降り立った場所は、何故か身体になじんだ喧騒に満ちていた。

嫌な予感がしつつもその中心に進む途中、必死の形相で人々の流れとは逆の方向に走って行く少年の姿をとらえ、は小さく眉根を寄せた。


   あれは……?」


どう考えても、尋常な様子ではない。
考えること数瞬、彼女は迷わず少年に近づいた。


「ねえ、君」


腕をつかんで声をかけると、少年はびくりと飛び跳ねてがむしゃらにその腕を振るう。
ますます尋常のなさを感じとり、は少年を抱きしめた。
抱きしめて、その異様さに気づく。




   これは、「少女」だ。




「大丈夫、私は君に危害を加えない。この国に来たばかりなんだけどね、一体何が起きてるの?」


王女を殺せなどというぶっそうな単語が飛び交っているが、集っているのは懐かしい108星を思い出させる民衆。

これはもしかして、とんでもない現場に飛ばされたのではないだろうか。
飛ばされた場所が路地裏でよかったと、改めてしみじみ思う。
そこらの通りなら、確実に誰かに踏みつぶされていた。

そんなことを内心で(かなり真面目に)考えながら、はそれをおくびにも出さずに少女に尋ねる。
少女はそれでも逃げようともがいたものの、彼女の服装が明らかに見慣れないものだったためか、今度は必死の形相での胸元にしがみついた。


   レンを助けて!!」
「……それは、君の大事な人?」


静かに訊いたに、少女は必死に何度もうなずく。
そんな少女をもう一度抱きしめ直して、はゆるりと路地裏を示した。


「私の名前は。事情を聞かせて?」












少女の破茶滅茶な言葉をつなぎ合わせると、どうやら彼女はこの国の王女らしい。
長年の暴君ぶりが祟って、どうやらクーデターが起きたようだ。
一族の判断で執事になっていた双子の弟が、彼女になりすまして逃がしてくれたのだとか。


   ねえ、リン。君は、君主たるものがどうあるべきか、考えたことがある?」
「だって、私の言うことは絶対だって、みんな!」
「絶対だからこそ、君主なんだよ」
「そうでしょ!?何がいけないの!?私、何も悪いことしてな   


リンの必死な声は、短い破裂音で途切れた。
打たれた頬を押さえたまま、リンは呆然とを見上げる。




「君主は何故、頂点に君臨するか。民草のために存在するからだよ、リン。絢爛豪華な調度品も、一等の扱いも、全ては民が幸せであるような施策を打ち出してもらうため」




王は国のために存在する。
国民の奴隷となるために。

そんな簡単なことを、何故この少女は理解していないのか。
帝王学を学んでいない様子のリンに眉を顰めながら、は小さく息を吐いた。


   王の在り方を、誰かに教えてもらったことは?」
「あるわけないじゃない!だって、私はいるだけでいいんだって!!」


……なるほど。
傀儡にするつもりが、とんだ暴君になったか。
家臣達の愚策に呆れながら、は打った手でリンの頬をなでた。


「事情はわかった。   処刑の時間は午後3時だね?」
「え   あ、うん……」
「君はここにいて。動かないで。   君の大切な人を、助けに行くよ」


そして、「驚かないで」と言い添えてから、一呼吸。




『合同』アカンパニー。コルトピ、クロロ」




たった二言、それだけで空間が裂けて2人の男が現れた。
1人に至っては、人かどうかすら怪しい姿だ。
小さく悲鳴をあげて後ずさるリンをなだめて、はコルトピに声をかけた。


「久しぶり。コピーしてもらいたいものがあるんだけど」
「……G.I.の報酬カード、改造したね?」
「もちろん。でね、この子、コピーしてもらえる?」


リンを指差したに、クロロが不満そうな声をあげる。


「……何故俺まで?」
「クロロの能力も必要だから。あんたは待機してなさい」


明らかに年上の男を軽くあしらいながら、はしっかりとリンの腕をつかまえる。
そんな彼女にコルトピがゆっくりと近づき