!今どこにいる?』


いきなり割り込んできた声に驚いて、思わず転びそうになってしまった。
ぐらぐらするハンドルを必死に立て直して、道の脇に寄って止める。


   どうして?


『ジーン!?』


何で、今はトランスなんてしてないのに!
寝てもいないのに!


『……やっぱり繋がったか』
『何が?ねえ、これどういうこと?』
『後で話すよ。とりあえず今は、病院まで来てくれる?』


ジーンは話すと言ったら必ず教えてくれる。
だからとりあえず、疑問はそのままにペダルを踏む足に力をこめた。












病院の臭いは、ちょっと苦手。
白いナトリウムも相成って、無機質だってことを強調しすぎていて。


看護婦……じゃなかった、看護士さんに病室を教えてもらって入ると、真っ白な病室の真っ白なベッドの上でジーンが苦笑していた。


「ジーン、起きあがって平気なの?」
「まだふらふらするけどね。今日中に退院したいから」
「駄目だって!」


けろりととんでもないことを言ったジーンに突っ込んで、その肌の青白さにぞっとする。


「まだ気がついたばっかりなんでしょ?絶対駄目」
「うーん……ゆっくり休めるなら休みたいんだけど、実は保険証を持ってないんだよね」


てへ!


……てへ!じゃないし!!


「お金かかりまくりじゃない!」
「うん、実は今日だけで所持金が底を尽きそう」


だから、の家にしばらく居候させてほしいんだ。
さりげなく言われた言葉に思わずうなずいて、一瞬後に真っ青になった。


居候?ジーンが、うちに?


……無理無理無理!
お母さんに何て言ったらいいの!?


「大丈夫だよ、僕に任せて」


自信たっぷりにジーンが笑うものだから、この人なら何でもありかもしれないと、不覚にもそう思ってしまった。
だってジーン、黙ってれば絶世の美少年だもの。


「……交渉は全部、ジーンがやってね」
「OK!それじゃ、まずはここを出ようか。出費はなるべく控えたいから」


ぱっと笑顔になったジーンが、言うが早いかナースコールを押す。


はおばさんに電話して、車で迎えに来てもらってくれる?」


にっこりと輝く笑顔で病室を追い出されたから、ジーンと看護士さんの間でどんなやりとりがあったかはわからない。
ただ、どうにかお母さんをいいくるめて病室に戻ったら、ジーンがご機嫌で帰り支度をしていたということだけは理解できた。


「お帰り。来てくれるって?」
「うん、ジーンのことは単に友達ってしか言ってないから」


もう、どうにでもなれ。
言い訳は全部ジーンに投げた。


お母さん、ものすごく不審がってた。
それはそうだろう、高校の友達が事故に遭ったなら、ちょっとした騒ぎになってそうなものだから。


とてもじゃないけど、お母さんを言いくるめるほどの能力は、私はまだ身につけていない。


「大丈夫、むしろその方が都合がいいかな」


蠱惑的な微笑みは迫力満点で、それだけで反論も疑問も全部封じ込められてしまった。
まともに歩けないジーンを支えて病院を出て、来てくれた車に乗り込む。


、この子   
「お母さん、話は後で。ジーンが自分で話すって」


だから、まずは家まで。


自転車はトランクルームに無理矢理突っ込んで、2人で後部座席に乗り込んだ。
ジーンの顔色はまだ真っ青で、本当に大丈夫なのか不安になってくる。


「ジーン、ほんとに大丈夫なの?」
「うん、PK使った後のナルほどじゃないかな?膝を貸してもらえるとありがたいけど」


PK……サッカーでもやってるのかな?弟君。
でも、ジーンの話を聞く限り、とてもそんな爽やかなことをやるキャラじゃない気がするんだけど……。

むしろ部屋の中に閉じこもって、延々実験してそうなイメージ。

ジーンの頭を膝に乗せながらそんなことを考えて、ふとジーンについて何も知らないことに気づいた。


どこに住んでるんだろう。
同い年のはずだから、高校生だよね。東京に住んでるのかな?
やっぱり頭がいいんだろうか。


それも後で訊いてみよう。

そんなことを思いながら、ぐったりと横たわるジーンの髪をゆっくりとなでる。
女として敗北感を覚えるほどさらさらつやつやだ。


「お母さん、ジーン死にかけたんだから、あんまり激しく運転しないでね」
「はいはい」


過保護と言われようが何と言われようが、私にとってジーンはかけがえのない友人であり、先生であり、パートナーだった。


ジーンがいたから、私は自分を見失わずに済んだ。
不思議な力があることを教えてくれて、暴走しないように抑え方を教えてくれて。




「……初めましてだね、ジーン」




生身で会うのはこれが初めて。
何だか不思議な関係だけど、それでもいいやと思える。
意識をとばしてるジーンにそっとささやいて、身体が落ちないように支える腕に力をこめた。












ジーンを客間に寝かせて自転車をトランクから降ろそうと四苦八苦している間に、どうやらお母さんの丸め込みは完了したようだった。


「これからよろしくね、
「だから、何をどうやったの……」
「ナイショ」


うふふと笑う姿は確かに天使のようだけど、いろんな悪戯の話を聞いている私としては素直に見惚れられない……。
お母さんは妙にジーンに同情的な顔をするし、本当に何を言ったんだか。
知りたい気もしたけど、知ったら性格の悪化に影響しそうだったから、楽しそうな顔をしているジーンからそっと目をそらした。


そんな感じであっさりとうちの居候になったジーンですが、そういえば今まで泊まってたホテルとかは引き払わなくていいのだろうか。

というわけで訊いてみたら、「あ、手続きしてきてくれる?」と輝かんばかりの笑顔で言われました。




……狙ってたわけね、ジーン……。




まあ、おかげでジーンの本名がわかったから、それでチャラにしよう。うん。