今日も今日とてアフロディーテさんのところでのんびりしていたら、不意にムウさんがやってきた。


「あ、こんにちはー。アフロディーテさんならお出かけ中ですよ?」


今日は一日中教皇庁でお仕事だと言っていたから、帰ってくるのは夜になるだろう。

聞いていなかったのかと首を傾げると、ムウさんが静かにかぶりを振った。
その表情がいつもよりも固いことに気づいて、何かあったんだろうかと不安になる。


「……ムウさん?」


思わず揺れた声でそろりと尋ねると、ムウさんが固い声で短く答えた。


「あなたに、面会です」
   へ?誰ですか?」


こちらの知り合いなんて、この聖域以外にいないはずだけれど……。
一体誰だろうと首を傾げると、ムウさんは眉根を寄せて私に手を差し伸べる。


「冥界からの使者です」


冥界。
というと、お父様からのお遣いだろうか。


「はあ……遠いところから、お疲れ様ですね」
「……そうですね」


正直な感想を言ったら、何故かムウさんが微妙に気の抜けた顔をした。


「でもあれですかね、冥界から来たっていうんなら、やっぱり地道に地面掘って来たんですかね


何しろ、ハーデス様の登場っぷりからして、地面からにょろりだ。
その部下の人が同じようにきても、私全然驚かない!
というか、それ以外に方法があるんだろうか。


真面目に考えていたら、ムウさんが笑いをこらえるような表情で私の肩を抱いた。


「……貴女がそうなら、きっと大丈夫でしょう。行きましょう、皆が待っています」
「はい!   って、私、この格好でいいんですか?思いっきり普段着なんですけど……」


Tシャツにホットパンツという今の格好では、(多分行き先である)教皇庁をうろつくのはまずい気がする。


「気にしなくてもいいですよ」
「……いや、やっぱり着替えてきます。すぐに終わらせるので!」


アリッサさーん!と仲良くなったこの宮の侍女さんを呼びながら奥に駆けこむと、すぐにひょっこりと顔を見せてくれた。


「あら、様。どうなさったんですか?」
「教皇庁に行かなきゃいけなくなって……着替えたいんですけど、手伝ってもらえますか?」


1枚の布を巻きつけるキトンは、何回やっても綺麗なドレープを作ることができない。
というか、まともに着られない。

それを知っているアリッサさんも、くすくすと笑いながらも手早く着付けてくれた。


「はい、できましたよ」
「ありがとうございます、行ってきます!」


大急ぎでリビングに戻ると、ムウさんが髪を整えてくれる。


「本当なら、編み込みくらいはしてあげたいんですけどね……」
「いいですよ、そこまでしていただかなくても!これだけで充分可愛いです」


2分そこそこで作ったとは思えないくらい、見事なまとまり具合だ。
ちょっとだけ散った毛先が可愛くて、同時に自分では絶対作れないと思ってしまう。


「少し急ぐので   いいですか?」


抱き上げて運んでもいいかと暗に訊かれて、一も二もなくうなずいた。

呼びに来てもらってから、もう5分近く経っている。
さすがにこれ以上待たせるのは、いくらなんでも申し訳なさすぎる。


おとなしく俵担ぎ……かと思いきや、横抱きされて驚いた。


「スカートですし、ね」


悪戯っぽく笑ったムウさんに抱えられ、あっという間に教皇庁。
複雑に入り組んだ回廊は、多分2年経っても覚えられないだろうと思うほどだ。

そこを迷なくすいすいと歩くムウさんに連れられてたどり着いた先は、因縁の教皇の間だった。
到着を告げたムウさんに中から返事が返って、重い音をたてながら扉が開く。


そこにいたアテナにまず驚いて、それに対峙するように立つ2人にまた驚いた。


「双子!!」
「……貴女が、様ですね」


右の人が振り向いて、まっすぐに私を見つめる。
その瞳に何かを見透かされそうで、反射的にムウさんの影に隠れてしまった。


見回せば何故か金ぴかの鎧を着た人が勢揃いしていて(そういえばムウさんも金ぴかだ)、何かの儀式か?と首を傾げてしまう。
ぱちりと目が合ったアフロディーテさんがにこりと微笑んでくれて、反射的に顔がゆるんだ。


「私はハーデス様の配下、タナトス。ハーデス様からの贈り物を持って参りました」
「あ、ありがとうございます!お世話かけてすみません」
「同じく、ヒュプノス。姫君におかれましては、ご機嫌うるわしゅう」
「はあ……」


タナトスさんにお辞儀をしていたら、ヒュプノスさんにウインクをされた。
何だこの双子、ずいぶん性格違うぞ。
(主にヒュプノスさんから)じりじりと後退りしようとして、はたと気づいた。


   ヒュプノス?
って、あの神話のヒュプノス?


「あっ、あああああの!!」
「はい?」


にっこりと笑ったヒュプノスさんに詰め寄って。




「奥様、美人さんですか!?」




是非拝顔を!!と息巻くと、金ぴかズが一気に肩を落とした。


……」


シュラさんが地獄の底を這うような(もうこれは地の底ですらない)声でうめく。


いやいやいや、でもこれは気になるでしょう!
天界まで攫いに行った奥さんですよ!!
優雅の女神ですよ!!


「姫君が気になるならば、冥界にいらした際にお会いさせましょう」
「本当ですか!?」


美人さん!!
お母様とアテネ以外の、久々(女性の)超美人さん!!


踊り狂いそうな喜びようの私に、教皇が呆れ果てたような声を投げかける。


「娘、そこまでにせい。一旦下がっておれ」


その言葉に、タナトスさん達の空気がひやりと冷たくなった。


   貴様……我らがハーデス様のご息女に、そのような口をきけると思ってか」
「我には単なる小娘にすぎん」
「無礼者!!」


空気がびりびりと震える。
息をするのが苦しくなって、脂汗がじわじわと浮かんできた。


助けてとムウさんのマントを握りしめると、力強く抱き寄せられる。
温かい空気に包まれて少し楽になるのと同時に、ムウさんの凍るような声がした。




「いい加減になさい」




ガンゴガン、とものすごい音がしたけれど……大丈夫だろうか、3人とも。
ムウさんの胸にぴったりと顔を押しつけられた状態で、生きてるといいなあと他人事のように考えた。












(3話くらいで終わります。予想外にまとまりがつかなかった…!)