重い足取りでやってきた和夫の横には、さっきの男の人が付き添っていた。
逃がさねえぞとばかりに睨むこの人は、一体和夫とどういう関係なんだろう。
気まずそうに目線を下に向けている和夫と苛立っているような男の人、そして再び泣きそうになっている先生、ついでに部外者感漂う私。
なんとも微妙な四角形ができあがったわけだが、とにかく和夫に説明してもらおうか。
「和夫、ふーこって誰?まさか、小さい頃に散々言ってたふーこが山崎先生とか?」
まさかそんな馬鹿なことがあるわけないと思いながら言ってみたら、まさかのうなずきが返ってきて思わずうめいてしまった。
そうか、やっぱり和夫も私と同類だったのか。
違うのは生まれ直すまでのロスタイム。
これほど近ければ、さぞ恋しかったことだろう。
「……なるほど。ちなみにどんな関係?」
「 頭がおかしいとか思わないの?」
「別に。和夫だし、私も似たようなものだからね」
「え?」
「まあ、それは置いておくとして。関係は?」
兄弟かなーと軽い気持ちで訊いた私に対して、何故かたっぷりためらった和夫曰く。
「………………夫婦………………」
「 はい?」
パードゥン?
意味を理解できなかった私を面白そうに見ていた男の人が、我慢できなくなったようにぶはっと豪快に吹き出した。
山崎先生は真っ赤になっているし、和夫も少し赤くなりながら男の人を睨んでいるし、何だこの生ぬるくて甘酸っぱい空気。
しかし、山崎先生が結婚していたなんて話は聞いたことがないし……ていうか、死別なら結婚したのはいつの話!?
年齢的に逆算しても計算合わないよ!?
先生が実は超童顔で40代なのかとか、単純に先生と和夫の前世なのか。
無言で悩んでいたら、声を殺して爆笑していた男の人が助け船を出してくれた。
「あのな、こいつら、正式な夫婦じゃなかったんだぜ?なんつーの、精神的なもの?」
「あ、なるほど」
「ちゃ、ちゃんと夫婦だったもの!赤ちゃんだってできたんだから!」
「和夫ぉ!?いたいけな少女になにやってんの!?」
助け船を出してくれたというのに、山崎先生の反論でさらにカオスになってしまった……。
前世とはいえ、弟が犯罪者だったとは……姉として責任をとらねばならないだろう。
「先生……不肖の弟が、本当に申し訳ありませんでした」
「え?さん、どうしたの?」
「まだ小学生だった先生に手を出したなんて……まさか、和夫に限ってそんなことはないと思っていましたが……」
「え?え、あの?」
深々と頭を下げた私の肩に、ぽんと大きな手が置かれた。
振り仰ぐと、ものすごく気まずそうな顔の和夫が立っている。
「。僕には、幼女趣味はないよ」
「だって」
「結婚は僕が小学生の時の話だ」
「…………なんだ、てっきり光源氏計画でも立てたのかと」
あれは物語の中だから許されるのであって、現代日本では到底無理だろう。
弟に妙な性癖がなくてよかったと息を吐いたら、男の人がついに声を我慢するのをやめたらしい。
「うはははははっ、あんた面白いな!!おい比村、愉快そうな人生送ってんじゃねえの!」
ばっしばっしと肩を叩かれた和夫は、(多分)痛みとうざさの両方に眉をしかめた。
「やめろ」
「いー姉ちゃんじゃねえの、大事にしろよ?」
「うるさい」
……男の人と和夫の関係はいまだによくわからないけれど、山崎先生と同じように前世の知り合いなんだろうなんだろう。
積もる話もあるだろうし、部外者の私は退散した方がよさそうだ。
「和夫、私戻るから。遅くならないうちに帰ってきなさいよ」
「え……あ、さん」
「先生、よろしくお願いします」
戸惑ったような表情の先生に軽く頭を下げて、部活棟をこっそり出る。
途中にぎやかな部室があったりしてひやりとしたけれど、まあ私だけなら見られても問題なかった。
と気づいたのは、ざわつく廊下まで戻った時だった。
帰宅して、心なしかうきうきした様子の和夫に八つ当たりしたのは言うまでもない。
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