結論から言うと、すげなく一蹴された。
誰に?もちろん和夫にだ。
「和夫!?高校生になったんだから、彼女の一人ぐらい作ろうよ!!」
「いらないよ。俺は自分のことで精一杯だし、彼女とかそう言うのは考えられない」
「なんで!?健全な16歳なら彼女ほしくないの!?」
「だから、必要ないし考えられないんだよ。……多分、一生」
ぽつりと落とされた最後の言葉は多分聞かせる気はなかったんだろうけど、私の地獄耳をあなどらないでもらいたい。
一生独り身は容認できん、こんなに若い身空で人生を達観するなんて許せない。
せっかくもらった人生なのだ、全身全霊で謳歌しなければ生んでくれた親に申し訳ないだろう。
人は不幸せになるために生まれてくるのではないのだ、自分で幸せになろうともがかなくてはいけないけれど。
なんて格好つけてみたが、なんのことはない。
私が前の人生を後悔しまくっているから力説しているだけだ。
「和夫、共学じゃん?可愛いことかいないの?」
「さあ。興味がないから何とも」
首を傾げたついでに肩も小さくすくめた弟に、こいつ学校でもこんな感じなんだろうなあと何となく想像がついた。
そういえば、友達が家に来たことも一度もない。
この子、仲がいい友達はいないんだろうか……小学校の時はそれなりにいたと思ったんだけど。
女子の評価は君かっこいー、から、割と早い段階で君ってちょっと近寄りがたいよね、に変わってたが。
「……よし。今度の文化祭、和夫もおいでよ。私が案内するからアウェイじゃないでしょ?」
「いや、別に 」
「来月だから。和夫も予定入ってなかったはずだから。よし、おいで」
拒否権は認めない。
小さい頃からここぞというときには強硬手段をとってきたのだ、和夫もそのことは重々承知だろう。
微妙に困ったような笑顔の和夫ににっこりと笑い返し、まずは両親を味方に引き込まなければと気合いを入れ直した。
うちの学校、身内贔屓をのぞいても可愛い子が結構いるんだから、絶対誰かとフラグを立ててやる。
文化祭といっても、クラスで何かをやるということはない。
うちの学校、部活とか同好会とかの数が多いから、そっちだけで教室の数がいっぱいになっちゃうんだよね……。
弱小の手芸部員としては、そんなに気合いを入れて準備しなくてもいいイベントで嬉しい限りだ。
文芸部・手芸部・書道部の合同展示室は、まあ予想通りに人が入ってこない。
各部から持ち回りで3名体制、1時間交代での受付は恰好のおしゃべりタイムだ。
「今日、うちの弟が来るんだー。あちこち引っ張り回してやる!」
「弟?イケメン!?年は!?」
「双子だから同い年。なかなかのイケメンだと思ってるよ!彼女候補と出会わせてフラグ作ってやるんだ」
出店で買ってきたスイートポテトを頬張りつつ答えたら、道原さんがこぼれかけた食べかすをティッシュでキャッチしてくれた。
「さんの弟かあ、ちょっと想像つかないなあ」
「うん、お兄さんなら何となく想像できる」
「ちょっと、それどういう意味?妹キャラだとでも?」
それは聞き捨てならない。
これでも前の人生分、クラスの誰よりも経験値は多いのだ。
お姉さんキャラならまだしも、妹キャラ……納得いかない。
愕然とした私に気づいたのか、三川さんがささっとクッキーの袋を取り出した。
「まあまあ、これでも食べて機嫌直して」
むむっ、これはバザーで売られてるクッキーじゃないか。
バザーのために料理上手な料理部のお嬢さん達が毎年焼く、文化祭開始とほぼ同時に売り切れる、美味と評判のあのクッキー……三川さんはどうやって手に入れたんだろうか。
地味に気になるが、こんなもので釣られるほど甘くは……だがしかしおいしい。
このさくっとした焼き加減。
型抜きならではのふっくらと盛り上がった縁。
照り出しが上手いのか、つやりと光る表面が美しい。
三川さんありがとう!三川さん最高!!
「やっぱ妹キャラだよね」
「うん。基本的に可愛がられる系のキャラだよね」
両脇が何か言っているが、クッキーがおいしすぎてよく聞こえない。
おいしい物をおいしくいただける幸せ……ああ、日本人で良かった。
そうこうしているうちに、和夫から「着いた」とラインが入った。
もうすぐ交代の時間だし、指定した時間にもほぼぴったり。
相変わらず我が弟は憎たらしいほどにそつがない。
「弟が来たって。頑張ってフラグ立てするぞー!」
さて、どんな子が和夫の好みに引っかかるだろうか。
私としては女の子らしくふんわりした雰囲気の、ぬいぐるみとか好きな子がいい。
女のくせに女に夢を見ているのはわかっているが、昔からの夢なのだ。
私ではどうあがいても無理だった理想の女の子が是非妹ほしい。
さあ和夫、お姉ちゃんが暗躍してみせよう。
覚悟しておけ。
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