運んでほしい荷物はと訊かれたから、とりあえず一式を指し示す。
部屋にある荷物の3分の2以上を占めるそれに、クラウドはとても驚いたようだった。
「……ずいぶん大量だな」
「本当は全部持ってきたいんだけどね。身軽でいるのが好ましいから、一回自宅に送ろうかと思って」
一度に頼んで大丈夫?と訊くと、少しだけ渋い顔をされた。
さすがに容積的にまずかったらしい。
「うーんと……それじゃあ、3分の1だけ持って行ってもらおうかな。残りはどうにか持って運ぶから」
はい、鍵。
よろしくね、クラウド!
依頼料は増えても構わないから、確実に届けてほしい。
貴重なものも含まれているからなおさらだ。
そう思って笑顔で家の鍵を渡すと、何とも言えない表情で見返された。
「あんた……そんなに簡単に、家の鍵は渡さない方がいいと思うんだけど……」
「だって、渡さないと届けられないでしょ?クラウドはいい人だって聞いてるから、安心して渡せるんだけど」
人からの評価を鵜呑みにすることなかれと言うべからず。
紹介してくれた人は、とても素直でまっすぐな感性の持ち主だった。
彼女の感想ならば、きっと歯に衣着せぬだけで正確なものだろう。
「……そうか」
「うん。よろしくね、クラウド!」
もう一度笑顔でお願いすると、クラウドも仕方がないというように苦笑した。
「私、これからグランドキャニオンに向かう予定なの。コスタ・デル・ソルからゴンガガの東を通って 」
「ちょっと待て。それ、1人で行くつもりなのか?」
また引き取りに来てほしいからと予定ルートを伝えようとしたら、慌てたように口を挟まれた。
何を今更と、思わず首を傾げてしまう。
今までも1人だったのだ。
これからも1人なのは間違いないだろう。
「うん、そうだけど?」
「……危ないだろう、そんなところを1人で!」
「えー、平気だよ!」
職業が職業だから、モンスター怖い!とか言っていられない。
笑ってぱたぱたと手を振ると、今度は訝しげな目をされた。
「って……何をしてるんだ?」
「何って……モンスターの生態調査?」
どこにどんなモンスターが生息していて、属性は何で、ヒエラルキーはどうで、どれくらいの生態数がいるのか。
そんなことを延々調べるのが、私のライフワークだ。
「ほら、この間、エッジに召喚獣だかか何だかが来て、大騒ぎになったでしょう?あれってもしかしたら、他の地域の生態系の変化も影響してるんじゃないかと思って」
生態観察はもちろん、サンプルが必要な時にはモンスターを殺すことだってある。
正面きってだと間違いなく私の方が死ぬから、遠くから狙撃をしてだけれど。
メテオが迫ってきていたときはモンスターも凶暴化していたから、何度か死にかけたなあ……。
冗談抜きでデッドオアアライブだった当時を思い出して、遠い目になってしまう。
「私よりも、クラウドの方が気をつけてね。この辺りは地味に嫌な感じのモンスターもいるし、結構危ないから」
「俺は大丈夫だ」
「いやいやいや、信用できないって。本当に気をつけてね?」
放っておいたらそこら辺で転んで怪我をしそうな人だ。
モンスターに会ってしまったら、一体どうなることやら。
何度も何度も念を押すと、さすがにクラウドも嫌な顔になった。
「少なくとも、よりは戦える」
「そう?急がなくていいから、危ないことはしないでね」
「ああ。3日ほどで、また引き取りにこれると思う」
「3日……その頃には多分、ゴンガガの手前くらいまで行けてるかな」
明日の昼にはコスタ・デル・ソルに着いているから、希望としてはその辺りまで行っていたい。
ああ、でも、生態系が大きく変わっていたら、とてもそこまでは行けないか。
色々と調べることが追加されるし、忙しくなりそうだ。
「コスタ・デル・ソルに着いたら、一度連絡をちょうだい?どこにいるかをまた伝えるね」
「野宿はあまりするなよ」
「なるべくね。大丈夫、寝る時には樹の上で寝るから!」
モンスターは地面の上を歩くものが大半だから、樹の上にいればまず安心だ。
自信たっぷりに答えると、頭痛をこらえるような顔をされてしまった。
「……そういう問題じゃないだろう」
「え?今まではそれで平気だったけど……」
樹の上まで這いあがろうとする根性のあるモンスターは、少なくとも今まではどこにもいなかった。
狙撃をするのも当然、樹の上からだ。
何がいけないのかと首を傾げると、クラウドは軽くかぶりを振ってからため息をついた。
「……樹の上を生活範囲にしているモンスターだっているだろう。ほとんどが無害で、単なる動物と変わりないけど」
「え?そうだったの?」
「発情期だけ凶暴になるのもいるはずだから、気をつけた方が 」
「それ、どこにいるの!?なんて名前!?」
そんなモンスター、初めて知った。
研究を始めて5年、フィールドワークに出るようになってから2年。
まだまだ勉強が足りないようだ。
今回の調査が終わったら調べ直そうとメモを取り出して訊くと、クラウドが呆気にとられたような顔になる。
「……本当に、研究が好きなんだな」
「好きっていうか、何ていうか……モンスターのことがよくわかれば、もっと安全に旅行ができるでしょ?」
モンスター避けのアイテムを作ったり、毒を受けた時の血清を作ったり。
私のような一般人も、もっと気軽に旅行ができるようにしたい。
「そのためにはまず、モンスターを知ることが大切じゃない」
「……変な奴だな、あんた」
大真面目に言った私に、クラウドは苦笑して呟く。
その表情が今までで一番リラックスして見えて、何だか嬉しくなって笑ってしまった。
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