「広ーい!大きーい!!」







温泉ポン!







「当たり前だろ、跡部財閥所有だぜ?」

はしゃぐににやりと笑うと、跡部は控えていた女将に鷹揚にうなずいた。


「案内しろ」
「かしこまりました」


女将の合図と共に、仲居がそれぞれの荷物を受け取る。


「さあ、お嬢様はこちらに」
「え、あ」


仲居に手を取られたは、困惑したように跡部や忍足を見る。



!!」



まるで人攫いを見たかのような悲鳴を上げた忍足は、見事に不二と宍戸に沈められ、跡部が安心させるように目を細めた。


「後で迎えに行く。荷物の整理でもしとけ」
「……うん」


それでもいまだに少し不安そうな表情でうなずいて、はおとなしく仲居の後をついていった。

「跡部!俺はの隣の部屋やで!」
「黙れ忍足うぜぇ」
「つーかキモい」
「あそこまでいくと、もはやストーカーだよね」
「うっわ、犯罪っスか?洒落になんねえな」

揃いも揃って集中攻撃を浴びた忍足が撃沈したが、そんなことなど最早誰も気にとめてはいなかった。


「部屋割りだが、学校は混合で構わねえな?」
「ああ」


手塚がうなずいたのを受けて、跡部が棒の束を取り出す。



「古典的だが   くじで決めようじゃねえか」
「だっせ」
「んだと宍戸、何か他に案でもあんのかよ」
「……ねえよ」



不機嫌そうな跡部に睨まれた宍戸は、舌打ちをしてふいと横を向いた。
めいめい迷うことなくくじを引いた結果。




「……っしゃー!1番や!!」




雄叫びをあげた忍足の声に、嫌そうな顔をする者や呆れた顔をする者、迷惑そうな顔をする者など様々だ。


「よし。これが部屋割りだ」


ぴらりと見せられた見取り図を真っ先に覗きこんだ忍足の表情が、みるみるうちに固まっていく。
それとは反対に、今にも高笑いを始めそうな跡部。


「跡部ー、侑士の奴どうしたんだ?」


両極端な両者の表情に首を傾げた向日が見取り図を覗きこみ   思いっきり吹き出した。



「ゆっ……ゆうし……っ!こりゃ、固まるよな!!」


ぎゃははははは、だっせー!マジだっせー!!



遠慮なく爆笑した向日につられたのか、跡部もついに高笑いを始める。



「そんな……そんな……から一番遠い部屋なんて……あんまりやん!!」



悲劇のヒロインもかくやといった様子で打ちひしがれている忍足を冷めた目で見ながら、日吉が見取り図を跡部から受け取り。



「……ああ、なるほど」



納得したようにうなずいた。

1番から順にの部屋に近いのかと思いきや、4番から順になっている。
見事隣の部屋をゲットした日吉は、口の端だけに笑みを浮かべると、他の面々にも見取り図を回す。


「よし、俺達も行くぞ」


いまだに打ちひしがれている忍足は、運悪く同室になった手塚と鳳が引きずっていった。












「こちらになります」

仲居に通された部屋は、本当に1人で使うのかと尻込みしてしまうほど広くて豪華だった。

「ありがとうございます……」

とりあえず頭を下げたら、にっこり微笑んで会釈を返された。


「景吾様はもう少しでいらっしゃると思います。どうぞおくつろぎ下さいね。何か足りないものがございましたら、何なりとお申し付け下さい」


丁寧にお辞儀をして仲居さんがいなくなると、広い部屋にぽつりと取り残された気がした。




「広いなあ……」




豪華な調度、高価なおもてなし。
けれどそれは、自分が隔離されたようにも思えて。


「みんな、早く来ないかなあ」


早くみんなとおしゃべりしたい。



荷物の整理も終わらせてしまったがぼんやりとしていると、部屋仕切りの襖が軽くノックされた。


「はーい、誰?」
「俺。開けていい?」


聞き慣れた声にぱっと顔を輝かせて襖を細く開けると、リョーマがのそのそと移動してきた。

「忍足って人、めんどくさい……」

疲れたようにため息をついて、リョーマはの膝に寝転がる。
さほど驚かずにその髪を梳いて、も小さく苦笑した。


「また侑士が何かした?」
の部屋から一番遠いとこになったからって、散々わめいて暴れて部長と鳳って人に引きずられてった」



「……侑士……」



恥ずかしいよ!


顔を赤くしたの髪をさらさらと梳いて、リョーマが小さく笑う。


「愛されてんじゃん」
「そんな愛され方いらない……!」
「まあ、そうだけど。   髪、伸びたね」


出会ったばかりの頃は肩につくかつかないかだった彼女の髪は、背中の半ばまで伸びていた。


「ああ、うん。ずっと伸ばしてたからね。それに、もうすぐ1年になるし」


出会って1年、代替わりの時期。



   ね。もっと伸ばしてよ」
「え?」
「髪。、長いの似合いそう」



目を細めて笑うと、リョーマは勢いをつけて起きあがる。
驚くを見下ろして、その頬に軽いキスを送ると、来た時と同じように襖を小さく開けた。



「じゃ、また後でね」
   うん、また後で」



一人じゃないよ。


そう言ってもらっているような気がして、も柔らかく微笑む。



「おいチビすけ、お前どこに行ってたんだよ」
のとこに決まってんじゃん」
「は!?お前何勝手なことしやがってんだよ」
「不可侵条約じゃあるまいし、何でそんなこと言われなきゃいけないのさ。第一   



そんな会話が微かに聞こえてきて、突然襖が勢いよく開いた。
襖に寄りかかっていたがどうなったかというと、当然   



「ぅわっ!?」
「なっ……!」



ころりと後ろに転げて、開けた張本人の膝の上に着地した。


「す、すいません!」
「……びっくりした……ヒヨ君かあ」


逆さになった視界に、酷く慌てた日吉の顔が見える。

「ごめんね、いきなり倒れてきちゃって」

よいせと起きあがったが日吉の顔を覗きこむと、日吉の頬がうっすらと赤くなった。



「いえ、あの……」
「近すぎ」



日吉が照れながら何かを言おうとした時、いきなり現れたリョーマがをべりりと引きはがした。


「リョーマ?」
「チビすけ……!」
、あんまり近づきすぎちゃ駄目。わかった?」
「え?あ、うん」


殺気立つ日吉を無視して言い聞かせるリョーマと、絶対に何もわかっていないを眺めて、宍戸が大きくため息をついた。



「めんどくせえ……隣の部屋の方がよかったぜ」
「仲いいよね、あの3人」



河村も苦笑するだけで、間に入って止めようとはしないようだ。




「宍戸、の部屋に   って越前、お前何やってんだよー!!」



結局向日がやってくるまで、2人の無意味な睨み合いは続いたとか。