重苦しい空気が完全になくなってから、そっと解放される。
そろりと振り返ってみて、そのまま固まってしまった。


「……あの、大丈夫ですか?」


蛙のようにつぶれている3人におそるおそる尋ねると、何故かものすごくいい笑顔をしたアフロディーテさんが代わりにうなずく。


「これくらいでどうにかなる人達じゃないさ」


……教皇の頭に薔薇が刺さっているのは、見なかったことにしておこう。
ついでに、ヒュプノスさんの額に、アテナが投げたらしい杖の跡が残っているのも、見なかったことにしておこう。


「それにしても、はずいぶん神話に詳しいんだな」
「昔から好きだったんですけど、詳しくなったのは最近ですよ」


アフロディーテさんに感心されて、照れながら頭をかく。
そうこうしているうちに3人が気がついて、微妙に気まずい空気が流れた。


「……それで、贈り物とは?」


必死に威厳を保とうとしている教皇に、込み上げて来る笑いを必死におさえる。
いつの間にか隣にきていたシュラさんに小突かれて、変に引きつった口元を頑張って引きしめた。

前にムウさん、右にアフロディーテさん、左にシュラさん。
かなり豪華なメンバーに囲まれて、改めてヒュプノスさん達と向かい合う。


ちなみに、私の後ろにはアテナと教皇がいたりする。


一番安全なポジションだな、おい。
当たり前だけど。


「あの、お父様からですよね?」
「はい。こちらを様に、と」


教皇は完全無視だったタナトスさん、私が訊くと笑顔で答えてくれた。
うやうやしく差し出されたのは、白い大きな箱。

一抱えどころか二抱えくらいありそうなそれを、一体どこに持っていたんだろうか。

何でもありなこの世界だからと深く考えるのはやめにして、笑顔でそれを受け取   ろうとした。
ムウさんに邪魔をされなければ、受け取れていた。


「ムウさん?」
「何が入っているかわからないものを、そう簡単に受け取るものじゃありませんよ」


特に、冥界のものは。


厳しい顔でそう言い切ったムウさんに、どうしてここまで人がいるのかが、何となくわかった。


   信用、されていないんだ。冥界は。
この聖域に。

同盟もちゃんと結んだと聞いた。
ここにいる人達も、お父様が生き返らせたんだと聞いた。

それでもなお残る、根深い確執。


「大丈夫ですよ。お父様のものですから」


にっこり笑って今度こそ受け取り、一体何だろうとわくわくしながら開けて、思わず歓声が出た。


「うわあ……!」
「うわあ……」


同じセリフでも、最初は私のもの。
次はミロさん(ようやく覚えた)のものだ。


お願い通りの大きなパンダのあみぐるみを抱きしめながら周りを見回すと、聖域側の人が全員撃沈していた。


「……どうしたんですか?」
「…………いや…………」


とりあえずサガさん(……だと思う。同じ顔だけど、隣の人は金ぴかじゃないし)に訊いてみると、膝から地面に崩れ落ちた状態のままでかぶりを振られる。
それならアフロディーテさんにと思っても、こちらも片膝をついて額を手で押さえていた。


「お気に召しましたか?」
「はい!ありがとうございますと、お父様にお伝えください!」


そんな状況を華麗に無視して笑うタナトスさんに、私もぎゅうぎゅうとあみぐるみを抱きしめながら笑い返す。
笑顔全開の自覚はあります、私。


「まだまだお作りのようでしたので、頃合をみてまたお渡しに参ります」
「うわあ、本当ですか!?楽しみ……!」
「いえ、どうせあみぐるみを作るくらいしか能がないお方ですから。お気になさらず」


……どうしよう、タナトスさんが黒い。
笑顔が黒すぎる。
この人、実は苦労人だったりするんだろうか。


だってほら、今も実は密かに、ヒュプノスさんの足の甲をぎりぎり踏みつけているし。
ヒュプノスさんが妙に静かだと思ったら、こういうことだったのか……。


「あの、お疲れ様……で、す?」


最後の方がちょっぴり疑問系になったけれど、そう言ってみると、タナトスさんがぴくりと反応した。




「…………様」
「え、あ、はい」




目を伏せて小さく呟いたタナトスさんに、(いつの間にか復活していた)シュラさんが動こうとする。
けれどそれよりも、タナトスさんの方が速かった。




   っ、わかっていただけますかあぁぁぁっ!?」




瞬間移動並みの速度で詰め寄ってきたタナトスさんが、がっしと私の手を握る。
あ、ちょっと涙目だ。


「ハーデス様はエリュシオンでペルセフォネー様と戯れるだけだし、このヒュプノスはやはりエリュシオンで妻といちゃこくだけ!!冥界三巨頭と私がいなければ、冥界はどうやって回るんですか!?」
「おいタナトス、何言って」
「事実だろうがこの愚弟が!!少しは働け馬鹿者!!」


神のはずなのに最近寝ていないんだと怒鳴るタナトスさんは、寝不足の人間そっくりなキレっぷりだ。
やっぱり苦労人なんだなあとうなずきながら話を聞いていたら、すっかり好感を持たれてしまったようだ。


「冥界にいらした際には、私が案内をしてさしあげましょう」
「ありがとうございます、楽しみにしてますね」
「必ず」


笑顔で握手をしあって、近いうちにきっとある「いつか」の約束をする。
そんな私に今度はヒュプノスさんが近寄ってきて、お菓子のような包みを差し出した。


「姫君、こちらも。ハーデス様からの贈り物でございます」
「うわあ、ありがとうございます」


丁寧に包装をはがして、出てきた箱に驚く。




「……ヨックモックだ……」
「……ヨックモックですわね」




「って、アテナ!?」
「嫌だ、さん。沙織、でしょう?」
「あ、はい、沙織さん」


びっくりした。
中身がヨックモックだったことよりびっくりした。
死ぬほどびっくりした。


   でもなんで、ヨックモック?












(教皇はアフロが、ヒュプノスはアテナが、タナトスはムウが成敗。タナトスは絶対に苦労人だと思う。ヒュプノスは奥さんといちゃこいていればいい。一番のとばっちりは、実は三巨頭)