「……おや?」




傍迷惑な魔力の暴発に巻き込まれ、気がついたらここはどこだろうという状態。


どう見ても、今までいた世界とは違う場所だ。
しかも多分、初めての場所。
けれど何故かぶっ倒れてはいない。


いつもとは違う渡り方に、は立ったまま考えこんだ。


「あっちの建物からすると中世ヨーロッパっぽいけど、幻水もぱっとみそれっぽかったからなあ。どこだろ、ここ?」


数度周囲を見回した後、ここにいても仕方がないと歩きながら考えることにする。


時折すれ違う人々と和やかに挨拶を交わしつつ、見晴らしのいい場所を目指して目についた山麓を目指した。
途中の山小屋でつつましく暮らしているらしい夫婦と出会ったが、このまま上を目指すつもりだと告げるとひどく驚かれる。

何をそんなに驚くのかと思っていたら、不可思議なことを言われた。


「あんた、この先には魔法使いしか住んでないよ!危ないからやめときな」
「ありがとうございます。大丈夫ですよ」


笑いながら手を振って答え、さてどういう意味だろうと考える。

あの言い方からすると、どうやら「危ない」は「魔法使いしかいない」にかかりそうだ。
紋章が織り成すあの世界では魔法使い=危険などという公式はないから、まずこの線は消えた。
さらにモンスターがいないことから、それなりに平和な世界かもしれないと予想する。


予想しつつ、ぶらぶらと剣を振って歩いて。




「……あー、ここかあ」




微妙な半笑いで、目の前の建造物を見上げた。
がっしょんがっしょんと三足歩行で歩く、お世辞にもセンスがいいとは言えない物体。
全体的にブリキっぽい色をしているそれは、その持ち主曰く「城」だったはずだ。




   ハウルかよ……!!」




Shit!と思わずはしたない悪態をつきつつ、はひとまず停止しているそれのドアをノックした。


「こんにちはー、誰かいませんかー」
   どちらさま?」


返事を期待していたわけではないが、老婆と思しきその返答に、のテンションが一気に上がる。

もうすでに、ソフィーが一緒に住んでいるのか。
それならば、今回はあれこれ手を出さずに見守っていてもいいかもしれない。


「ちょっと迷子になっちゃって……よろしければ一晩、泊めていただきたいんですけど   
「あらまあ、それは大変!」


情けない声で告げた途端、ソフィーが慌てたようにドアを開けてくれた。
ファンタジー色てんこもりのの格好に目を見開いたようだが、すぐににっこりと笑顔になる。


「どうぞ、お入りなさいな。私はしがない掃除婦だけど、きっと誰も文句は言わないよ」
「おいらはやだよ、ソフィー!!そいつからは魔法の匂いがぷんぷんする!!」


さあどうぞ、と半身を引いてくれたソフィーの背中越しに、特徴的な声が拒絶を投げてきた。
ソフィーはどうしてそれがいけないのかわからないようで、声を無視してを中に招き入れる。


「魔法使いの城だから、変なものがたくさんあるけど……気にしない方がいいよ」
「はあ……火がしゃべるのは、さすがに初めて見ましたよ」
「カルシファーは火の悪魔なんだって」
「へえ!」
「こら!おいらを無視するな!!


暖炉の上で必死に伸び上がって抗議するカルシファー。
可愛いことこの上ない。


顔がゆるみそうになるのを必死にこらえ、はゆっくりと暖炉に歩み寄る。


「こんにちは、カルシファー。随分凝った魔法を使ってるんだね」


シールドやバリアとは違う。
闇の紋章とも違う。

何とも不可思議な魔法だと、思わず笑みがこぼれる。


呟くようにそう言ったに、カルシファーが大きく反応した。


「あんた、おいら達の契約がわかるのか!?」
「何となくは、ね。でも多分、まだ解かない方がいいと思うよ」
「そんなこと言わずにさあ!おいら達、結構やばいんだって!」


今解けば、ハウルは幸せを手に入れることはできないだろう。
ソフィーと早くくっつけばいいのにと思いつつカルシファーをなだめていると、ソフィーがフライパンを持ち出してきた。


「さーあカルシファー、今日もお願いしますよ!」
「嫌だよう!ソフィーがいじめるよう!」
「まあまあカルシファー。ちょっと我慢すれば、カルシファーも何かもらえるって」


も一緒にカルシファーをなだめ、ソフィーからフライパンを受け取る。
ここにいないマルクルを呼びに行くのは、やはりソフィーの方がいいだろう。


「ソフィー、他にも住んでる人がいるんでしょ?料理は私がしておくから、呼んできてくれると嬉しいな」
「あら、ありがとう!それじゃあ私は上に行くけど、カルシファーをよろしくね」


大喜びで階段を上っていったソフィーを見送って、はカルシファーに視線を移した。
びくりとおおげさに震えながら、カルシファーは必死に声を張り上げる。


「お、おいらは言うことなんか聞かないぞ!」
「うん、別にいいよ。期待してないし」


カルシファーが言うことを聞くのは、ハウルとソフィーだけで充分だ。
大体は、彼の力を借りなくても火を使うことはできた。
呆気にとられた様子のカルシファーの横に薪を数本積み上げ、その上に手をかざす。


   踊る火炎」


が小さく呟くのと同時に、薪にばちりと火がついた。
ヒィ!とカルシファーが悲鳴をあげたが、害はないはずなので無視しておく。

鍋にたっぷりのミルクを入れて、そこいらの材料を刻んで。


「できたよー」


じっくりことこと煮込んでできたのは、グレミオ直伝の特製シチューだ。
上のソフィーに向かって声をかけると、足音が二つになって帰ってくる。
きっとマルクルだろうと、小さく頬がほころんだ。


「あ!ソフィーさん、シチューですよ!」
「あらほんと、おいしそうだねえ」


温かい家庭そのものの雰囲気は、とても懐かしいものだった。