折り返しの水曜日は、個人的に週の中で一番身体がきつい日だ。
同期の中には木曜日が一番きついと言う人もいるし、友達なんかは金曜日が息も絶え絶えだともらしているけれど、まあ私にとっては水曜日。
重たい身体をひきずりつつ出社すると、入れ違いに出て行こうとしていた先輩に臨時朝礼があると知らされた。
朝礼は毎週月曜日だけのはずだけれど、一体どんな重要案件が勃発したんだろうか。
ああもう、今日は清掃当番だったのに!
会議室の場所だけ訊いて、慌ててバッグをデスクに放り投げる。
息を切らせながら会議室に入ると、もうすでにほとんどの人が集まっていた。
そして奧の窓際には、本部長と知らない人が一人。
「……何があったんですか?」
「あれ?さんは初めてだっけ。今日から入社の人の紹介だよ。ほら、さんも5月にやったじゃない」
「……あれか……!」
入口の横に並びながら隣の先輩にこっそり訊いたら、なんのことはない中途入社者の紹介だったらしい。
「幸村精市です。早くこの会社の一員として働けますよう努力しますので、よろしくお願いします」
穏やかな笑顔で自己紹介した幸村さんは、多分とても優秀な人なんだろう。
私とそういくつも違わないだろう外見を見て、こっそりと思う。
初めての後輩だねなんて笑われたけれど、スキルは間違いなく私の方が下ですって、先輩。
「幸村君は経営企画部への配属になります。皆さん、よろしくお願いします」
ご機嫌な本部長が彼の配属先を告げて、それで臨時朝礼は終わり。
……って、私の部署ですか、本部長。
確かにあからさまに人が足りていなかったから、ここでの補充は先輩達が大喜びするだろう。
新人の私なんて、そりゃあもう使えないも同然だし。
急いで部署に戻って全員のデスクを拭いていると、いつの間にか増えた席に幸村さんが案内されてきた。
「おはようございます」
「あ、おはようございまーす。よろしくお願いします」
「うちの新人のさん。幸村君の先輩だから、何でも訊いて平気だよ」
「ちょ、冗談きついですよ、課長!」
入って半年のペーペーに、余計なプレッシャーかけないでください!
必死に課長に訴えていたら、幸村さんがくすりと笑った。
そんじょそこらの女の人よりも綺麗だ。
何をどうしたら、ここまで白くてすべすべの肌が手に入るんだろうか。
「ここのことはよくわからないから、よろしくお願いしますね。先輩?」
「やめてくださいってば、幸村さん!」
年もキャリアも上の人にそう呼ばれるなんて、チキンハートが破れてしまいそうだ。
それじゃなくても美人の笑顔は精神衛生に悪い。
「私、ほんとに何もわからない新人なんです。こちらこそ、よろしくお願いします」
深く頭を下げると、頭上でまた柔らかい笑い声が聞こえた。
始業を告げる課長の声がこれほどありがたかったのは、今まで他にないだろう。
まだ仕事がおぼつかない私は、トレーナーの先輩についてもらって補助業務をこなしていく。
斜向かいの席で主任からあれこれ説明されていた幸村さんは、何やら二言三言会話を交わしてうなずいたようだった。
すぐに手慣れたように仕事を始めたのは、さすがと言うべきか。
すごいと思いながら部門へのメールを打っていると、不意に頭上に影が落ちた。
「さん、こっちもお願いしていい?」
「あ、はい。このメール、飛ばす前に一度確認していただいてもいいですか?」
「うん」
ようやっとメールを作り終えて(開発部門の本部長達に送るものだ)(ものすごく緊張した)先輩に送り、代わりにもらった部門のデータを整理し始める。
うーん、この部門は少し計画から進捗が遅れているようだ。
先月比が83%だから……このアップ目標だと、ちょっとつらいかも。
データベースからスケジュールのファイルを開いて確認し、そういった細々したことをまとめて先輩に報告する。
そんなことを繰り返しているうちに、定時なんていつの間にか過ぎてしまっていた。
人事がワークライフバランスとか叫んでいるけれど、こちらとしては何それ?おいしいの?という感じだ。
やらなければ間に合わないのだから、それならばもっと人を増やしてくれと言いたくなる。
先輩達だって充分フル稼働しているんだし、私達なりに効率化もしているのだ。
これ以上現状メンバーでどうしろと?
そんな文句を心の中で垂れ流しつつ、何とか8時過ぎには会社を出る。
ちょうど開発の同期とかち合ったので、ついでにと一緒に夕食をとることにした。
「どうー?進み具合」
「駄目駄目。今日作った分も、マネージャーで没出されたしさ……。ほんとに締め切りでアップできるのかって不安になるよ」
システム開発の同期も、やっぱり苦しんでいるようだ。
先輩なんてもっとグロッキーだよーとぼやかれて、他人事ではない状況に苦笑してしまう。
「あ、でもさ、のところは新しく人が入ったんだよね。辞令で見た!どんな人?」
「若い人だよー。すごく仕事できそう」
「いいじゃん、それ!……あ、でも、性格悪そうだったりしない?」
「ないない。すっごく優しそうだよ」
あの幸村さんが性格悪いだなんて、そんな。
心配そうに眉を下げた同期に笑ってかぶりを振りながら、幸村さんのことを思い出す。
初日だからと様子見で振られた仕事を涼しい顔でこなして、部門への顔出しも難なく済ませていた。
多分あの人、2つくらい担当振られるかもしれない。
「人当たりいいし、頭いいし、絶対いい人だよ」
残業なんてしないで、定時までに自分の仕事をこなして帰りそうな人だ。
すごい人が入ってきたものだと、改めて感嘆の息を吐いた。
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