それからハロウィンまで、ヒカル君達はかなりばたばたしていたようだった。
ほとんど全員がプロの棋士だし、そうじゃなくても学生の身。
みんな忙しいに決まってる。
手伝いたかったけど、「さんは駄目」の一点張りだった……。
正直者だから絶対塔矢にばれるって、ヒカル君、君、何をするつもりなの?
アキラ君に怒られても知らないよ!
半分以上自分がすねているのはわかっている。
けれど、せっかく時間があるのに、手伝わせてもらえないのも何だかなあ……。
仲間外れな気分(一人だけ全くの部外者だからあながち間違ってもいないんだけど)で当日を迎え、アキラ君と一緒にヒカル君の家に行く。
私達の中で一番はしゃいでるのが佐為って、どうなんだろう……。
「さん、入りますか?」
「そうだね……。どんな衣装なのか不安だなあ」
ここはスタンダードに魔女を希望したい。
アキラ君なら何でも似合うけど、女物は特にイロモノがあるから……。
この間ドンキの前を通ったら、誰が着るの?って言いたくなるくらいのセクシーコスプレが並んでいた。
あえて言おう、あんなものは私には無理だ。
あれは可愛い女の子がやるから似合うのであって、私には絶対に似合わない。
自分にとっても相手にとっても残念な事態を招かないように、それだけは勘弁してほしい。
察してくれていますように!と祈る横で、アキラ君がインターホンを押した。
しばらくしてからぷつりと受話器を上げる音がして、明るいヒカル君の声がする。
『おっ、塔矢!さんも一緒だよな!?鍵かかってないから中に入ってくれよ』
がちゃん!と勢いよく受話器を置く音。
反射的に眉を顰めたアキラ君をなだめながら玄関を開けると、何故かヒカル君ではなく背の高い男の人が出迎えてくれた。
「いらっしゃい。……って、俺が言うのも変だけど。まだ料理ができてないらしくて、進藤と和谷が大騒ぎしてるよ」
「こんにちは、伊角さん。どうせ進藤のことだから、部屋を片づけるつもりで散らかしたりしているんでしょう?」
アキラ君の遠慮のない言葉に、伊角さんと呼ばれた人が苦笑を深める。
大人の余裕とでも言うんだろうか、優しそうで格好いい。
アキラ君とはまた違った格好良さだなあ……。
どことなく見覚えのある顔のような気もするけれど、多分どこかのイベントで見かけたんだろう。
アキラ君が出るイベントは、ほとんど見に行ってるし。
ついでに佐為も大喜びで打てるし。
「ええと――さん?」
「あ、はい」
「ごめん、名字を教えてもらってもいいかな?進藤が覚えてなかったみたいで、俺達誰も知らないんだ」
申し訳なさそうに首に手をあてた伊角さんに、思わず吹き出してしまった。
隣ではアキラ君が頭が痛そうな顔をしている。
「です。よろしくお願いします、伊角さん」
「こちらこそ、よろしく。塔矢もせっかくだし、楽しんでいってくれよ」
「わかりました」
台所では、奈瀬さんと藤崎さんが大わらわで料理と奮闘していた。
細々としたことを手伝って一区切りついたところで、男女分かれて仮装タイム。
は、いいんですが。
「…………藤崎さん…………」
「はい?」
「これ、誰のチョイス……?」
な ん だ こ れ は 。
「私達二人で選んだんです!さん、背が高くてスタイルもいいから、絶対似合うと思って!!」
純粋そのものの表情で、藤崎さんが嬉しそうに答えてくれた。
うん、ありがとう。
でもね、問題はそこじゃないんだ。
「……猫とくるとは……」
黒耳に黒い尻尾。
そこまではいいんだけど、服がね……。
一昔前の、何ていうんだっけ?ジュリアナ東京のお姉さん達がよく着てた、ボディコンスーツ。
あれにふかふかのファーを生やしたような感じだ。
「キャー!!やっぱり似合う!!可愛い!!」
「さんってスタイルいいですよね!!ウェストの布余ってるし!」
こちらは初対面だというのに、どうやら二人にとってはそうでもないらしい。
どこかのイベントで会ったかな?と小首を傾げる私に、藤崎さんが種明かしをしてくれた。
「ヒカルが女物のコスプレを探してくれなんて、どうかしたのかと思っちゃったけど。写メだけでサイズを判断しろとか無謀ですよね?」
「進藤か塔矢と一緒に写ってるんならともかく、ピンかつ隠し撮りだったしね……」
「塔矢君が怖かったんだろうね…………」
くすくすと笑い合う二人につられて笑うと、ドアの向こうからヒカル君の声が届く。
「あかり、そっちも終わったかー?」
「ちょっと待って、あとスカートはくだけ!」
がちゃりと回ったドアノブを慌てて握りしめながら、藤崎さんがファスナーを素早く上げる。
サイドラインを綺麗に整えてからドアを開けると、ヒカル君を通り越してアキラ君と目があった。
「え」
「あ」
まさか、そこにいるとは思わなかった。
心構えができていない分、恥ずかしさも半端ない。
じわじわと赤くなるアキラ君に、震える声で叫んだ。
「アキラ君の……エッチー!!」
「なっ…………え、あのっ」
「見ないで馬鹿ー!!!!」
「さん、落ち着いて!」
慌てて奈瀬さんがドアを閉めて、わざわざ鍵までかけてくれる。
外から何やら言い争っている声が聞こえたけれど、そんなことよりも心臓を静める方に忙しかった。
「……奈瀬さん」
「はい?」
「やっぱり、仮装なしって――」
「駄目です」
「…………はい」
きらきら輝く笑顔は女王様のようでした。
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