待ちに待った夏休み。
夏休みといえば。
「旅行だー!!」
「姉貴一人でな」
うけけけ、と笑う弟には、無言で雑誌をクリーンヒットさせておいて。
休みの時にしかなかなか行けない旅行。
暑いのは承知で、京都旅行の手配を済ませてある。
寂しいと言うことなかれ、実は一人ではない。
……向こうで、アキラ君と合流するのだから。
ずっと前から相談を重ねて、イベントに合わせて日程をとった。
日中はイベントで一緒にいられないから、1日余計に多く滞在して。
ヒカル君も同じイベントに行くらしいし、会うのが楽しみだ。
「それじゃ、行ってきます」
「気をつけるのよ、一人旅なんだから」
「大丈夫だって」
家族の手前、アキラ君と合流することは秘密。
ばれたら大騒ぎになりかねない……。
浮き立つ心を静めつつ、新幹線の中でアキラ君にメールを打つ。
『東京を出ました。京都に着いたらまた連絡するね』
『こちらは今、会場に向かって移動中です。待ってます』
アキラ君らしいまっすぐな、飾り気のない返事をみただけで、頬がゆるんでしまう。
ああ、我ながら重症だ。
「、、京に着いたら御所に行きたいです!!」
(うーん……京都御所は公開日が決まってるんだよね。中には入れないけど、それでもいい?)
「そうなのですか……」
しょんぼりとうなだれる佐為は可愛い。
でも、お世辞にも御所の中とは言い難いところまでしか入れないのも事実だ。
( そうだ。佐為、3日目に行ってきなよ。佐為だけなら、中に入れるでしょう?)
「はい!」
ああ、嬉しそう。
弾む心が私にまで伝わってきて、懐かしいという気持ちでいっぱいになる。
佐為にも楽しんでもらえそうで、本当によかった。
京都までは2時間あまり。
「、不二の山!不二の山ですよ!ああ、こんなにも大きなものだったんですね……!」
(山登りが流行で、ものすごく混んでるらしいよ)
「なんと!かように高い山にも、気軽に登ることができるのですか!」
(そうそう。友達も登ってきたんだって)
静岡、名古屋、京都。
佐為といれば、時間なんてあっという間だ。
マグネット盤でこっそり囲碁をしながら時間をつぶしていたら、危うく乗り過ごすところだった。
「つい……たー!!ホテル行くホテル!!」
宿泊先はアキラ君達と同じところ。
アキラ君が半分出してくれたからよかったけれど(あの笑顔で「社会人ですから」って押し切られた……)、私一人じゃとても払いきれるお値段じゃなかった。
プロの棋士って稼いでるんだね……。
「四条通り……ですか」
(一番の繁華街だよねえ。タクシー使えば一番利便性も良さそうだし)
お昼過ぎに家を出たから、もうチェックインもできる。
バスを使ってホテルに着いて、部屋に荷物を放りこむと、脇目もふらずにベッドに倒れこんだ。
「暑い!疲れた!何なのこの殺人的な暑さ!!」
「昔も京は暑かったですが……よもやここまでとは……」
「絶対地球温暖化のせいだって。……あー、クーラーが涼しい……」
佐為と共にしばらくぐったりして、じっとりとかいた汗を流すためにシャワーを浴びる。
タオルはあれだ、「掃除してください」の札を下げておけば取り替えてくれるだろう。
「さてと。佐為、会場に行く?」
「はい!」
ここしばらくは試験で忙しかったから、アキラ君に会うのも久しぶり。
いつもより心もち丁寧にお化粧をして、髪は暑くないようにアップにして。
ちょっと高いけど、涼しさ優先で地下鉄移動をチョイスした。
駅から出てすぐのところにあった会場は、クーラーがきいていてとても快適だ。
「アキラ君は……」
「あちらですよ、」
「あ、ほんとだ。ふふ、真面目な顔で解説してる」
いつも柔らかい表情をしているアキラ君が、きりりと表情を引き締めている。
スーツ姿も相成って、贔屓目抜きに格好いい。
頬が熱くなるのを自覚しながら、他に見知った人はいないかと周囲を見回して。
「あ、ヒカル君!」
よく知る顔を見つけて、思わず声を弾ませた。
ちょうど挨拶回りを済ませたらしい彼に駆け寄ると、顔を輝かせて小走りに近寄ってきてくれる。
「さん!塔矢が来るって言ってたけど、ほんとだったんだな!」
「やだ、アキラ君たら言いふらしてたの?」
「もー浮かれちゃって浮かれちゃって。今だってほら、見てらんねえぜ」
ごちそうさまとでも言いたげな口調に首をすくめて、アキラ君に視線を巡らせる。
……別に、いつもと変わりないように見えるけれど。
むしろ、きりっとした表情が、いつもに増して格好いい……って、何考えてるんだ私。
「馬っ鹿だなあ、さん。あいつ、見るからに浮かれてんぜ?」
(……佐為、わかる?)
「いえ……」
自信なさげな声が返ってくるあたり、どうやら「見るからに」わかるのはヒカル君だけのようだ。
ほっと安心しながら苦笑して、改めて彼ら二人の仲の良さを実感した。
それを知ってか知らずか、ヒカル君が軽く私の手を引いた。
「なあなあ、佐為と打っていい?」
うずうずしながら指導碁の盤を見るヒカル君に、笑ってうなずく。
仕事の邪魔をしに来たわけじゃない。
だから、こうやって構ってくれることは、とても嬉しい。
「喜んで!」
|