10月に入って、バイト先にパンプキンのメニューが載せられるようになると、今年もハロウィンの季節だなあと感じる。
去年もずいぶんと売り上げに貢献してくれたかぼちゃ君、今年もよろしくお願いします。
収穫時期はもうちょっと早いはずなんだけど、何故か冬至かぼちゃとか、冬の食べ物になってるなあ。
そんなことを考えながらフロアを回っていると、聞き慣れた声がかけられた。
「さん!」
弾むような声。
佐為が一番好きな声。
「ヒカル君、どうしたの?ここにくるなんて珍しいじゃない」
「いや、ちょっと相談があってさ。あのさ、 」
「ごめん!今は仕事中だから、終わるまで待ってくれる?」
長くなりそうな雰囲気だったので遮ると、ヒカル君もばつの悪そうな表情になった。
もう一度ごめんねと謝ってから、サービス代わりにパフェを置いておく。
いつもの彼氏じゃないんだねなんてバイト仲間にからかわれたりしながらも、忙しなく動き回ること2時間半。
ようやく正規のシフトが終わった私は、残業しているみんなに申し訳なくなりながら、パフェ代を置いて店を出る。
ヒカル君もすぐに出てきて、ぺこりと頭を下げた。
「ごめん!忙しかったよな、電話してから来ればよかった」
「ううん、平気だよ。みんないい人ばっかりだし」
「今度から気をつける」
「うん、ありがとう」
オープンカフェに移動して話を聞くと、どうやらかぼちゃと関係のあるイベント関連らしい。
イベントとか好きそうだもんねえ、ヒカル君……。
お姉さんはお店の売り上げのことしか考えてなかったよ。
「仮装……って、あの仮装?ハロウィンの?」
「そうそう!伊角さんも和谷も参加してくれるし、あかりとか奈瀬とか女もいるし!」
「でも私、ヒカル君以外に知り合いいないよ……?」
他の人にとっては完全な部外者の私が混ざるのは、その人達のためにも私の心情的にもちょっと遠慮申し上げたい。
ヒカル君には申し訳ないけど、今回は断ろう。
アウェイは苦手なんだ、私。
そう思って両手を「ノー」の形にしようとしたけれど、その前に慌てたように遮られた。
「いや、あの!なんつーか、さんを巻きこんで塔矢を呼ぼうかと!」
「……アキラ君?」
「ごめん!ダシにする!!」
『まったく、ヒカルは妙なところで律儀というか、考えが足りないというか……』
あっさり本音を白状してしまったヒカル君に、佐為が苦笑する。
けれどその眼差しは優しくて、心底彼を大事に思っているのがよくわかった。
それにしても、アキラ君か。
多分、こういったイベントには関わりがなかったんだろうなあ。
正々堂々ダシ扱いされたんだし、この機会に誘ってみてもいいかも。
よし、と納得したところで、ヒカル君に笑いかける。
「わかった。アキラ君にお願いしてみるね」
「マジで!?」
途端に顔を輝かせるヒカル君。
可愛いなあ、もう。
思わず頭をなでたくなるのをぐぐっとこらえ、笑顔のままうなずく。
「金曜に会えるから、その時に言ってみるよ」
「ありがと!さんがおねだりすれば、塔矢もころっと落ちるよな」
「こら、からかわないの」
「えー?本当のことじゃん」
けらけらと笑ったヒカル君に、(佐為と)碁を打とうと腕を引っ張られた。
親戚の子供みたいだと心の中で呟けば、『全くです』佐為にしみじみ肯定される。
おーいヒカル君、佐為にまで馬鹿にされてるよー。
でも、この裏表がない性格が、ヒカル君の魅力なんだから。
いつだったか聞いた幼馴染の子とうまくいくといいな。
「それよりヒカル君、佐為と打たないの?」
「打つ打つ!俺んち来てよ」
「うん」
棋譜だらけの部屋で喜々として碁盤に向かうヒカル君を、佐為と2人で微笑ましく見やったのは言うまでもない。
金曜日、アキラ君にハロウィンの仮装パーティーを伝えると、案の定戸惑ったような顔をされた。
うん、そもそもハロウィンをほとんど知らなかったね。
予想通りです、想定の範囲内。
参加を渋るアキラ君に、彼の仮装見たさに頼みこむ。
「ね、お願い、一緒に行ってくれないかな?」
「でも、僕は進藤以外とは、ほとんど交流が 」
「うん、それは私も同じ。ちょうどいい機会だし、同世代の人達と交流してみようよ」
これも本心。
アキラ君から出る言葉は「緒方さん」とか「桑原先生」とか、みんな年上の人ばかりだ。
大人だけじゃなくて、同年代とも仲良くしてほしい。
だって、その人達が囲碁界から引退したら その時、アキラ君の側には誰がいるの?
「……わかりました。今回だけですよ?行きますから、そんな顔をしないでください」
苦笑したアキラ君に両頬を包まれて、小さく首を傾げる。
そんな顔ってどんな顔だろう?
『……まったく、貴女に鏡を見せてあげたい』
佐為までが苦笑した空気を感じ、どういうことだと意識だけをそちらに向ける。
『泣きそうですよ、』
(……え?)
ぱちりと瞬きをすると、アキラ君がほっとしたように息をついた。
どうやら心配をかけてしまったらしい。
申し訳なさに首をすくめると、小さく微笑んだアキラ君が手を頬から髪を梳くようにして下げていった。
……地味に恥ずかしい。
「でも、ハロウィンの仮装ですか……まいったな、何をしたらいいのか全然わからない」
「あ、衣装はヒカル達が用意してくれるって。私の分も、写真とかヒカル君の話とかから、女の子達が用意してくれるの」
「 写真?」
あ、やばい。
何か地雷踏んだっぽい。
写真を渡すの、もしかしてまずかった?
綺麗な眉を不機嫌そうに顰めた彼に、慌てて言い足す。
「ほら、この間一緒に撮った写真!あれで私の身長を見るんだって」
ヒカル君から女の子達にだけ手渡されると付け加えると、ようやくいつもの顔に戻ってくれた。
実は結構なやきもち焼きの彼氏を持つと、結構苦労もあるもんです。
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