みんな一緒に過ごせたらいいのにね。
始まりは、彼女のそんな一言だった。







温泉ポン!







リョーマにとっては中学最初の、3年生にとっては中学最後の冬休み。
とはいえ、高校になってもメンバーは変わらないため、実感はほとんどないのだが。

雪が降ってもおかしくない寒さの中、それでもひたすらテニスをやっている彼らを見ていたが呟いた。



   もうすぐ、卒業か」
「え?」



聞きとがめた大石が首を傾げると、は我に返ったように苦笑する。

「ううん、何でもない」
「何でもないようには見えないけど……」

心配そうに眉を顰めた大石の横から、リョーマが盛大に顔をしかめての頬に手をあてる。


「酷い顔」
「なんだとコラ」
「そんな顔してると、俺らが心配なんだよ。いいから全部言ってくれない?」


俺達、そんなに信用ないわけ?

怒ったように見えて実は拗ねているリョーマの言葉に、の表情が少しだけ明るくなった。


「ありがと、リョーマ。でも平気だよ、ちょっと寂しくなっただけだから」


もうじき春が来て、3年が卒業して。
テニス部も2年が引き継いでいって、それはとても喜ばしいことなのだけれど。
今までずっと共にいた彼らは、もうコートのどこを探してもいないのだと。

それが寂しかっただけだと、は笑う。


「高等部も敷地は同じだし、コートの場所が変わるだけなんだけどね。もう、みんな一緒なのを見るのもあんまり残ってないんだなあって思ったら、何だかしんみりしちゃって」


いつまでも、変わらず一緒にいられたらいいのに。


つまらなさそうに口をとがらせた彼女を見て、不二と手塚が視線を交わした。
ついでに乾ともアイコンタクト。

   さあ、一つ策を練るとしようか。











3日後、の携帯に喜々とした電話が入った。

、元気か?」
「侑士!久しぶり、冬休み入ってから全然会ってないね」
「せやな、今度昼飯おごったるからデートしよ   あたたたたっ、何すんねん!!」
「うっせぇ侑士、埒があかねぇよ!   あ、!」

押し退けられたらしい忍足と入れ替わるように届いたのは、弾むような向日のもの。
記憶と少しも変わらない声に頬をほころばせながら、も弾んだ声で返す。


「がっくん、久しぶり!みんないるの?」
「おう!んでさ、、今からこっち来いよ!荷物は越前が作ってるはずだし」
「リョーマが?」

何の話かもわからずに首を傾げてリョーマの部屋に行くと、彼はにやりと笑ってボストンバッグを2つ出してきた。


「はい、これ」
「何これ」
「なあなあ、受け取ったか?」

「がっくん、ちょっと待って   そういえば洋服とかが少なくなってると思ったけど……こういうことだったんだ」
「そういうこと。さ、氷帝に行くよ」
「え!?あ、ちょっと!」


慌てるの腕を引っ張ったリョーマに、リビングにいた倫子と南次郎がのんきに手を振る。


「行ってらっしゃい。楽しんできてね」
「おみやげよろしくな!」


何が何だかわからないままに電車に乗り、氷帝の校門前に着いたは、集まっていた面々に思わず声をあげた。




「え、みんな   どうして?」




氷帝と青学の主要メンバーが、たちと同じような格好で揃っていたのだ。

満面の笑顔で菊丸がぶんぶか手を振り、それに当たりそうになっている手塚の眉間に皺が寄る。
向日もぴょんぴょこ飛び跳ねそうなのを、忍足が必死に止めていた(「岳人やめぇ、周りの人に迷惑になるやろ!」と必死に言い聞かせているが、ほとんど本人には聞こえていないようだ)


「よう、
「おはよ、景君。みんな揃ってどうしたの?」
「温泉に行くぞ」

   は?」


自信満々に言われた言葉を一瞬理解できず、がワンテンポ遅れて間抜けな声を出す。
そんな彼女の頭を優しく撫でた不二が、柔らかく微笑む。


「みんなで一緒に   ね?」


それでようやく、彼らが自分を元気づけてくれようとしていることに気づいた。



   うん」



全員でマイクロバスに乗り込み(あまりの座り心地の良さに、や慈郎達がはしゃいだ)(そして以外はうるさすぎて各(元)部長に怒られていた)一路温泉へ。


ー、こっち来てみぃ」


だらしなくにやけきった(それでも一般的には満面の笑みと思われるだろう)表情で、忍足がを手招く。

「何ー?」
、行かなくていいから」

素直に行こうとしたの腕をリョーマがつかんで止める。
その声色は果てしなく冷たい。


「え、でも、侑士が   
「いいよ、あんなの。どうせたいした用事もないんだから」
「そうそう、忍足のところには絶対行っちゃ駄目だからね」


不二も笑顔でさらりと酷いことを言う。


「酷いやん!なんでやねん!!」


泣きそうな忍足の頭を宍戸が遠慮なく殴る。



「悪ぃな、こいつ阿呆だからよ」
「ごめんねー」



滝もぎりぎりと忍足の頭を押さえつけなら、申し訳なさそうに笑った。


さん、でも青学の奴らとばっかりずるいですよ!こっちにも来て下さい」


口をとがらせた鳳にそう言われ、そう言えばと周りを見回す。

……青学メンバーばかりだ。



「……あーうん、今行くねー」
「ええええ、嫌だにゃー」
「英二君、猫語禁止」



冷たい突っ込みをびしりとくらわせ、は氷帝の面々に近づく。


「景君、このバスどこに向かってるの?」


そういえばまだ目的地を聞いていなかったと小首を傾げれば、そんなに跡部が満足そうに笑った。

「跡部財閥の保養所だ。あちこちにあるが、まあ近場がいいかと思ってな、熱海にしておいた」
「熱海……!私、行ったことない!!」

熱海と聞いての目が輝く。


「つうか、何で年寄りでもないのに温泉なん   モガッ!」
「宍戸さん、さんが温泉好きなんですよ!」


微妙そうに眉をしかめた宍戸の口を、鳳が慌ててふさぐ。
幸いには聞こえていなかったようで、2人揃って安堵の息をついた。



「……忍足にも聞こえてなくてよかったな……」
「そうっスね……」



を溺愛している忍足に、今の発言が聞こえていたらどうなっていたか。
考えるだけでも恐ろしい。





、こっち来てみぃ、俺の膝の上に座れや!」
「忍足さん、それはセクハラです。というか、見るからにウザいのでやめていただけますか?」
「偉いヒヨ君、もっと言ってやって!!」