「……困った……」
調子に乗って、いろんなものを買いすぎた。
どう頑張っても持ち切れなくなった荷物を見下ろして、途方に暮れてしまう。
捨てるなんて選択肢は端からない。
あったらそもそも買っていない。
どうしようと悩み続けて10分、以前に聞いた「何でも屋さん」のことを思い出した。
道中偶然一緒になった女の子に教えてもらったんだけれど、確か運び屋じゃなかっただろうか。
慌てて荷物をひっくり返して、渡されたちらしを探す。
「 あった!」
手作りらしい簡単なチラシには、何でも屋さんの名前と連絡先。
これを渡された時の、無愛想だけどいい奴だからさ、という言葉を思い出した。
無愛想だろうが何だろうが、いい人ならば問題はないだろう。
うきうきと携帯で電話をすると、ほどなくして若い女の子の声がした。
「はい、ストラウフ・デリバリーサービスです」
「あの、荷物の運送をお願いしたいんですけど……」
「ありがとうございます!今どちらですか?」
可愛らしい声は弾むようで、無愛想とは程遠い。
まさかかけ間違えたかとも思ったけれど、確認したチラシにも「ストライフ・デリバリーサービス」と書いてあった。
ずいぶん性格が変わったんだなと思いながら場所を知らせて、折り返しの連絡を待つ。
どうやら、実働部隊は他にいるようだ。
もしかしたらそちらが無愛想な人なのかもしれないと思っていたら、携帯がバイブを鳴らした。
さっきとは違う番号。
実働部隊からだろうか?
「はい」
「・?」
「あ、はい。どちらさま?」
名乗りもせずにこちらの名前を確認した男性は、そう訊かれてようやく思い出したように名乗った。
「クラウド・ストライフ。 ストライフ・デリバリーサービスです」
焦った様子もない声を聞いて、無愛想というよりはぼんやりさんなのかもしれないと思う。
「あと3時間で着けると思うから、そのまま待っていてほしいんだけど 」
「ちょっと待って、あと3時間って深夜でしょ!?」
そんなに遅くまでかかって来ると言うのか、この人は。
一体どこから、どうやって来るのだろうか。
驚いて問い返すと、クラウド(と言うらしい)はやや間を開けてから納得したような声をあげた。
「ああ、夜遅いのが嫌なら、明日の朝 」
「じゃなくて!あなた、寝ないで運ぶつもり!?睡眠はちゃんととらなきゃ駄目じゃない!!」
別に急ぎではないのだから慌てずに来てくれと伝えると、不思議そうな返事が返ってくる。
「……別にいつものことだから、あんたがそんなに気にする必要は 」
「問題外!!ちゃんと寝ること!!今夜でも明日の朝でもいいから、着いたら連絡ください。以上!!」
どこまで自分の体に無頓着なんだ、この人は!
もう敬語も抜け果てた口調でびしりと告げて、問答無用で電話を切る。
フロントに内線をかけてもう1日延泊することを伝え、ベッドに勢いよくダイブした。
明日の朝早くクラウドが着くかもしれないから、今日は早めに寝ておこう。
とか思っていたら、真夜中にフロントからの電話で叩き起こされた。
寝ぼけた声で受話器を取ると、私にお客さんだとか。
……こんなところに来るお客、デリバリーサービスのクラウドしかいない。
よくもわたしの睡眠時間を!と怒りたくなったけれど、よく考えれば彼もそれ以上に睡眠時間を削っているのだ。
そう思うと、何だか申し訳なくなってくる。
「遅くなった」
「……ゆっくりでいいって言ったのに……」
休んでこなかったのかと睨みつけた相手は、大層な美形だった。
思わずまじまじと見つめていると、無言で見返される。
どこか影のある表情は、確かに言われた通りに無愛想とも言えるかもしれない。
「荷物は」
「……今日はここで寝てきなさいな。毛布なら譲れるし、床になっちゃって悪いけど」
「別に 」
「平気とかいう言い訳は聞きません!顔色悪いし表情さえないし、あからさまに疲れてるじゃない」
それにこんなぼんやりさん、真夜中に一人で送り出したら何があるかわからない!
荷物がなくなるのはまあいいとしても、大怪我でもしやしないかと不安でたまらない。
渋るクラウドに毛布を押しつけて、どれが荷物とは教えずにベッドに潜りこむ。
当然運ぶものがわからないクラウドも、渋々ながら床に座りこんだ。
寝やすい体勢を探しているのか、しばらくごそごそと衣ずれの音が響く。
割とすぐに消えたそれの代わりに聞こえ始めた寝息を聞いて、やっぱり疲れていたんじゃないかと苦笑がもれた。
まったく、ぼんやりさんだなあ。
そっと視線を動かした先で、光を集めたような色素の薄い金髪が、月明りに透けてきらきらと光っていた。
こんなに線の細い人が運び屋なんかやっていて、本当に大丈夫なんだろうか。
体力がもつのかといらぬ心配までしてしまう。
腰に下げていた剣からして、多分戦えはするんだろう。
だけどこの人、うっかりすると自分の指を切ってしまいそうだ。
危なくないのか、ちゃんと使えるのかと心配していたら、いつの間にか私も眠っていたようだった。
起きた時には肌掛けの上から毛布も重ねてかけられていて、クラウド本人はすでに部屋にはいない。
どこに行ったのかと思っていたら、おいしそうなパンとスープの乗ったトレイを両手に持って入ってきた。
「起きたか。おはよう」
「……おはよう」
なかなかやるな、ぼんやりさんめ。
思わずお腹が鳴っちゃったじゃないか。
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