もう、もう、もう、もう!!
何なのよ一体、いい加減にしてよ!








部屋にまで入ってきたり、廊下で待ち伏せしていたり、シリウスのわけのわからない行動が続いている。


リディと一緒の時は追い払ってくれるけれど、一人の時はそうもいかないのがつらいところだ。
遠くに発見した瞬間に回れ右をして逃げているけれど、今回みたいにつかまることもしばしば。


「はーなーしーてー!」
「ばっか、逃げんなよ!」
「逃げるに決まってるでしょ、馬鹿!」


必死に暴れて抵抗するけれど、男の子の力にかなうはずもない。
それが悔しくてたまらなくて、噛みしめた口の奥から変な音が出た。

人の多い場所だとまぎれて逃げやすいけれど、こんな風に人っ子一人いないと瞬発力と持久力の問題だ。
向こうもそれに気づいたらしく、最近ではこうやって人気のない場所でばかり待ち伏せされていた。


もう、構わないでほしい。
正直に言ってあの時のあの一言はいまだに胸に刺さっているし、ちょっと油断すれば汚い言葉が口からあふれてきそうだ。
おまけに目立つばっかりで、最近本当にいたたまれない。


返して、私の平穏な毎日……!


悔しくて切なくて悲しくて怖くて、色々な感情がごっちゃになってくる。


「ううう……」


食いしばった歯の間からもれる声と一緒に、涙がじわじわにじんできた。
つかまれていない方の腕で乱暴に拭っても、止まる気配もない。


止まれってば!
こんな奴の前で泣きたくない!!


   お、おい、お前……」
「うるさい、黙って!」


力一杯顔をそむけて、せめて泣き顔を見られないようにする。
ぐいぐいと目元をこすり続けていたら、不意にぐいと肩をつかまれた。


   !や……っ!!」
!」
「はな   !!」


焦ったようなシリウスの腕を振り払おうとした瞬間、目の前が真っ白になった。
   違う、赤と黄色もぼやけて見える。


これはもしや、シリウス?


「泣くなって!んでもって、俺の話も聞け!!」
「……っ!」


もがけばもがくほど、押さえこまれる力は強くなる。


どれくらいそうしていただろう。
疲れ果てて抵抗をやめると、頭の上でほっとしたように息を吐く音が聞こえた。
腕の片方が外されて、ゆっくりと背中を上下する。
あまりにもおっなびっくりのそれに、私の方が驚いてしまった。


まるでどうしたらいいのかわからないみたいなんて、シリウスのイメージとは180度違う。
何となく子供扱いされている気もしたけれど、どうでもいいような気持ちになってしまった。


「落ち着け、な?」
「……落ち着いた。放して」


ぽつりと答えた声は、まだちょっぴり涙がにじんでいる。
涙自体は止まっているのに、その声だけでシリウスがおおいに焦る気配がした。
それに構わずぐいと目の前を押すと、思ったよりもあっさりと離れていく。
視線を強くして斜め上を見上げると、何とも情けない表情のシリウスがいた。


「……何?」
「……いや、その……」


視線の先のシリウスは上を向いたり横を向いたり、髪をぐしゃぐしゃとかきまぜたり。


ずいぶんとそんなことを繰り返した後、決意を固めたように小さく息をついた。
ついさっきまではちらりとも合わなかった視線がぴたりと正面から交わる。
そのまっすぐさにたじろいだ瞬間、綺麗な唇が短く動いた。




   ごめん」