聞こえた言葉が信じられなくて、ぱちりと瞬く。
またタチの悪い冗談だと思ってまじまじと見つめると、居心地悪そうな表情でふいと目をそらされた。


「……信じられないのはわかる」
「うん、信じられない」


ものすごい本音を返すと、シリウスの顔がますます気まずそうに歪む。
けれど文句を言うことはなくて、それどころか逆にもう一度謝られた。


「悪かった」


一体どういう風の吹き回しだろう。
あんなに睨んでいたのに。
私のこと、嫌いなのに。


首を傾げてシリウスを見ていたら、その頬がみるみる赤くなった。


   何だよ!」
「何だよって……急にどうしたのかと思って」
「だから、悪いと思ってんだよ!」


やけくそのように怒鳴って、シリウスが乱暴に自分の頭をかき混ぜる。
そんな格好も様になっているのだから、本当に美形って不公平だ。


まあとにかく、謝ってくれたのなら、もう用事は済んだだろう。
いくら人気がないといえ、いつ誰に見られるかわからないこの状況は早く終わらせたかった。


「じゃあ、私、もう行くね」
「え   
「マクゴナガル先生に、ちょっと質問があるから。さよなら、シリウス」
「ちょ   待てよ、!」


さっさと踵を返して行こうとしたら、慌てた様子で引き止められる。
微妙に嫌な顔を隠しきれずに振り向くと、もどかしそうなシリウスの顔があった。


謝ってもらって怒りもほぼ解けたとはいえ、相手は超絶有名人。
本音をいえば、ものすごく関わり合いになりたくない。


離してくれないものかとぶんぶか腕を振ってみても、シリウスの手は離れなかった。


……うん、わかってたけど。
だけど、もういい加減放してよ……!(誰かに見られたらどうするの!)(目立つのは嫌!)


「その   許して、くれる……の、か?」
「うん、許す許す!許すからもう離して!」


空気を読まないシリウスに必死でうなずくと、ものすごく訝しげな顔をされた。
ちなみにもちろん、手は放してくれていない。


「放してってば!」
「……お前、何か適当じゃねえ?」
「え!?そ、そんなことないよ?」


うさんくさそうな口調で訊かれて、慌ててかぶりを振る。


棒読みなのは気のせいだ、気のせい。
気にしたら負け!


さらにぶんぶんと腕を振っていると、ようやくのことで放してくれた。
この隙に!と急いでダッシュで逃げる。


後ろからシリウスの声が聞こえてきたけれど、そんなのは無視!
私の平穏な生活……!(こっちの方が何倍も大事!)




マクゴナガル先生の部屋のドアをノックすると、いつもの落ち着いたトーンで入室を促される。

やっぱり、こういう穏やかな時間が一番好きだ。
まったりとできるのがいい。


先生に色々と質問をしながら、ふとさっきのシリウスの言葉と表情を思い出した。


ずいぶん必死だったな、シリウス。
   思っていたよりも、悪い人じゃないのかもしれない。