと届いたようだった。
固かった表情がほころんで、今までで一番柔らかい笑顔がこぼれる。
それをまともに見てしまって見とれていると、クラウドがティーカップを持って立ち上がった。
「紅茶、淹れ直す。 夕飯、食べてかないか?」
「……お夕飯は、私が作るよ。さすがにそこまでさせるのは申し訳ない」
お口に合えばいいんだけれどと照れながら笑ったら、クラウドも照れたように笑う。
「座ってて。ミルクは?」
「あ、いらない」
「わかった」
後ろ姿がキッチンに消えていったのを見送って、ソファーに深々と身を沈める。
やばい、今、すごく幸せ。
顔がだらしなくゆるむのを感じながら、両手でゆっくりと顔を覆った。
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