長い人生、何があったって不思議じゃあない。
人はよくそう言うけれど、それにもいい加減限度があると思うのだ。
間違っても、ネコ型とか大嘘ぶっこいてる某青狸とか4号くらいまでいる(しかも1匹猿が混じってる)空飛ぶ正義の味方とか、はたまた魔法の国からやって来たちょっとおちゃめ☆な女の子なんか、存在してはいけないと思う(何で微妙に古いのかは突っ込んじゃいけない)。
少なくともそれは、「あってはならないこと」の中に入ると思う。
いや、思ってた。
なのに何で、私は今ここにいるのだろうか?
整理してみよう。
私は塾の自習室で寝ていた。(良い子は真似しないでね!)
目が覚めたら道路に転がって いた。
以上。
……わかるか!
もっと信じられないことをあげてみよう。
目の前にすっごく見覚えのある人がいます。
帽子かぶってテニスバッグしょってファンタ飲んでる人。
え、ちょっと、レイヤーさん?
珍しく私好みの顔してるんですけど。
そう思ってファンタを見てみると、「Ponta」と書いてありましたとさ。
もちろん、本物の印刷。
……お前かよ!(何となくわかってたけどな!)
「ねえ、あんた」
そりゃ私は腐女子と言われても仕方のない奴かもしれないよ?
でも、さすがにここまで頭腐っちゃいないと思ってるんだけど。
「ねえ」
これは夢?夢なの?
そういえば前にもフルバの夾君が出てきたことあったっけか。
その前の日にも誰か出てきた気がする。
そうだよね、これはきっと疲れすぎて見ちゃった夢なんだよ!(それにしては地面に転がってるなんていうあんまり嬉しくないシチュエーションだけど)
そうか、夢なのか。
それならわかるわな。
「ちょっと、聞いてるの?」
「あいたっ」
生意気ルーキーが、ラケットで軽く私を殴りやがった。痛いっつの。
ん?痛い?
「痛い」
頭にはいまだに微かな痛みが残っている。と、いうことは。
……現実なのかよ!?そうなのかよマイゴッド!!
「少年少年」
「何?」
ぱたぱたと手招いてリョーマ(仮)を呼ぶと、訝しげにしながらも返事をしてくれた。
「今日は何年の何月何日かわかるかい?」
こっちはあくまで大真面目に訊いたんだけど、リョーマ(仮)は思いっきり「こいつ大丈夫かよ」みたいな目で見てきた。(ほっとけ!)
「……2000年の4月20日だけど?」
「 2000年?」
ちょっと待て。ちょっと待て!
慌てて鞄(横に落ちてた)から学生証を引っ張り出す。年号を確認。
ついでに中を開いて、定期購入の判子を確認する。
間違いない。
私は確かに、2003年にいたはずだ。
「少年」
「リョーマ」
「は?」
急に言い返されて、とっさに変な声が出た。そんな私を華麗に無視して、リョーマ(確定)は不機嫌そうに繰り返す。
「少年じゃなくて、俺はリョーマ。で、あんたは?」
なんと自己中……いやいや、マイペースな奴なのか。
呆れたけど、訊かれたからには答えなければいけない。
「。。一応、中3……に、なるのかな?」
ここが2000年ならば、私は中3ということになる。
戸惑いながら付け足すと、リョーマは訳がわからないという表情になった。
「は?一応ってどういう意味さ」
「や、自分が何なのかよくわかんない……」
「は?」
リョーマがますます怪訝そうな顔になる。どうでもいいけど、よく疑問系を言う子だな。
「記憶喪失とか?病院に行ったほうがいいんじゃない?」
「保険きかないから嫌」
間髪いれずにすぱっと切り返して、私は頭を抱えて眉根を寄せた。
制服着てるから身元が 。
いやいやいや、身元が割れたら逆にまずいかもしれない。
こちらでのフェリスにも自分という存在がいるとは限らないし。
てか、いたらいたでまた困ることになるし。
「警察は?」
「……施設で保護されるの、ヤだ」
「わがまま」
「返す言葉もゴザイマセン」
それでも、嫌なものは嫌だ。
自分の存在が酷く曖昧なこの状態では、どうにも動きようがない。
「じゃあどうすんのさ」
「どうにもできないから困ってるんじゃん」
ちょっぴりすねて答えても、私じゃ可愛くもなんともありゃしない。
きっとリョーマならお姉さん方がメロキュン(古)になっちゃうんだろうなあ……。
女の私より可愛いってどうよ……。
ちくしょうと思いつつ、とりあえず鞄を持って立ち上がる。
それを見ていたリョーマが、ちょこんと首を傾げた。(だから可愛いってばあんた!)
「どっか行くあてあんの?」
「いや?」
あったら記憶喪失じゃありませんって。
や、それも違うけどさ。
「ふぅん……じゃ、とりあえずうちに来てみたら?」
ずいぶんあっさりとした反応 って。
「え?」
何か今、すっごくありえない言葉を聞いた気がする。
この、生意気さが売りの身長160cmに満たない青学ルーキーが、何て言いました?
「来ないの?今夜どこに泊まるつもり?」
うっわその顔!その顔こそリョーマ!
「や、でもさ、今しがた会ったばっかの人ん家に転がり込むってのはずうずうしいって言うか何て言うか……」
そりゃ、リョーマに会えたのは嬉しいっちゃあ嬉しいけどさ、この世界に永住するつもりはさらさらないし。
むしろ早く帰りたい。
言いよどんだ私をどう思ったのか、リョーマはまたまたあっさりと言ってくださった。
「うち、寺だし。家とは別々になってるけど、1つぐらいなら空き部屋もあるよ。今晩だけでも泊まってけば?」
リョーマの言うことは正論だ。
でも、でも。
「ていうか、その格好でうろついてると、夜中に警察に補導されると思うけど」
「よろしくお願いシマス」
補導は嫌だ。
死んでも嫌だ。
思わず即答した後に、自分の失態に気づいて悶えてももう遅い。
にやりと笑ったリョーマは、どこかめんどくさそうにしながらもぐいと私を引っ張った。
「え、ちょ、待っ」
「俺ん家、こっち」
ちくしょう、チビのくせに意外と力がありやがる。
必死の抵抗も何のその、あっという間に越前家の前に着いてしまった。
「……コンチクショウ」
小さく小さく呟いた悪態は、運良くリョーマには届かなかった。
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