またもやいきなり、教皇に呼び出された。
本日のお迎えはアルデバランさんだ。


「何でしょうねえ」
「行けばわかる。お前が心配するようなことは、何もないさ」


豪快に笑ってそう言ってくれたアルデバランさん。


眉毛がつながっているのはポリシーなんだろうか。
それとも単に、お手入れをしていないだけなんだろうか。


ムウさんの例があるから、そうそう迂闊には訊けないのがつらいところだ。
ああああ、でも気になる……!!


うずうずしながら教皇の間に入ると、教皇の他にサガさんとアイオロス様が立っていた。


   。お前に、冥界訪問の許可を与える」
「え   え、本当ですか!?」


嘘じゃないよね、今日はエイプリルフールじゃないよね!!


「いっ、いつ!いつですか!?」
「冥界側にも打診を済ませたから、早ければ数日中に迎えが来るだろう。それまでに、しかと準備を整えておくがよい」
「はいっ!!」


急きこんで尋ねたら、珍しく教皇が答えてくれた。
相変わらず見た目にそぐわないほど尊大な態度だけれど、そんなことはどうでもいいほど嬉しい。

うきうきと廊下を歩いていたら、女官を従えた沙織さんにばったり会った。


「よかったですね、さん」
「ほんとに!!沙織さんが色々言ってくれたおかげですよ。どうもありがとうございます」


沙織さんが尽力してくれなければ、きっとこの訪問はもっと遅くなっていた。
最悪、実現しなかったかもしれないのだ。

深々と頭を下げてお礼を言うと、沙織さんの細くて綺麗な手が私のそれを握りしめた。


「長い間お待たせして、本当に申し訳ありませんでした。冥界の様子、私にも聞かせてくださいね」
「もちろん!お話するの、楽しみにしてますね」


私はアルデバランさんに、沙織さんは女官に促されて、短い挨拶と共に別れる。
お父様へのおみやげ、何にしようか。


「何がいいと思いますー?」
「そうだね……エリュシオンには花が咲き乱れているというし、ここの花は無理か」


形に残るものがいいかもしれないねと、アフロディーテさんは笑ってくれた。


食べ物もいいかと思っていたけれど、そうもいかないようだ。
けれど神様の領域だから、綺麗なものなら何でもあるんじゃないだろうか。
ううん、難しい。


ぺしゃりとテーブルにつぶれてうんうん唸っていたら(アフロディーテさんに「行儀が悪いよ」とさりげなく注意された)、顔を出したカミュさんが変なものを見るような目をした。
あからさまに引き気味なカミュさんをでろりとした目で見ると、さらに引かれる。
ドン引きされた……。


「……どうしたんだ?」
「おみやげ、何にしましょう……」


その一言だけで、「誰への」お土産かがわかったらしい。
カミュさんは僅かに眉を上げたけれど、目に見える反応はそれくらいだった。
最初の頃と比べると、やっぱり雲泥の差だ。


「……手紙はどうだ?」


少し考えたらしい間の後、カミュさんがそう呟いた。
私の問いに答えてくれたのだと一瞬遅れて気づき、慌てて頭を回転させる。


「手紙、ですか。でも、毎回渡してますよ?」
「アフロディーテに代筆してもらって、だろう?自分で書いてみるといい」
「いやいやいや、書けませんよ!」


簡単な現代ギリシャ語なら書けるようになったけど(Γεια σουこんにちはとかΕυχαριστωありがとうとか)、手紙を、それも古代ギリシャ語で書くなんて……!
単語ごとに活用形がン百もあるようなもの、覚えきれるわけがない。


青ざめながら勢いよくかぶりを振ると、脳みそがシェイクされたらしくくらくらした。
ううう、頭痛い……。


「大丈夫かい?
「はい……」


苦笑したアフロディーテさんに頭をなでられながらカミュさんを見ると、やっぱり苦笑されていた。


「一から書く必要はない。原稿を用意して、それを書き写すだけで充分だろう」


我が子からの直筆の手紙は嬉しいものだと、カミュさんが顔をほころばせる。


え、カミュさん、お子さんいるのか。
こんなに若いのに……。
しかも聖域って、あからさまに聖闘士と女の人の出会いがなさそうなのに。

顔に似合わずなかなかやるなと感心していたら、アフロディーテさんに耳打ちされた。


「……カミュには子供はいないぞ?あれは弟子の話だよ」
「……了解しました」


危ない危ない、またやらかすところだった。

それにしてもこんなに可愛がるんだ、さぞ可愛らしいお弟子さんなんだろう。
ムウさんのところにも小さい子がいるらしいし、お友達なのかな。
ここには小さい子があまりいないから、2人だけだと遊ぶのもつまらないんじゃないだろうか。


いつか会えたら抱っこさせてもらえないだろうかと思いつつ、カミュさんがそう言うなら頑張ってみようと気合いを入れる。


「アフロディーテさん、原文お願いしてもいいですか?」
「もちろん。は文字の練習をしておいで、日本語の原稿をもらえば訳しておくから」
「はい!」


今の私の文字力は、どう贔屓目に見ても幼児並みだ。
せ、せめて、子供並みにしておかねば……!(恥ずかしくて渡せない!)


「カミュさん、どうもありがとうございます!」
「頑張るんだぞ」
「はいっ」


そうと決まれば、さっそくお手紙を。
書こうとしたのはいいけれど、出来上がって渡されたアフロディーテさんの文字を見たら、やっぱりそのまま渡したくなってしまった。


「ア……アフロディーテさ」
「駄目。さ、練習練習」
「ううううう……!!」


綺麗な笑顔で結構スパルタでした、アフロディーテさん。
下手くそとはけして言わないけれど、ここはこうした方がもっと見栄えが良くなるとか、たくさんアドバイスしてもらった。

丸2日書けて完成させたお手紙、喜んでもらえるといいな!


















(氷河、うっかり9歳児疑惑。まさか弟子が2人いて、しかも両方15歳だとは思ってもいないヒロイン。アフロは溺愛しててもやっぱりスパルタです)