私には双子の弟がいる。
私に似ずになかなかのイケメンで、物腰も柔らかい。
ちょっと浮き世離れしているというか、ふらっとどこかに行ってしまいそうな雰囲気が心配だけど、まあ可愛い弟だ、そんなことがあったらひっぱたいてお説教してやろう。
小さい頃は寝ぼけて「ねえ、ふーこは?」と私の腕を引っ張り、おやつを食べながら「ふーこといっしょにたべたい」と泣き、寝ても覚めてもふーこふーこふーこ……誰だよそれ。
私に前の人生の記憶があるように、この子にもお腹の中にいた頃の記憶があるんじゃなかろうかと何度思ったことか……まさか三つ子だったんじゃないだろうな、私達。
嫌だよ、姉だか妹だかを吸収しちゃったとかいうオチ。
「和夫、そういえば最近ふーこのこと言わなくなったね。どしたの?」
「……うん、もう、いいんだ」
アンニュイな笑顔でかぶりをふった和夫がイケメンすぎてむかつく。
我が弟(しかも双子)なのに、どうしてこんなに顔のパーツが違うというのか。
二卵生双生児だとはいえ……ぐぬぬ!
ぐちゃぐちゃとプリンをかき回して悶えていたら、行儀が悪いと和夫に注意されてしまった。
無惨な姿になったプリンは当然ながらおいしくなくて、和夫に差し出してみたけれど無言で拒否された。
味は変わらないのに。
いや、だったら自分で食べろよってね。
うん、知ってる。
和夫がいつからふーこの事を言わなくなったのか、実はよく覚えていない。
気がついたら言わなくなっていて、私の後をついてくることもなくなってしまった。
姉離れしたんだろうとは思うけれど、あれだけ一緒にいた弟が急にいなくなると、やっぱり寂しかったものだ。
普通の兄弟ってそんなものだろうかとクラスメイトに聞いてみたら、反応は様々だった。
「うちは今でも結構仲いいよ。時々一緒に買い物行くし」
「えー、うちなんて生意気すぎて毎日喧嘩してる。昨日も私のおやつ勝手に食べてさー」
「うちも仲いいけど、そんなの人それぞれじゃない?弟君も年頃だし、しょうがないって」
気にするなとなだめられて、そんなものかと自分を納得させておく。
「よそはよそ、うちはうち」は重々承知だが、前は一人っ子だった私としては寂しさを拭いきれない。
紙パックのストローを噛みながらいじけといると、廊下からくすくすと笑い声が聞こえてきた。
「弟なんてそんなものよ。私の弟は生意気でやんちゃで、子供の頃は苦労したもの」
「山崎先生も弟いるんですか?」
「うん。ちょっと年が離れてたから、さんちとは違うかもしれないけど」
ふわふわの髪をシニヨンにした山崎先生。
大きな目と小さめの身長が可愛いと私達生徒の間でも人気がある。
あ、うちは女子校ですのであしからず。
校内の色恋沙汰は基本的にない。
採用基準に盛り込まれてるらしく、若い男の先生なんて皆無だし。
廊下から顔を覗かせていた先生は、手に持っていた荷物を重そうに持ち直しながら首を傾げた。
「弟さん、反抗期に入っちゃったの?」
「いえ、反抗期というか……なんか、遠くに行っちゃったみたいで。小さい頃は私にべったりだったのに」
「男の子はねえ……ある程度は仕方ないのよ、いつまでも女兄弟とべったりは恥ずかしいみたいだし」
大人になればまた仲良くなれるよと微笑んで、先生はそのまま教員室の方に行ってしまった。
可愛いなあ、山崎先生。
あんなお姉さんほしかったなあ。
しかし現実では私が長女だ。
今から新しく下の兄弟を作られても戸惑うし、和夫だけで我慢 和夫がいるじゃないか!
天啓を受けたモーゼのように顔を上げ、急いで立ち上がる。
噛みすぎてぺちゃんこになったストローをいくら吸っても空気しか入ってこなくなったので、ゴミ箱にスローイン。
ごめんよ掃除当番、もう掃除は終わっていたけど、明日また捨ててください。
「今日はもう帰るね。また明日!」
「あれ、カラオケ行かないの?」
「うん、やめとく。ごめんね」
「いいよー。今度二人でウルトラソウッやろうね!」
気のいい友達でありがたい。
次にカラオケに行くときには振り付けまで完コピしておこう。
和夫が可愛くなくなったなら、可愛い妹(彼女)を連れてきてもらえばいいじゃないか!
年の近い妹と女子トーク。
年の近い妹とショッピング。
……いい……!!
彼女ができれば和夫も地に足が着くだろうし、一石二鳥だ。
よし、和夫に是非彼女を!!
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