どことなく世間が浮き足立っているのに気づいて、は小さく首を傾げた。


はて、一体何があるのだろうか。
やたらとカップルが増えている気がするし、女性陣の気合いの入り方が半端ない。

いやいや、そんなことより早く手元の書類を処理しなければ。


どっしりと重さを主張する腕の中の物を抱え直して、はさっさと執務室に急いだ。


「セフィロス、科学調査班から   何でいるの、ザックス」
「よっ。お疲れさーん」


ひらひらと呑気に手を振るザックスに呆れた目を向け、はとりあえず自分のデスクに荷物を下ろす。


「今日はこれだけで終わりだと思うよ。ついでにあちこち回ってきたけど、どこももうないって言ってたから」
「そうか」


軽くうなずいたセフィロスは、サインの手を止めて顔を上げた。
それに気づいたが、軽く笑う。


「休憩?」
「ああ」
「わかった」


手早く紅茶を入れて、自分とセフィロスの前だけに置く。
わくわくと待っていたザックスが思わずかくりと口を開ける。


「え、、俺には?」
「仕事、してね?」


お茶がほしいなら、それに見合った働きをしろ。


無言の圧力をしっかりと受け取ったザックスは、そろそろとのデスクからひとつかみの書類を引っ張った。


「へーい……」


がくりとうなだれながらもペンを握ったザックスににっこり笑い、が改めてザックスの分の紅茶を注ぐ。


   カモミール?」
「うん。セフィロスは仕事に根詰めすぎだからね」


実はあまりカモミールが好きではないは、しかしそんな素振りは見せずに微笑んだ。
香りに気づいて呟いたセフィロスも、の言葉に小さく笑う。

ちょっとした心遣いが、素直に嬉しかった。


「ところでさ。最近世間が妙に騒がしいんだけど……何かあったの?」


ちびちびとカモミールを飲みながら、がふと気付いてそう訊いた瞬間、2人がびしりと固まる。




「……あれ?」




何か悪いこと、言った?


一体どうしたのかと戸惑うに、ザックスが唖然と開いていた口を無理やり閉じる。
ぎぎぎ、と音がしそうな勢いで無理矢理首を回し、きょとりとしているを見た。


「おっま……それ、マジで言ってんの?」
「……ってことは、何かあるの?」


大きなイベントでもあるのなら、この浮かれようも納得できる。
なるほどとうなずきかけた彼女の肩をがっしとつかみ、ザックスはこれでもかとにいわんばかりに揺さぶった。


「クリスマスだよ、クリスマス!お前、どんだけ世間から隔離されてんだよ!?」
「クリスマス?」


こちらにもそんなものがあったのか。
というか、最近寒くなったとは思っていたが、12月だったのか。


カレンダーなどなくても、日々の予定が逐次連絡されるシステムが仇になったようだ。
世間同様、妙にそわそわしていたクラウドを思い出して、知らなかった自分に苦笑した。


「それじゃ、サンタクロースっているの?」
「いるに決まってるだろ?どんな田舎にいたんだよ、お前」


一応の確認で訊いてみたら、ザックスにこの上なく呆れた目でため息をつかれた。
ならば問題ないと、は唇をつり上げる。


「ね、クリスマスパーティーしよ?」


ザックスはもう予定があるかもしれないが、セフィロスは間違いなく当日も仕事をしているだろう。
それに、親元を離れて頑張るクラウドに、こんな時ぐらいごほうびをあげたかった。


「たまにはいいな」


意外にもあっさりと微笑んだセフィロスとは対照的に、こちらも意外にもザックスが残念そうに眉を下げる。


「あー……悪ぃ、俺24日はちょっと……」
「彼女とデート?」
「彼女……なのかな。うん、そうだといいな!多分そんな感じで!」


の言葉を噛みしめたようにはしゃぐザックスが新鮮で、思わずセフィロスと顔を見合わせた。


……これはザックス、意外にも本命なのかもしれない。


女の子はみんな可愛いと豪語し、フェミニストっぷりを隠さないザックス。
調子のいいことばかり言っていたが、本命ができたなら喜ばしいことだ。


「無理にじゃないから、予定があるならそっちを優先してね。ただ、ちょっとは顔出してほしいかな」


この中でクラウドと一番古くからの友達なのは、間違いなくザックスだ。
顔を見るだけで、彼の気持ちもずいぶん違うだろう。
それをわかっているザックスも、相手との待ち合わせを遅らせてもらうとうなずいた。


「じゃあ、後はクラウドのクリスマスプレゼントだよね。サプライズにしたいから、どんなのがいいか訊けないし……」
「へ?何でクラウドだけなんだ?」


みんなで交換するんじゃないのかと首を傾げたザックスの頭を小突いて、がぴっと立てた人差し指を回す。くるくるくるり。


「クラウドはまだ15なんだよ?そんな子供からもプレゼントもらおうっての、あんた」


しかも私達ソルジャー、あの子一般兵。




「給料からして違うでしょうが」




ソルジャーの方が明らかに手取りが多いでしょ。


畳み掛けるようにそう言われ、ザックスががくりとうなだれた。


「りょうかーい……」


それでもあれこれと考え始めたあたり、結構乗り気なのかもしれない。
お互いクラウドへのプレゼントがかぶらないように軽く打ち合わせ、ついでにプレゼントはいくらまでと遠足のお菓子のようなことも決める。


そうでもしないと、セフィロスあたりが際限なく金をつぎ込みかねないと、が本人に聞こえないように小さくぼやいた。
ザックスも深々とうなずいて、紅茶をぐいと飲み干す。


「んじゃ、俺はそろそろ行くな。また用意するもんがあったら、メールなり電話なりくれよ」
「オッケー。それじゃあね   ってこらー!!仕事してきなさい、この元補佐官!!」


にこやかに手を振ったがはたと気づいて叫んだ時には、すでにザックスは脱兎のごとく逃亡した後だった。