「ぃ、すー」
「そうよ、サラ。頑張って」
「え、ぃす」
「エリスよ。私はエリス」


今は、言葉の練習中だ。
喉がぎゅんってなって、うまく声が出てくれない。


エリス、エリス。
私に笑いかけてくれる、エリス。

エリスってちゃんと言えたら、次は光を呼ぼう。




   そういえば、光はなんて名前なんだろう?




それから何度も何度も言い直して、ようやく喉のぎゅんって感覚がなくなってきた。


「えーりぃ、すー」
「そう!そうよサラ、私はエリス!!ああ、ちゃんと呼んでくれたのね!!」


失敗しないように注意しながら声を出したら、感激したようなエリスに抱きつかれる。

ふわふわ、温かい。
いい匂い。
金色が頬にかかって、ちょっとくすぐったい。

小さく身をよじって頬をゆるめると、エリスはさらに感動したように瞼を震わせた。


「笑った…サラが、笑った!!」


サーに報告しなくては!と張り切るエリス。
そうだ、光の名前を訊かなくちゃ。


「え、りーす。さー、だぁ、え?」


くいとエリスの服を引いて訊くと、エリスはまたぎゅうと私を抱きしめながら早口で答えた。


「サーはサー・セフィロス。セフィロスとおっしゃるの。あなたを連れてきたあの方よ、わかるわね?サーはあの年でソルジャー1stのトップ!英雄と呼ばれる方よ。私とロイドは、その護衛兼側近。まあ、あの方に護衛は必要ないんだけど   いらない虫を払うくらいは必要でしょう?」


……ええと、よくわからなくなってしまった。
つまり、光はサーで、サーはセフィロスなのかな?
ということは、光はセフィロスでいいんだろうか。


セフィロス。綺麗な名前。
素敵。素敵。


「せひ、ろす」
「そう、セフィロスよ」
「せふ、いーろす」


フィの発音がうまくできない。
どうやるんだっけ。
ええと、どうやればあの音が出てくれるんだっけ。


「ひー、ふー、ひー、ひぃー」


駄目、ちゃんと言えない。
こんなんじゃ、光   じゃなかった、セフィロスに言えない。


「ふ、ふぃー、ふぃー!!」


言えた!
嬉しくて思わずエリスを見ると、とても優しい目でうなずいてくれた。


「せ、ふぃー、ろす!!」
「そうよ!よく言えたわね、サラ」


頭をなでられるのは、好き。
温かい手が気持ちいい。
エリスの手は、柔らかくて温かい。


   セフィロスの手は、どんなだっけ?


サーを呼ぶから待っていてねと、エリスが何かに手を伸ばした。


あれは何だっけ、何回かエリスやロイドが使ってるのを見たことがあるけれど。
教えてもらったこともあるはずだけれど。


「サー?サー、できる限りすぐにおいでください。サラが言葉を話せるようになってきました」
   この案件が片づいたら、そちらに向かう』
「イエス・サー」


   ああ、そうだ。

遠くの人と話をするための道具だ。
あのボタンをいくつか押すと、お話しできるんだ。
どうしてそんなことができるのかはよくわからないけれど、今度こそ忘れないようにしなくっちゃ。


せふぃろす、せふぃろすと繰り返しながらそう考えていたら、シュンという音がした。


   エリス、サラは」
「こちらです、サー」


表情のないセフィロスが、私を見る。
何かを言われるのかと首を傾げても、セフィロスは何も言ってくれない。


どうしたんだろう、何が起きたんだろう。
セフィロスが滅多なことじゃ怒らないってわかったけれど、それでも怒られるようなことをしちゃったんだろうか。


びくびくと様子をうかがっていると、エリスにそっと背中を押された。


「ほら、サラ。サーのお名前を呼んでさしあげて」


名前   名前?

もしかして、セフィロスはそれを待っているんだろうか。
大きく息を吸って、あの難しい発音を間違えないように注意して。




「せふぃろす」




一言一言大事に呼んだら、セフィロスがぴくりと動いた。

ぶたれるのかなと思ったけれど、もう一度呼んでみる。
私、やっとセフィロスを呼べるようになったんだから。


「せふぃろす、せふぃろす」


ゆっくりとこちらに近づいてくるセフィロスに、間違えないように気をつけながら何度も繰り返し呼ぶ。


「せふぃ   
「……よく、やった。サラ」


ゆっくりと抱き上げられて、頭をなでられて。
嬉しくてくすぐったくて、セフィロスの温かい胸に頭をすりつけた。

そうしたら、セフィロスの身体が固くなって、やっちゃいけなかったのかと反射的に頭を離す。
けれど、その頭をセフィロスがぎこちなく引き寄せてくれて、慣れていないような手つきでなでてくれた。
それが嬉しくて、なおさら強く頭をこすりつける。


「せふぃろす、ひかり、きれい」
「光?何のことだ」
「せふぃろす、わたしの、ひかり。きらきら、きれい」


こんな私に、優しくしてくれた。
こんな私に、名前をくれた。
こんな私に、世界をくれた。


だからやっばり、セフィロスは光。


髪の毛だけじゃなくって、全部綺麗。
綺麗。綺麗。


セフィロスを見上げると、困ったように笑ってくれた。
うん、その笑顔も、やっぱり綺麗。