最後にイルカのショーを見て、水族館からはさよなら。
お茶でもしようというアキラ君の誘いで、そのまま流れで近くのカフェに入る。
「長いこと来てなかったけど、水族館って意外と面白いんだね」
「そう言ってもらえてよかったです」
魚の特性や生息地を知ると、ただの「魚」から名前を持ったものに変わる。
大半はもう忘れてしまったけれど、熱帯魚の綺麗さはやっぱり忘れられないだろう。
久々に見た亀も、予想以上のインパクトだった。
それに、マンボウのおもしろいこと!
後から後から話題が湧いてきて、年甲斐もなくはしゃいでしまう。
「また来ようかなあ……」
「 じゃあ、また来ましょうか」
ぼんやりと呟いた言葉に答えが返ってきて、思わずぱちぱちと瞬いてしまう。
「……アキラ君?」
「……また、一緒に来てくれますか?」
「う……うん、それは全然構わないけど……」
何だろう、アキラ君の様子がどうも変だ。
あちらを見たり、こちらを見たり、何かを言おうとしては口を閉じたり。
どうしたんだろうと見守っていると、向こうの方から佐為がやってくるのが見えた。
(あ。佐為、こっち!)
「ここにいたんですね、!」
「 か?」
(気分だけ)佐為に手を振りながら呼びかけると、佐為もぱっと顔を輝かせてこちらに近寄ってくる。
そんなやり取りをしていたから、アキラ君の言葉を聞き逃してしまった。
「ごめん、今何て言ったの?」
何やら思いつめたような表情からして、よほど大事な話だったんだろう。
申し訳なく思いながら眉を下げると、何故か力の抜けた表情をされた。
がくりとうなだれそうな様子に、慌てて手を伸ばして両手でアキラ君の手を握りしめる。
「ほ、ほんとにごめんなさい!あの、何か相談事とかだったら、私にできる限りの事をするし、佐為と打ちたいっていうなら今ここにいるし 」
「 違うんです……」
消え入りそうな声で返されて、よほどの事だったのかと更に焦った。
ああもう、どうしてあの時佐為と目が合ったりしたんだろうか。
「、それは酷いですよ!」
(だって半分は佐為のせいじゃない!)
「そ……それは、そうですけど……」
人の考えを勝手に読んで反論してくる佐為とこっそり喧嘩をしつつ、身を乗り出してアキラ君の顔を覗きこむ。
こんなことで嫌われるのは、絶対に嫌だった。
握りしめる手にも力を込めると、色白の綺麗な顔がみるみる赤くなっていく。
ん?
「あの、さん……そういう顔は、ちょっと……」
「え、あの、何か変な顔してた?ごめんなさい!」
慌てて顔に手をやっても、特に変な顔をした記憶はない。
どこが笑うツボだったのかと首を傾げると、アキラ君が更に赤くなった。
「……ねえ、本当にどうしたの?大丈夫?私、何か悪い事しちゃった?」
「い、え……さんは、悪くないんです……」
片手で口元を覆ったアキラ君は、しばらく口ごもった後に何かを決意したような表情になる。
さっきと同じ、あの表情だ。
そして、その口がゆっくりと動く。
「 好きです。付き合ってください」
「…………え」
何故、いつ、どうして。
そんな単語が、脈絡もなく頭の中を飛び交う。
私の一方的な片思いだったはずなのに、どうして私が告白されているんだ?
もしやこれは、私の都合のいい妄想なんだろうか。
びしりと固まったままそんな事を考えていると、佐為にびしりと叩かれた。
「!しっかりなさい、塔矢が返事を待っていますよ」
(……え?今の、私の夢じゃないの?)
「違います。ほら、しゃんとして!」
もう一度びしりと扇で叩かれて、ようやく意識をアキラ君に戻す。
不安と緊張でいっぱいの目をして、それでも逸らすことなくこちらを見つめていた。
それを見て、ようやくこれが現実だと理解する。
した瞬間、一瞬にして脳が沸騰した。
「え、あ、あの、アキラ君、」
「……やっぱり、駄目ですよね。僕は年下だし、さんには友達としてしか見られていないし……」
どもりまくる私に何を勘違いしたのか、あんなに凛としていた視線がふと下に落ちた。
自嘲するような呟きに、焦りがつのる。
違う、違うの。
そうじゃないの。
必死に手を伸ばして、固く握りしめられたアキラ君の拳に重ねる。
「あの、あのね、」
心臓が痛いほどに鳴っている。
自分の顔が真っ赤なのは、もう自覚していた。
それでも、きっと同じくらい勇気を振り絞ってくれた、アキラ君に応えなければ。
「違うの、聞いて」
声が震える。
手も震える。
ずっとずっと、気持ちに蓋をしてきた。
年上なんて恋愛対象外だろうからって。
そうやって、初めから自分を騙してごまかして、けれどそんなものは我が身可愛さからきたものだった。
それを飛び越えてきてくれたアキラ君を、私も見習わなければ!
「私もね、その……アキラ君のこと、 好き」
顔に惹かれたわけじゃない。
碁を打つ時の凛とした空気だったり、さりげない優しさだったり、年に似合わない大人っぽさだったり。
色々なアキラ君を見て、いつの間にか恋してた。
消え入りそうな声で最後の言葉を言った瞬間、アキラ君の目が大きく見開かれる。
「……嘘だ」
「……嘘じゃないよ」
「信じられない……」
「……ほんとだよ」
お互い真っ赤になりながら、そんなやりとりを交わした。
そろそろと手を伸ばされて、ひんやりとした手がじっとりと汗ばんだ私の手を握る。
ああ、もしかして、アキラ君は緊張しているんだろうか。
緊張すると、手が冷たくなる人なんだろうか。
そんなことに今更気づきながら、お互いに照れて笑いあった。
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