どきどきしっぱなしの胸を抑えて、幸村さんと並んで歩く。
ちらちらと見上げていたら、不意にぱちりと目が合ってしまった。
「さん?」
どうかしたのかと微笑みながら訊かれて、慌ててかぶりを振る。
どうしたかなんて、そんなの私が聞きたいくらいだ。
一体どうしたんだ、私は。
それもこれも格好いい幸村さんが悪いんだなどと八つ当たり気味に考えながら、足下の小石をこっそりと蹴った。
かんこかん、と音をたてて飛んで行く小石を見ていたら、横からくすくすと笑い声が聞こえる。
わざと蹴ったところを見られたらしい。
気まずさを押さえてそろりと見上げると、微笑ましそうな表情の幸村さんと目が合った。
「今日は楽しんでもらえた?」
「あ、はい。それはもう」
「よかった」
慌ててうなずくと、幸村さんは本当にほっとしたように息をつく。
「女の子って、どういうところが喜ぶのか、いまいちよくわからなかったんだ。部活仲間に訊いたら、甘い物は大体好きだっていうから」
本当だったんだねと笑った幸村さんに、何だか意外だと思った。
幸村さんは外見からして絶対にもてる人だろうし、女性の扱いにも慣れていそうなのに。
そう考えていたら、思わずまじまじと見てしまっていたらしい。
幸村さんが恥ずかしそうに身じろぎをする。
「……意外?」
「失礼だとは思うんですけど」
思いっきりうなずくと、心なしかしょんぼりされた。
女慣れしているように見られたことが、そんなにショックだったのか。
もしかしたら以前も何か嫌な思いをしているのかもしれないと、慌ててフォローに入る。
「その、幸村さんって、すごく格好いいですし!ものすごくもてたんだろうなって思って」
実際、かなりもてたんだろうと思う。
私が学生時代に同じ学校にいたら、絶対に憧れている。
けれどそういえば、幸村さんの周りに女の人がいる気配なんて、社内の様子でも幸村さんの話でもなかった。
一体何故だろうと綺麗な顔をじっと見上げて、唐突に何となく理解する。
……うん。憧れる分にはいいけれど、隣に並ぶのは遠慮申し上げたい。
綺麗すぎるのも色々と大変なのだと、何だか幸村さんが気の毒になってしまった。
好きな人ができても、もしかしたらそれが原因で振られてしまったこともあるんじゃないだろうか。
そんな振られ方、理不尽すぎる。
機嫌が直ったような様子の幸村さんを見ながら眉を下げると、どうやら気づかれてしまったようだ。
「さん?」
どうかしたのかと再び顔を覗きこまれて、また心臓が跳ねる。
この顔に慣れることなんてできるんだろうか。
「何でもないです」
「そうかなあ……さっきから俺、すごく見られてる気がするんだけど」
「気のせいですよ気のせい、きっと気のせい」
重ねて3回も言ったら、おかしそうに笑われた。
「さんって、見てて飽きないよね」
「……褒められているのか馬鹿にされているのか……」
「褒めてるよ」
当然のようにそう言われたけれど、やっぱりどうにも納得いかない。
馬鹿にされているのではなかろうか。
怪しいと顔に書いて見上げると、幸村さんが柔らかく苦笑した。
「困ったなあ……どうしたら信じてもらえる?」
「幸村さんは言うことがいちいち決まりすぎてるんです。どうやったって信じられません」
「決まりすぎてるって……そんな大袈裟な」
「いやいやいや、自覚ないならさらにタチが悪いですって」
無自覚でこれなら、たいしたタラシだ。
何だか頭が痛くなってくるのをこらえながら、何か気をそらすのにいい話題はないかと必死に頭を回転させる。
ええと、何か他のふくらみそうな話題は 。
考えて考えて、ようやく一つ思い出した。
「 そうだ、メアド!幸村さん、どうして私のメアド知ってたんですか?それに、私の携帯にも幸村さんの名前が出てきたし……」
「ああ、それか」
おかしそうに微笑んだ幸村さんは、あっさりと種明かしの一つを教えてくれる。
「携帯に、署名機能ってあるだろう?いきなり知らないメアドから連絡がきたらさんもびっくりするかと思って、それを使ったんだ」
「なるほど……じゃあ、私のアドレス帳に登録されていたわけじゃないんですね」
「そういうこと」
ちゃんと登録しておいてねと悪戯っぽく言われて、慌ててその場で携帯を操作する。
そういえば、アドレス帳の確認はしていなかった……。
無駄に登録数だけは多いのが仇になったか。
「 あ、ほんとだ。新規登録になりますね」
「だろう?言ってくれてよかった」
ついでだからと電話番号も教えてもらって、こちらからも赤外線通信で情報を送って。
「それで、私のメアドは?」
「うん?」
「私、幸村さんにメアドを教えてないですよね?」
しれっとした笑顔でかわされそうになったけれど、そこでだまされてはいけない。
目に力をこめてぐぐっと見上げると、幸村さんが困ったように(おかしそうに?)小さく笑い声をあげた。
「坂部さんだよ。この間、お昼に行った時に教えてもらった」
「……坂部さんなら喜々として教えそうですね……」
「喜々として教えてくれたよ」
人の色恋沙汰が大好きな坂部さんは、多分幸村さんが私に粉をかけるとでも思ったんだろう。
実際は、幸村さんが行きたかったカフェのお供をつかさどっただけだけれど。
残念でしたと心の中で小さく坂部さんに舌を出して、月曜日になったらちゃんと言いましょうねと提案する。
私なんかと噂が立ったら、それそこ幸村さんに申し訳なさすぎる。
そう思っての言葉だったのだけれど、意外にも幸村さんは悪戯っぽい笑顔でかぶりを振った。
「いいんじゃないかな、言わなくても」
「え、でも 」
「言わないからこそ、楽しいんだよ」
口の前に人差し指を立ててささやく幸村さんの目は悪戯少年のそれそのもので、思わず笑ってうなずいてしまう。
買ってに勘違いさせておくというのも、確かに楽しそうだ。
坂部さんが恋愛話の勘違いをするのもしょっちゅうだから、きっと皆も話半分だろう。
本当の事を知った時の先輩の慌て様を想像して、笑い声がもれるのをこらえられなかった。
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