偶然に偶然が重なると、世の中何か起こるかわかったものではない。
それはこの聖域においても、例外ではなかったようで。


「サガ貴様、いい加減にしろ!!お前の潔癖さは異常だ!!
「何だと!?ではお前は、この散らかり放題の現状で我慢しろというのか!?


今日も今日とて、双児宮では元気な兄弟喧嘩の真っ最中。
上も下も(テレパスで盗聴できる)ムウも、いつものことだと放置プレイだ。
あまりにも頻繁すぎて、誰も止める気など起きなかった。


そしてこれも、いつもの流れ。


「アナザーディメンション!!」
「ゴールデントライアングル!!」



名前が違うくせに全く同じ技を繰り出し合って、互いが互いを相殺する。


相殺、したはずだった。




   オーディーン?」




何も起こらないはずの場所に、不可思議な格好をした少女が立ち尽くしていなければ。


瞬時に戦闘態勢に入ったのは、彼らの役目を考えれば仕方のないことだっただろう。
そして彼女が瞬時にそれに反応したのも、また仕方のないことだった。


「何者っ!!」
   っ、ブリザガ!!」


とてつもない破壊力を秘めたサガの拳が、巨大な氷に遮られる。
襲いくる氷を砕きながら、双子は揃って臨戦態勢になった。


「誰なの、あなた達!!」
「それはこちらのセリフだ!」


素早く槍を構えた少女に、カノンも咆える。
手元の武器に珠を詰めている少女に向かって、カノンが音速で迫った。


「ぁああぁぁっ!!」
「シールド!!さらに追加斬り!!」


拳が寸前に迫ったところで少女が叫ぶと、カノンの拳が何かに弾かれた。
それを追うようにして、少女の得物がカノンを襲う。


「ちぃっ!!」


すんでのところで避けて飛びずさったカノンの横に、サガもゆるりと並んだ。


「……追加斬りの成功率は、ほぼ100%のはずなのに……」


目を見開いて珠を見つめる少女に、そこでようやく2人とも違和感を覚えた。

この地上のみならず、他のどの界でも見られないような出で立ち。
小宇宙の全く感じられない攻撃。
そして、見慣れぬ珠。


   これは、誰だ?


「……聖域への侵入者じゃないのか?」


訝しげに眉根を寄せたカノンに、少女も眉を顰める。


   ここは、ニブル山ではないのですか?」


真夏の聖域にはそぐわない厚着の少女は、鬱陶しげにコートを脱ぎ捨てながらカノンを見据えた。
その目に敵意がないのを今更ながらに見て取って、2人は視線を交わし合う。
始めにサガが、次いでカノンが臨戦態勢を解き、少女に深く頭を下げた。


   申し訳ない」
「いえ……。お互い、突然のことに混乱しただけみたいですし」


私にも非があるとかぶりを振って、少女も礼儀正しく頭を下げる。


と申します。先程は失礼いたしました」


自分達よりも5つは確実に若い娘の方が、明らかに礼儀をわきまえている。
双子は何ともいたたまれない気分になった。


「ところで、ここはどこでしょう?この暖かさからいうと、コスタ・デ・ソルですか?」
「……フランスにそんな場所があったか?」
「知らん。カミュに訊け」


顔を見合わせて首を傾げ合うサガとカノンの会話に、今度はが首を傾げる。


「フランス?どこかの村ですか?」
「……フランスはフランスだ。ヨーロッパにある   
「ヨーロッパ?」


そこに至ってようやく、お互い明らかに何かが変だと気づいたらしい。
しばらく無言の時間が流れた後、意を決してサガが、に向き直った。


「……。出身はどこだ?」
「アイシクルエリアの奥にある、アイシクルロッジです。今はもう、廃村に近い状態ですが……」
「……カノン。聞いたことがあるか?」
「いや。アイシクルエリアとやら自体、どこにもないと思うぞ」


話し合う双子に、今度はが尋ねる。


「ここはどこでしょう?」
「聖域……ギリシャだ」
「サンクチュアリ……」


難しい顔で黙り込んだは、ややして静かに顔を上げた。


「私はトレジャーハントをしています。今回はニブル山の奥に古代種の遺跡があると聞いて、そこに向かう途中だったのですが……異次元に来てしまったと、その見解でよろしいでしょうか」
   そのようだ」


原因の一端を担っているという自覚のあるサガが、気まずそうな表情でうなずく。
それを見届けたは、一気に脱力したように座りこんだ。


「あー……やっぱ最近、オーディーンばっかり呼んでたからかなあ。メテオが迫って来てから、モンスターのレベルが半端なく上がってきてるんだけど……」


オーディーン、怒っちゃったのかなあ。


頭を抱えてうめくに、カノンが嫌な予感を覚える。
自分達の技のぶつけ合いが原因かと思っていたが、これはもしかしたら   


「……。もしかして、さっきのような不可思議な技を使ったか?」
「ええ。異世界から召喚獣を呼び寄せましたが……」
「……それか……!」


おそらく、全く同じタイミングで3つの技が放たれたのだろう。
そんな偶然をまた起こすのは、いくら息を合わせようと、至難の技だ。


「……申し訳なかった。この件に関しては、この愚弟が悪かったわけだが   
「何を言う、お前も原因だろうが愚兄」
つまりどっちも悪かったわけですね。よくわかりました」


醜い兄弟喧嘩を、が一言でばっさり。
至極あっさりとうなずいたは、そこからさらに大人の対応をした。


「お二人の様子を見る限り、私にも非があるようですし。ご迷惑をおかけして、申し訳ありません」


深々と頭を下げたに、双子はもはや完敗だ。


「……なあサガ。異世界の奴らは、誰もがこいつみたいに老成してるのか?」
「知るか。俺に訊くな」