見つけて。
僕を見つけて。
僕を捜して。
僕はここにいる。


早く。
早く。早く。早く。
手遅れになる前に。




……彼の声が聞こえるようになって、どれくらい経つだろうか。
こんなに切羽詰まった声は、出会って初めてかもしれない。




   !!
早く、早く!!





懇願するような声に弾き出されるように、私はベッドから飛び起きた。


   どうしたの?」


小さく呟いて、トランス状態に入る。
彼が教えてくれた方法で。


   どうしたの?


もう1度問いかけると、突き刺さるように彼の声が飛び込んできた。


『ああ、よかった!事故に遭った。まだ仮死状態だけど、このままじゃ死んじゃう。助けて!!』
『事故!?どこで』
『それより、は今どこにいる?』


急くように出される矢継ぎ早の言葉。
それ自体が事態の切迫性を表していて、私もただ簡潔に問いに答える。


『え!?すぐ近くだ。どうしてそんなとこに   まあいいや、ダイバーを雇って今から言う場所まで来て』




ダイバー?湖?
そこに何が   まさか!




『僕は東の湖岸から中心に2キロほどの場所にいる。急いで!』
『すぐに行く!!』


ばちり、衝撃と共にトランスから戻る。
すぐに携帯から消防、レスキュー隊へ。


Tシャツとハーフパンツを引ったぐって着替えると、そのまま自転車で全速力。
湖に着いた頃には、もう消防もレスキュー隊も到着していた。


「君、ここは今   
「通報した者です!東の湖岸から中心に2キロ付近を!青いビニールシートに包まれて、重石をつけられてるはず!!」


引き留めようとしたレスキュー隊員にすがりつく。
何を言ってるんだという怪訝な顔をされたけど、そんなことはどうでもよかった。


「ジーンを、ジーンを!!」


心優しくて悪戯好きな、私の友人を助けて!


急ピッチで進められる捜索を祈る思いで見つめていると、ややして船の上に青いものが引き上げられるのが見えた。



「ジーン!!」



あれじゃまるで、死体をくるんでいるみたい。
真っ暗になりそうな視界で走りだそうとすると、すぐにレスキュー隊に止められた。


「危ない!」
「たすっ、助けて!助けて!!」
「助けますから、絶対に。だから落ち着いて!!」


岸辺に運ばれる間にも、船上で心臓マッサージと人工呼吸をされてるのが見える。
仮死状態の時って、心肺停止から何分までなら助かる可能性が高いんだっけ。


3分?5分?それとももっと?


青ざめたジーンが、たくさんの人に囲まれてヘリに乗せられる。


「私も一緒に連れてってください!」
「ヘリは要救助者しか乗せられないんです。定員がありますからね」


必死にすがりついたレスキュー隊員にそうなだめられ、代わりにといつの間にか来ていたパトカーに乗せられた。
これで搬送先まで連れていってくれるんだろうか。


そう思った私は、とても甘かった。
何故かそのまま警察まで連れて行かれ、狭苦しい取調室に閉じこめられた。




「どうしてあそこがわかったんだ?」
「だから、ジーンに聞いて   
「気を失っている人間から、自分の沈んでる場所を教えてもらったってのか?」
「でも   


「ふざけるな!!」




ばん、と机を叩かれて、思わず小さく悲鳴がもれた。
何を言っても信じてもらえなくて、ジーンの状態も教えてもらえなくて、気がどうにかなりそうだった。


「じゃあ、ジーンを呼んでくださいよ!ジーンに呼ばれてあそこに行ったんだから!!逮捕でも何でもすればいいでしょ!?どうせ誤認逮捕で恥をかくのはそっちなんだから!名誉毀損で賠償請求してやるんだから……っ!!」


半泣きでやけくそになって叫んだら、さすがの警察もひるんだみたいだった。


「ジーンはどこにいるの!?ジーンは無事なの!?ジーンに会わせて!!」


もう限界だ。
こらえていた涙があふれて、汚い机に泣き伏す。


ジーン、ジーン、助けて。


トランスなんてできる状態じゃない。
ただ祈るようにそれだけを思っていると、若い警官が慌ただしく駆け込んできた。


「警部!」


向かいに座っている警官(警部だったらしい)がその人にささやかれた瞬間、息をのむような気配がする。


「あー……その、申し訳なかった。被害者の男性自身から、君に助けを求めたという証言が入ったらしい」
   ジーン、助かったんですか?」
「ああ。搬送先を知らせるから、もう行ってよろしい」




   は?




散々勘違いで怒鳴りつけておいて、謝罪は始めの「すまなかった」だけ?


「謝罪はないんですか?」
「は?」


間抜けな顔になった警部をぎりと睨んで、もう一度ゆっくり繰り返す。


「あれだけ散々勝手に責め立てて怒鳴りつけて、すまなかったの一言で全部なかったことにするんですか?」
「いや、それは   
「言い訳は結構です。つまり、そういうことなんでしょう?」


ぴしゃりと言って、警部を見据える。



「……やっぱり、警察は信用できませんね。この後どうするかは、よく考えて決めさせてもらいます」



もう、こんな利己的な人達と話したくない。


警部が慌ててた気もするけど、ジーンがいる病院の名前だけ聞いてさっさと警察を出た。
ふと携帯を見ると、お母さんからメールが何通か入っている。
急に出てきたから、心配してたみたいだ。


とりあえず、友達が事故に遭ったこと。
友達の様子を見に病院に行くことをメールして、義理堅く警察が運んでくれてた自転車のペダルを漕いだ。


ジーン、ちゃんと寝てるかな?
じっとしてるのがあんまり好きじゃない人だから、動けるようになったらすぐに無理矢理退院してそう。


くすりと笑った瞬間、思いがけない声が飛び込んできた。