うちのご近所さんには、それはそれは可愛い双子がいる。
なんでもハーフだそうで、色白の肌に明るい金髪がよく似合う。
上の子がリンちゃん、下の子がレン君。
半年前にレン君から告白されて、付き合うようになった訳だけど 。
誰か教えてくれ、どうしてこうなった。
「メイコ……私、もう駄目だ」
「はぁ?どうしたのよ」
「レン君が好きすぎて生きてるのがつらい」
「…………カイトみたいな変態じみたセリフを、まさかあんたから聞くとは……」
呆れたようにため息をつかれても、私にだってどうしようもない。
まさか、こんなに好きになるとは思ってもみなかったのだから。
子供だとばっかり思っていたけれど、実は全然そうじゃなかった。
フットサルをしている時の真剣な顔は、どきりとするほど大人びている。
並んで歩いていると、必ず車道側に立ってくれる。
小さくて柔らかいとばかり思っていた手も、意外に大きくて骨ばっていた。
「いや、あの、うん、ちゃんと男の子だったんだなあって」
「あんた馬鹿?男じゃなきゃ付き合うはずがないでしょうが」
「だって、弟みたいなものだったんだもん……!」
頭を抱えて呻いた私は悪くない。
ご近所の弟分にここまではまるなんて、誰が想像するんだ!
ああでも、レン君格好いい……。
のたうち回る私を見て、メイコは駄目だこりゃと言うように肩をすくめた。
決まった時間にきっちる帰ってくるレン君とは違って、残業がデフォルトの私は、いつ帰宅できるかなんてわからない。
早くても7時を過ぎてしまうから、会えるのは実質土日だけ。
それも部活の試合が入ってしまえば、ゆっくりできる時間なんてほとんどない。
そのくせ仕事中も携帯の出し入れは自由なものだから、休憩時間にぼんやりと携帯をもてあそぶ時間が増えた。
恋する中学生じゃあるまいし。
そこまで考えたところで、レン君はそのまんま中学生という事実に気づいてへこんだ。
ベッドに身体を沈めて、ぴくりともしない携帯をいじる。
「レンくーん……」
おねーさんは寂しいよ。
携帯なんてなければ、こんなにやきもきしなくて済んだのに。
家に帰るまで連絡のとりようがないからって、潔く諦められたのに。
発達した文明が憎たらしい。
「……何で、私なのかなあ」
年が近くて可愛い子なんて、それこそ山のようにいるだろう。
私は特に可愛いと言われることもない平凡な顔だし、性格も格別いいわけじゃない。
一体私のどこを好きになったんだろうか。
はちきれんばかりのレン君の思いを否定するつもりは、ない。
それとこれとは違う話だ。
はふ、とため息をついたところで、携帯が小さく震える。
レン君!?
飛びかかるようにして携帯を開くと、メールが1件。
『さん、もう帰ってる?』
一文だけの短いメールは、レン君らしいといえばらしい。
胸がほわほわ温かくなるのを感じながら、シンプルに返す。
『今日は定時に帰れたから、今は部屋でだらけてるよ』
他愛ないやりとりが嫌いじゃなくなったのは、レン君と付き合ってから。
じゃれあうようなメールは、寂しい気持ちを少しずつ埋めてくれる。
携帯を抱きしめるようにして目を閉じると、それほど経たないうちにまたバイブが鳴った。
『晩ご飯終わったら会いに行く!!』
とくりと胸が鳴る。
会いに行っていい?という、遠慮がちな問いかけじゃなくなったのはいつからだろう。
レン君たちのおばさんもうちのお母さんも妙に協力的だから、勢いに拍車をかけたようだ。
レン君が来るとなれば、こちらものんびりしていられない。
崩れた化粧を丁寧に直して、歯も磨く。
……いや、会社でおやつを摘んでるので。
うちの晩ご飯はまだ時間があるから、おしゃべりする時間は十分にあるだろう。
金曜だし、少しぐらい食事が遅くなっても許してもらえるだろう。
寝ころんでいたせいで乱れた髪を直していたところで、インターホンが鳴る音がした。
ぱたぱたと軽い足音がして、いつものリズムでドアがノックされる。
「さん、こんばんは!」
「こんばんは、レン君」
ドアを開けた瞬間に弾ける笑顔。
それを見ただけで幸せになってしまう。
「食事、まだだったんだね」
「いいの、私も会いたかったし。明日はまた試合でしょ?」
「うん……ごめん」
しょんぼりするレン君に小さく笑って、飲み物だけが乗ったお盆を受け取りながら中に促した。
慣れた様子で床に座りこんだレン君が、紅茶に手を伸ばす。
「応援に行くね」
「さんが来てくれるなら、絶対負けられないな」
「ふふふ、期待してる」
おどけたように顔を引き締めてみせた表情にどきりとしながら、何でもないように笑ってみせた。
ちくしょう、不意打ちだから余計格好いいじゃないか!
心臓が過労で倒れちゃうぞ!
ごまかすように紅茶に口を付けた私に、レン君が神妙な表情になった。
「 さん」
「なあに?」
「俺のこと、好き?」
むせそうになった。
何故このタイミングで訊く……!
涙目になってしまった私の背中をさすりつつ、レン君が眉を下げる。
「ごめん、こんなこと訊いて」
「ど……し、たの、急に」
「……だって」
これ以上むせないようにとカップを置いた私の前で、レン君は照れたようにそっぽを向いた。
曰く。
俺、ガキだし。
背だって小さいし。
気が利かないし。
俺の用事ばっか優先しちゃうし。
さん、絶対文句言わないし。
オトナの男なら、絶対もっとさんに似合うし。
そういうのってやっぱ、気になるじゃん?
ぽつりぽつりと吐き出される言葉があまりにも意外すぎて、目を瞬かせてしまった。
……いや、もう、充分すぎるくらいはまってるんですが。
やっぱりレン君も悩んでいるんだと思うと、自分の悩みなんてどうでもよくなってしまう。
「レン君」
頭をぐちゃぐちゃにしてうつむいている大好きな彼の腕を引いて。
見えた額に軽いキス。
「な !」
「多分、私の方が、レン君を好きだよ」
生きてるのがつらいくらいには。
大きく見開いた目が綺麗だなあなんて末期なことを考えつつ、無防備すぎる唇にキスを落とした。
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