バスケットに詰めこむのは、色とりどりのキャンディーやクッキー。
カラフルな服を着て、思いっきりお化粧して、さあ出かけよう。






トリックスター






「ハロウィンパーティーやるぞ」
「は?」


突然脈絡のないことを言い出した跡部に、向日は思わず間抜けな声を出した。


「いつやんだよ、んなもん」


宍戸も怪訝な表情で首を傾げる。

ハロウィンだろうが何だろうが、テニス馬鹿の彼らが練習を中止することなどありえないのに。
一体どういう風の吹き回しだろうか。


「……ちゃん?」


誰もが不思議に思う中、もしやと呟いた滝が呼んだその名前に、誰もがはっとした表情になる。
いつの間にかいるのが当たり前のようになっていたその少女の笑顔を思い出し、それぞれの頬がゆるむ。


「当日の練習は4時で切り上げ。そのまま俺の家に直行する」


いいな、と全員に向けて言われたその言葉は、確認ではなく決定事項だ。
もちろん反対するものなどいるはずもなく、跡部は計画に思いを巡らせた。












へれへれへれ。


何とも間抜けな着信音に、思わず首を傾げる。

もう9時。
侑士だって部活で疲れてるのに、こんな時間に何の用だろう?


「はいはーい」
『おー、。急やけどな、31日の夜は外泊してもええようにしとき』
「え?」


何でまた急に。

眉根を寄せたのが伝わったんだろう、侑士の声が苦笑しているようになった。


『跡部がな、何かするらしいで。俺らも4時で部活切り上げや』
「みんなも?珍しいね、景君が部活まで短くするなんて」


誰よりも練習を大切にするべったまなら、何があろうとも練習時間は確保すると思っていたのに。


「ま、いいか。どうする、私氷帝まで行った方がいい?」
『いや、跡部が迎えの車やるっちゅうてる。自分、いつも青学におるん?』
「大体はそうかなあ。多分その日も呼ばれると思うよ」


何だかんだでコートに入り浸っている3年に。


「そういえば、氷帝は引退しないんだ?」
『うちは高等部まで持ち上がりみたいなもんやからなあ。別に練習やめるメリットがないわ』
「そっか」


ブランクがあれば、それだけ元の力を取り戻すのに不利になる。
青学より氷帝の方が効率的なのかも。


「それじゃ、でかけないことになった時だけ連絡するね」
『おう、よろしくなぁ』


電話を切ってから、またリョーマがうるさくなるなあと思い出した。

……どうやってごまかそうなかあ……。
後でばれて怒られるより、始めから文句を言われてとりなした方がよっぽどましだ。

思わず大きなため息が出たのは、仕方がないことだろう。












たまたま誰にも呼ばれず、家でのんびりおば様のお手伝いをしていたら、外で小さなエンジン音がした。


「あら?お友達のお迎えかしら」
「あれ?もうそんな時間か」


時計が見えないところにいたから、時間の感覚がいまいちなかった。


ちゃん、もういいから準備してらっしゃいな」
「はい、おば様」


べったまの家に行くんだからと、いつもよりもちょっぴりいい洋服に着替える。
どうせ食事ですぐ落ちるから、リップも何もしないで下へ降りた。
降りたら、おば様が思いっきり慌てていて何事かと思ったよ。


「おば様?」
ちゃん、あのすごい車がお迎えなの!?」
「すごい車?」


窓からひょいと覗いたら。




……リ ム ジ ン か よ !!(目立ちすぎだろ!!)




乾いた笑いをもらしている間にあっさりとリムジンでさらわれ(これってほぼ誘拐じゃん!)、あれよあれよと跡部邸へ。

ここまでですでに疲労困憊だ。
精神的に。


「よう、


来たかと悠長に笑うべったまを見た瞬間、思わず殴りたくなった私は悪くないだろう。


「……あのさ、景君。お迎えの車は嬉しいんだけど、もうちょっと目立たないのがいいかなあ、なんて思ったりするんですが」
「ああん?十分普通じゃねえか」
「一般庶民の普通じゃないんだよ!」


がうと噛み付いたら、むこうで宍戸とがっくんがそうだそうだとうなずいた。
そうだよね、私おかしくないよね……!


思わず2人と常識を確かめあっていたら、べったまがそれを完全無視で萩にうなずいた。


「滝、頼むぞ」
「任せて」


短いやり取り。
不穏な直感。


「……あー、じゃあ私はこのへんで失礼しようかなあ、なん」
「準備を」


ぱっちん、とお得意の合図で、待ってましたとばかりに広間脇のドアが開いた。
中にいたのは、メイドメイドメイドメイドの皆さん。


「さあお嬢様、こちらへ!」


皆さん輝かんばかりの笑顔で、引きずりこんでくださいました。




「え、あの、ちょっと」
「サイズもぴったり、さすが景吾坊ちゃまですわ!」
「ああ、お化粧をできないのが残念ですわね」
「仕方ありませんわ、坊ちゃまの指示ですもの」




……いつも思うんだけど、このメイドさん達って漫画に出てきそうな言葉遣いだよなあ……。
そんなことを考えながら現実逃避をするしかありませんでした。


何がなんだかよくわからないままに黒い服を着せられて、ようやく解放されたと思ったら次は萩につかまった。


「さ、やろうか」


にっこりと微笑まれて、やばいと思った時にはもう遅い。


「萩君……髪、痛んじゃうよ」
「ああ、やっぱり気にする人なんだ。ごめんねー、これが終わったらたっぷりトリートメント液吹きかけるから」


温めたカーラーでしっかりと巻いて、その間にお化粧。
鏡がないからどんなことになってるのか全くわからない。

萩だから大丈夫だろうとは思うけど……やっぱり怖い!


「は、ははは萩君、変になってない?大丈夫?」
「平気平気、可愛いよ」
「ほんと?」
「本当」


ぺたぺたと丁寧に何かを塗られながら上を仰ぎ見ると、「動かないで」と怒られた……。
どうなってるんだ、コンチクショウ!!