もりもりとシチューを食べてくれるマルクルを見ていると、食欲がわいてくるんだかなくなってしまうのかよくわからない。
だってこの子、いっぱい食べてくれるのは嬉しいけれど、ちょっとお行儀が悪すぎる。
ソフィーも眉を顰めているところから、やっぱりいつものことなんだろうか。
「マイケル、もうちょっとゆっくり食べなさい」
「えええ、だっておいしいんだもん!」
「最低限のマナーは守る!」
「ちぇー……」
可愛らしく口を尖らせたマルクルに顔がゆるみそうになって ふと覚えた違和感に首を傾げた。
「……マイケル?」
マルクルではないのだろうか。
マイケルと言えば、原作版のハウルの弟子。
しかし、彼は外見15歳前後のはずだ。
どうにも合致しない記憶にが眉を顰めていると、ソフィーがはっとしたようにマイケル(仮)を見た。
「マイケル、ご挨拶しなきゃ!」
「あ、はい。初めまして、ハウルさんの弟子のマイケルです」
にっこりと笑った顔に邪気はない。
名前だけ原作設定というアンバランスさに目まいがしそうになったが、それはそれと一瞬で立ち直った。
腐ってもあちこちに飛ばされまくっている身の上。
いい加減、も耐性ができてきたらしい。
「初めまして、マイケル。シチュー、おいしい?」
「はい!」
輝かんばかりの笑顔でうなずいたマイケルの頭をぐりぐりとなでて、もにっこりと笑う。
素直な子供は可愛いものだ。
「それならよかった。シチュー作りの名人から教えてもらったんだよ」
「すごい!私にも教えてほしいわ、ジュンコ」
「うん、いいよー。材料揃えようね」
グレミオシチューは大好評のようだと、の顔がだらしなくゆるんだ。
自分の好きな人の料理を褒めてもらえるのは、やっぱり嬉しい。
今度会ったら報告しなきゃ!
次もまだ生きてるうちに会えますように!
何ともぶっ飛んだ願いごとだが、これが冗談ではないのが切ないところだ。
何年先になるか分からない再会に胸を踊らせつつ、おかわりをよそおうとマイケルから皿を受け取る。
肉をたっぷりとよそって差し出すと、大はしゃぎで食べ始めた。
「小さい子は無邪気でいいねえ、ソフィー」
「え?え、ええ、そうねえ」
ぼんやりとしていたソフィーにが同意を求めると、慌てたようにうなずいて止まっていたスプーンを動かす。
そんなソフィーに何となく不自然さを感じたが、深く気にすることはないだろうと、も食事を再開した。
かりかりに焼いたフランスパンをつけて食べれば、香ばしい香りとシチューのコクが混ざりあって、何ともいえない美味しさだ。
ありあわせの材料で作った割にはよくできたと、満足してうなずく。
「まだまだおかわりはあるからねー」
がのんびりとそう言うのとほぼ同時に、ドアがやや乱暴に開いた。
「やあ、みんな。ただいま」
「ハウルさん!」
金髪の美形だ。
間抜けにもそれしか思えなかったの目の前で、マイケルがさっと立ち上がる。
彼の手に荷物を渡しながら、ハウルがふとに目を止めた。
「 誰?」
はて、ハウルはこんな声だっただろうか。
某俳優のものだった気がするがと思いながら、ハウルには違いないのでまあいいかと丸投げした。
軽く頭を下げるを見上げて、マイケルがはしゃいだ声をあげる。
「迷子になっちゃったらしいんですよ、ハウルさん。おいしいシチューも作ってくれたし、今晩くらい泊めてもいいでしょう?」
完璧に食べ物につられているぞ、マイケル。
そんなマイケルにソフィーが微妙な表情をしたが、このままを放り出せないと援護射撃に出る。
「一晩くらいいいじゃない、ハウル。こんな暗い中に若いお嬢さんを放り出すなんて、紳士失格よ」
「ふうん……まあ、別にいいか」
じっとを見つめていたハウルは、カルシファーを一瞥してから興味なさげにうなずいた。
がハウルの魔力に気づいたように、ハウルもまた彼女の尋常ではない魔力に気づいたのだろう。
それでもカルシファーが中に入れた以上、どうにかなると思ったようだ。
「よろしく、魔法使い殿」
まだおかっぱではないハウルに笑いかけて、はいそいそと食事に戻る。
グレミオさんのシチューは、温かいうちが一番おいしいのだ!
いくらハウルでも、これを邪魔する権利はあるまい!
冷えても絶品間違いなしのそれは、しかしにとってはゆずれないボーダーラインだった。
さほど親しくない彼らと天秤にかけるなら、なおさら。
簡単な挨拶だけで食事に戻ってしまったを、ソフィーとマイケルが驚いたような表情で見る。
対してハウルは、おもしろそうな顔になった。
幸せそうにスプーンを運ぶの背後に近寄って、楽しそうに声をかける。
「ねえ、僕もそれをもらっていいかな?」
「どうぞー。セルフサービスでお願いします」
鍋は暖炉にと指し示すと、ハウルが軽く目を見開いた。
「……カルシファーが?」
「いえ、私が。別にカルシファーの力を借りなくても、自分で火ぐらい起こせますから」
真の紋章持ちなめんな。
サバイバルが当たり前だった解放軍や同盟軍なめんな。
上位紋章を火起こしのために使うのは、いくらなんでもあんたぐらいだよ。
風の子の呆れた声が聞こえたかもするけれど、気のせい気のせい!
そんなことを考えているの横で、火の悪魔の隣で元気に燃える火を見ながら、ハウルがぽつりと呟いた。
「なるほどね……。で、君の名前は?」
「 あ」
名乗るのすっかり忘れてました。
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