ようやく1週間が終わった。

疲れ果ててぐったりと電車に乗っていると、不意に鞄の中でバイブが鳴った。
友達からの連絡かと思っていたけれど、メールを開いて死ぬほど驚く。


   幸村さん!?」


どうして私のメアドを知っているんだろう。
というよりも、どうして私も幸村さんのメアドがアドレス帳に入っているんだろう。


おいしいケーキ屋さんを見つけたから、明日食べに行かないかというお誘いだったけれど……そんなことよりもメアドの謎が気になって仕方がない。
ケーキ屋さんは魅力だし、断る理由もないので了承の返事を送りながら、いくら考えても出てこない答えに首を傾げた。

まあ、明日本人に訊けばいいか。












薄手のニットコートを羽織って待ち合わせ場所に向かうと、すでに幸村さんが立っていた。
慌てて駆け寄ると、走らなくてもいいのにと笑われる。


「こんにちは、さん」
「こんにちは、幸村さん。お誘いありがとうございます」
「こちらこそ。付き合ってくれてありがとう」


男同士でケーキ屋さんに行くのもちょっとあれだったから、助かったよ。


どうやら幸村さんには、甘い物が大好きなお友達がいるらしい。
今回のお店もその人に教えてもらったらしいんだけれど、さすがに一緒には行きたくなかったんだとか。


「……浮きますもんねえ、男性2人だと」
「だろう?ケーキが嫌いなわけじゃないんだけどね」


目を合わせて苦笑しあう。
ケーキ好きな男性は、さぞ大変なんだろうと思った。


「ああ、ここだ」


幸村さんが足を止めたのは、ちょっとおしゃれな一軒家。
普通の家にも見える門の前に、小さな看板が立っている。


「可愛いですね……」
「そうだね」


思わず頬をほころばせて呟くと、幸村さんも微笑んでうなずいた。

真っ白な壁に、綺麗に整ったガーデンテラス。
外国の田舎にありそうな家だ。

こんな閑静な住宅街の側にこんなお店があるなんて、思ってもみなかった。


お店の中も小さな小物やお皿などが飾られた、素敵な空間だ。
どれにしようか迷いながらも木苺のケーキを頼んで、のんびりとお庭を眺めながら幸村さんとお話をする。


「綺麗なお庭ですね」
「そうだね。配置がよく考えられてる」
「反対色を一緒にするとうるさいと思ってたんですけど、こうやって見てみるとそうでもないんですね」
「あまり無節操に植えすぎると、確かにうるさくなるけどね。ここはすごく綺麗に植えてあるね」


そこまで話して、幸村さんがやけに詳しいことに気づいた。
普通男の人って、こういう話題には食いつかないんじゃないだろうか。


「……幸村さん、詳しいですね」


思わず呟くと、幸村さんは少しだけ目を見開いた。
そのまま数度瞬いて、ようやく意味に気づいたように照れ笑いをする。


「……好きなんだ。花とか、庭とか、いじるの」
「……素敵ですね」


男の人でガーデニングが好きな人なんて、多分めったにいないだろう。
かく言う私もそんなに詳しいほどじゃないけれど(何度かうっかり水をあげ忘れて枯らしたこともあるくらいだ)(お前はもう植物を育てるなと親に叱られた)、だからこそ自然にできてしまう幸村さんが素敵だと思った。

想像してみてもすごく似合う。
どうしよう、私よりもずっとしっくりくる……。

そうかな、ともう一度照れたように笑った幸村さんは、ごまかすように顔を奥に向けた。


「ああ、来たみたいだ。あれじゃないかな?」
「あ、本当だ。きっとそうですね」
「……ずいぶん大きいんだね」
「そうですね。でも、ちっちゃいより嬉しいですよ」


ちょっとお高めの値段だったのは、そのぶん大きく切り分けてくれるからだったのか。
これなら、安くてぺらぺらのケーキよりもずっと嬉しい。

一口食べると、木苺のすっぱさと生地の甘さが混ざりあって、とてもおいしい。
ゆるむ頬を押さえもせずにぱくついていたら、気がつくと幸村さんにじっと見られていた。


「……ど、どうかしたんですか?」
「いや   おいしそうに食べるなって」
「お、おいしいんですもん」


顔が変になるのは仕方がないじゃないか。
そんなにじっと見なくても!


たじろぎながらも言い返すと、いいことだとうなずかれた。


「おいしそうに食べる人って、見てるとこっちまで幸せになれるんだよ。さんと来てよかった」
「……ありがとう、ございます」


……何だか今、ナチュラルに恥ずかしいことを言われた気がする。
熱をもつ顔を押さえながらやっとの思いで返事をすると、くすりと小さく笑われた。


「ねえ、それ、少しもらってもいいかな?」


それ、と指されたのは、手元のケーキ。
半分ほどに減ったそれをきょとりと見て、幸村さんも食べたくなったのかとうなずいた。


「どうぞ。幸村さんのも、少しいただいてもいいですか?」


気分は友達同志のわけあいっこだ。
友達とのランチでも時々やっているから、あまり抵抗はない。


いそいそと皿を押し出すと、綺麗に微笑んでお礼を言われた。


「レアチーズは大丈夫?」
「レアチーズもベイクドチーズも大好きです」
「そっか」


幸村さんが頼んだチーズケーキも、口の中でほどけるようなおいしさだ。
おいしいですと笑顔で言うと、優雅に紅茶を飲んでいた幸村さんに微笑み返された。
男の人でも綺麗という言葉が使えるのかと、しみじみ思ってしまうほど綺麗だ。


……うーん、ずるい。


そんなことを考えていたら、いつもよりも低い声が耳に響いてきた。


さん?」
「ひゃあ!?はい!」
「どうしたの、そんなに驚いて」


まさか、妙に色っぽい声に心臓が飛び跳ねましたとも言えるはずがなく、曖昧に笑ってごまかしたけれど……。


あの色気たっぷりの声は反則だ、反則。
一体どうしたんだ、幸村さんは。