「 はあ?」
思わず間抜けな声を上げてしまった私を、一体誰が責められよう。
いや、素直に嬉しいけど!
ハーデス様とペルセフォネー様の娘なんて、よだれがなだれ落ちそうなほどおいしいポジションだけど!
それでいいのか、ペルセフォネー様!!
「私達の娘になれば、いざとなったら身体の時を止めてでも、帰り方を探せるわ。それに、こんなにハーデス様のことをわかってくれた人、初めてで……」
ぽっと頬を赤らめる奥方。
そうだよね、ハーデス様って、基本嫌われ者だもんね……。
「あの、でも、ハーデス様が……」
「お父様、って呼んで差し上げて?」
嫌がるんじゃないかと言いかけた唇は、細くて長い指にそっと止められた。
甘い声でささやかれて、そっとハーデス様をうかがってみる。
……どうしよう、何となく期待されてるように見える私、かなり末期かもしれない。
重たい沈黙のあと、やっとの思いで呟いてみた。
「お、とう……さま?」
「…………」
あ、やっぱり嬉しそう。
「私は?」
「 お母、様?」
「そうよ!お名前を教えてちょうだい、私の愛しい娘」
そんなノリでいいのかよ!
突っ込みたいけど、嬉しさの方が大きすぎて、もうどうでもいいよ!
「です!」
いきいきと答える私の頭を、ハーデス様がそっとなでた。
あのハーデス様が。
ああ、もう、やっぱりフェ(ピー!!)説なんて嘘に違いない。
こんなにピュアな人が、そんなことを強要するはずがない!
「あの、あの、お願いしたいことがあるんです」
ハーデス様を見上げて懸命に言うと、代わりにペルセフォネー様が首を傾げた。
「どうしたの、」
「あの、私、ハーデス様に 」
「?」
たしなめるような口調に、慌てて言い直す。
「お父……様に、あの、あの」
やっぱり言いづらい。
とてつもなく言いづらい。
「……どうした?」
低くて(何となく)優しい(気がする)声に促されて、ぎゅっと目を瞑った。
「あっ……編みぐるみ、作れますか!?」
やばい、また空気が凍った。
私の両親(仮)以外、みんな固まった。
何言ってんだこいつという視線をひしひしと浴びながら、居心地の悪さに耐えつつお父様を見る。
果てしなく長い沈黙のあと、お父様が小さくうなずいた。
「……っ!!」
あ、お兄さんが口からエクトプラズマ出しそうになってる。
「サガ!サガ、しっかりしろ!!」
アイオロス様が必死に頬を叩いているけれど、あれって頬が腫れあがらないんだろうか。
いやいや、そんなことよりも今は、お父様が編みぐるみを作ってくれるということが大事だ!
「何がいい?」
「パンダ!パンダがいいです!抱っこできるぐらい大きいの!!」
「……わかった」
「!!」
お父様は手先だけは超器用(のはず)(酷い)だから、きっと素敵な編みぐるみを作ってくれるに違いない!
「それじゃあお父様、冥界に行きましょう!」
太陽はものすごく恋しいけれど、エリュシオンならばきっとやっていける。
お母様もごきげんよう!と言いかけた私の肩を、お父様がそっとつかんだ。
そのまま静かにかぶりを振ったお父様に首を傾げてお母様を見ると、やっぱり寂しそうに微笑んでいる。
「それがね、」
ああ、なんだろう、嫌な予感。
「貴女には、この聖域に滞在してもらおうと思うの。冥界からの客人として」
ほら、やっぱり。
「どうして……と、訊いてもいいですか?」
「貴女は神になったようなもの。けれど、人の子はやはり太陽が恋しいでしょう?」
優しい優しいその笑顔に、どこまでも私のことを考えてくれているのだとわかった。
形だけの愛情じゃない、この人達は本気で私のことを好きでいてくれる。
だから、私もうなずいた。
「こちらの人達が、それでいいと言うなら。でも、月に一度の里帰りはさせてください」
だって、私もお母様もいないなら、お父様はずっとエリュシオンで独りぼっちだもの。
娘として、それはいただけない。
駄目?と小首を傾げると、お母様とアイコンタクトをしたアテナ(面倒だからもう確定)が苦笑気味にうなずいた。
「よろしくお願いしますね、アテナ」
「貴女の娘ならば、ペルセフォネー」
女同士は和やかに了承を得られたので、ひとまずよしとしておこう!
お兄さんや金ぴかの人の空気が怖いけれど、それはとりあえず無視。無視。
仮面はもっと怖いけれど、こっちも無視。
「よろしくお願いします、ええと アテナ?」
「沙織、で結構ですよ、さん。私は人でもあるのですから」
微笑んだその顔がちょっぴり悲しげに見えたから、笑顔でうなずき返した。
「よろしく、沙織さん!」
さあて、帰るまで楽しみますか!
お父さん、お母さん、待っててね!
どんなに時間がかかっても、きっと帰ってみせるから!
だからお願い、大学は休学扱いにしておいて……!
(単にピュアボーイなハーデスを書きたかっただけ。続きそうで続かない)
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