うちのご近所さんには、それはそれは可愛い双子がいる。

なんでもハーフだそうで、色白の肌に明るい金髪がよく似合う。
上の子がリンちゃん、下の子がレン君。
なんだかんだ言って子供が好きだった私は、彼女達が小さい頃から一緒に遊んでいた訳だけど   


誰か教えてくれ、どうしてこうなった。








さん、好きです」


熱っぽい目で私を見上げて、声変わり前の澄んだ声を震わせるレン君。

可愛い。
誰がどう見ても、文句なしに可愛い。
可愛いけど、言ってる内容は少々おかしい。


「あの……レン君?熱があるなら、家で寝てた方が   
さん!!」


とりあえず落ち着けと勧めたら、顔を真っ赤にしたレン君に怒鳴られた。
その声の大きさに、思わずびくりと震えてしまう。
レン君は気まずそうに肩をすぼめたけれど、帰るつもりはなさそうだ。


「だってさ……私、24だよ?」
「僕は全然構いません」
「犯罪でしょ、私が」
「言わなきゃわからないでしょう」


いやいやいや、そう言われても。

大体、恋愛対象としては範囲外だったのだ、彼は。
それをいきなり恋愛対象として見ろと言われても。
とりあえずその場はごまかして別れ、逃げるように家に帰った。




「どう思うよ、メイコ」
「どうって言われてもねー。好きなら好きでいいんじゃないの?」
「軽っ!メイコ軽っ!!」
「だって、馬に蹴られたくないもーん。すいませーん、ワイン追加お願いします」
「そしてお前は相変わらずよく飲むな……!」


ぎりぎりと見据える先で、悪友はかぱかぱグラスを空けていく。
こちらは真剣に相談しているというのに!
この飲んべえは!!


「あんたがいい店に連れてくるのがいけないんでしょ。くーっ、おいしい!!」
「いい店とわかってるんなら遠慮しろ!!」


そして少しは食べ物を胃に詰めろ!
酔いが早く回って、急性アル中にでもなったらどうするつもりだ、この馬鹿!!
ぐいぐいと料理のお皿をメイコの方に押しやると、何故か酔っぱらった顔でにへらと笑われた。


「……どうしたの」
「だからって好きなのよ。んふふふー」
「その笑い方気持ち悪いよ」
「だぁってぇ、の愛を感じるんだものー」
「愛ならカイトにもらいなさい」
「あのヘタレにそんなことができるとでも?」
「……無理だった、ごめん」


ああ駄目だ、あの情けない声で「メイちゃぁぁぁん」なんて呼ぶ声まで聞こえてきそうだ。
アイス好きのヘタレを思い出して呻くと、メイコはグラスに赤ワインを注いでぐるぐる回した。


「ほんとにね、自分でもあんなヘタレのどこがいいのかわからないんだけど。でもまあ、恋愛なんてそんなもんなんじゃない?」


意外にもしっかりした声で言われた言葉にぱちりと瞬き、レン君の姿を思い出してみる。
笑顔でも困った顔でも、いつもその目は私をまっすぐに見ていて。
ああ、そういえば、最近は背も伸びてきて、ずいぶん大人っぽくなってきたよなあ。


「嫌いじゃないんでしょ?」
「うん……でも」
「じゃあ、付き合いなさいよ。あんたの性格なら、何とも思ってなきゃその場で断ってるに決まってるもの」
「ええええ……」


どうしてそこまで言い切れるんだと顔をしかめたら、何年の付き合いだと思ってるんだと小突かれた。
どうでもいいけど、酔ってて手加減なしだから、結構痛い。


「まあ、相手が中坊のガキンチョじゃ、が戸惑うのもわかるけどさ。メイコ様を信じなさいって」
「……うん……」


可愛い可愛いレン君。
弟みたいなレン君。
リンちゃんには絶対に頭が上がらないレン君。
歌が大好きなレン君。

今までの記憶が頭の中を駆けめぐって、本当に好きになれるんだろうかと心配になった。








緊張しながらレン君にメールをして、小さい頃よく遊んだ公園に来てもらう。
家から歩いて5分くらいの距離なのに、全力で走ってきたレン君は肩で息をしていた。


さ……っ、ごめ、待った!?」
「いや……全然待ってないけど……そんなに走ってこなくてもよかったのに」


呆気にとられて思わず本音をもらすと、色素の薄い顔が真っ赤に染まる。
あ、可愛い。


「だって……さんからメールもらうの、初めてだったし……」


少し拗ねたように口を尖らせて、視線を斜めにずらして。
頬を染めたレン君は、そこらの女の子よりもずっと可愛い。
にこにこと見守っていたら、レン君が緊張した面もちで顔を上げた。


「あの、それで」


返事、は?


一瞬返事に詰まって、頭二つほど低い場所にある顔を見つめる。
よく見れば目が充血していて、うっすらとくまもできていた。
健康優良児な彼にしては珍しい。


「……寝不足?」
「うん、まあ……」
「そっか」


うん。


そこで、何となく会話が途切れる。
覚悟を決めて呼び出したはずなのに、たった一言がなかなか言えない。
口ごもっていると、可愛い顔がみるみる曇っていく。


「…………そっか」


ぽつりと呟いたレン君は、本当に悲しそうだった。
泣きそうな顔を無理矢理笑顔にして、ごめんと頭をかく。


「困らせたよね、俺。ほんとごめん」
「あの、レン君」
「もうこんなこと言わないからさ、だから   
「こら、ちょっと待ちなさい」


矢継ぎ早にまくしたてるレン君の頬を両手で挟む。
まずい、つい小さい頃の癖でやっちゃった。
驚いた顔で固まっているレン君に、恥ずかしさをごまかすために苦笑してみせる。
そのまま息を吸って、吐いて、もう一度吸って。


「……あのね、まだレン君が好きかどうか、よくわからないの」
「……うん」
「でもね、レン君がそれでいいんなら」
   え」


ぽかりと大きく口が開く。
ちょっと間抜けなその顔も、何だか可愛い。

そのまま数秒経って、耳から首まで真っ赤になって。
レン君がそろそろと手を伸ばしてきた。
何だかくすぐったくなって笑い返して、まだ私よりも小さな手を握り返す。


「よろしく、レン君」