聖域に、とても珍しいお客さんが来たらしい。
例によって教皇庁のそのまた奥に引っこんでいる私にはあまり関係ないけれど、皆さんが取っかえ引っかえ上まで上ってくるのだから、(そしてそのついでに私に声をかけてくれるのだから)まず間違いないだろう。
どんな人かなあとぼんやり考えていたら、ひょっこりとミロさんが顔を出した。
「よっ。ペルセフォネー様はいないんだな」
「お母様はご自分のお部屋にいらっしゃいますよ。ご用ですか?」
「いや、俺はに。まだ一輝達に会ってないだろ?アテナも勧めてたし、どうかと思って」
「一輝?」
こてり、と首を傾げると、ミロさんにぐりぐりと頭をなでられる。
そっかー、知らないよなーと言ってないで!
せっかくお母様が整えてくださった髪型が崩れる!!(やめて……!)
崩れてしまった髪を何とか元に戻そうとしながら話を聞くと、何でも星矢君達のお兄さんらしい。
というよりも、瞬君のお兄さん……?
星矢君達とは血が半分しかつながっていないんだとか。
あの4人って兄弟だったのかとか、あれだけ顔が似ていない兄弟も珍しいとか、そんなことはまあ置いておいて。
一輝君は今年で16で、あちこちを放浪している一匹狼的存在らしい。
そんな彼が、今回誰かを連れて、この聖域にやってきたんだとか。
お連れさんも珍しい人だから、余計に大わらわになっているようだ。
「アテナはよければペルセフォネー様もっておっしゃってたけど、ご都合どうか知ってるか?」
「お母様なら、多分大丈夫だと思いますけど……お母様にも関係あるんですか?」
単なるお客さんなら、お母様まで呼ぶこともないだろう。
もしかして、冥界関係の人なんだろうかと思いながらそう訊くと、ミロさんは何とも微妙な表情になった。
「あー……関係あるっちゃあ、あるのかな?ないと言えばないし……」
「どっちなんですか」
「 多分、ある!」
その間がものすごく気になります、ミロさん。
堂々と胸を張っているのに、「多分」がついている辺りが特に。
やれやれ、と思いながら、一応お母様のところにもお伺いに行く。
「お母様、何だかお母様にも関係がありそうなお客様が来ているみたいなんですけど、お会いになりますか?」
「客人……?神ではない、わね。人の子かしら?」
「それが、よくわからなくて……多分そうだと思うんですけど」
我ながら何とも要領の得ない答えだと思いながら首を傾げると、優しい手つきで頭をなでられた。
うっとりと目を細めると、綺麗に微笑まれる。
「 会いましょう。もしも冥界に関する者なら、私も会っておかなければ」
「ご一緒します!」
「もちろんよ、」
つん、と額をつつかれて、微笑ましげに笑われた。
そんなお母様に連れられて沙織さんのところに行くと、例のごとく服やら髪やらをいじり倒される。
私にはどこがどうなっているのかわからないほど複雑な編みこみとかされて、毎回出来上がりに感嘆の吐息をもらしてしまう。
そうしている間にも、今度は沙織さんの先導でいつもの教皇の間へ。
いつもは一つしかない壇上の椅子が、何故か3つに増えていた。
「ええと……私も座るん、ですか?」
「もちろんです、さん」
「私達が座るのに、どうしてあなたが立っていなければいけないの?」
至極当然のように沙織さんにうなずかれ、お母様には不思議そうに首を傾げられる。
神様達の基準をなめちゃいけないってことですね、わかりました。
気分的にはぐったりしつつも、背筋はしゃんと伸ばして。
お母様の娘として、恥ずかしくない振る舞いをしなければ。
緊張しきりの私をよそに、沙織さんもお母様ものんびりしたものだ。
「アテナ、客人というのは誰なの?」
「私の聖闘士と、ハーデスを守っていた娘ですよ」
「まあ、あの方を !それでは、彼女が例の」
「ええ。話は聞いたことがあるでしょう?」
……お父様を守ってくれていた、人?
一体どういうことなんだろう。
そんな話、一度も聞いたことがない。
内心首を傾げている私に気づいたのか、沙織さんが簡単に説明してくれた。
「以前、聖戦があったことはお話したでしょう?」
「はい」
「その際、ハーデスの魂を弟として持っていた人がいたんですよ」
…………ええと。
簡単すぎてよくわかりません、沙織さん。
お父様は神様なのに、人間の女の人の弟?
しかも魂って、それじゃあまるで、瞬君に憑依した時のようじゃないか。
二重に憑依とか、お父様はどれだけチキンなんだ。
ますます首を傾げてしまった私に苦笑し、沙織さんはそっと目を細めた。
それはまるで、痛ましいものを思い浮かべているようで 。
そっとお母様を窺うと、やっぱり痛ましそうな顔をしている。
どうしてだろうと思っていたら、沙織さんが静かに口を開いた。
「彼女は、ヒュプノスとタナトスの封印を解いたが故に、家族家人全員死に絶え、彼女自身もハーデスの傀儡となったのです」
それが、彼女が10にも満たない頃。
その人が住んでいた、笑顔と草花に囲まれた城は、不毛の地となったらしい。
操られたまま成長したその人は、目覚めた瞬間一体どんな気持ちだったんだろう。
泣きたくなるのをこらえていたら、お母様がそっと頭をなでてくれた。
「 だから、。私達は、誠意をもってその者に接しなければ」
「 はい」
人生を目茶苦茶にしてしまってごめんなさい、苦しい思いをさせてしまってごめんなさい。
それでも お父様を守ってくださって、ありがとうございます。
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