本音を言うと、空気を読んでね?
と言いたくなったのも、仕方のないことだろう。








ガブリエルと大和撫子









日吉の家で茶会を開くと聞いて、思わずアフタヌーンティーパーティーを想像してしまった自分に苦笑する。


あの和風の家で、アフタヌーンパーティーなんてするはずがない。
するとしたら、茶道の方の茶会だろう。


「誰がやるんだ?」
「一応、俺が。内輪のものなので、父がやるまでもないと」


当然のように亮に答える日吉にぎょっとした視線を向けたら、逆に訝しげな顔をされた。


「どうかしたのか?」
「いや、普通高校生が茶会の主人なんてできないと思うんだけど」
「そうか?」
「そうだよ」


ねえ?と横を向くと、亮も鳳君もうなずいている。
そうだよね、私の方が一般的な考えだよね。


「しっかし……流石って感じだよな。日吉が茶会って聞くと」
「そうですね。俺達には縁もないですもんね」


感心したように言い合う2人に、日吉も軽くうなずいた。


「まあ、身近ではない世界ですね」
「でもさ、ちょっとおもしろそうだよね」


好奇心でいっぱいの目をした鳳君が、日吉の方を見て期待に満ちた顔をする。


「ちょっとやってみたいな」
「はあ?何言ってんだ、お前」


思いっきり馬鹿にしたような目で見られても、鳳君は諦めない。
にへらと笑って日吉を拝み、上目遣いで頼みこむ。


「な?いいだろ、日吉ー!」
「お前なあ……」


呆れ果てたようにため息をついた日吉が、ちらりと鳳君をうかがった。
それでもなお姿勢を戻さない鳳君に観念したのか、感心したのか、駄目だこいつと見切りをつけたのか。


「……着物は持ってるな?」
   いいの!?」
「いいっつーまでしつこいだろうが、お前!!」


若干キレ気味に怒鳴って、日吉がどかりとあぐらをかく。


「洋服でも構わねえが……どうせなら、きちんと着物着てこい」
「わかった!」


鳳君、尻尾が見えそうな喜びようだ。
微笑ましく感じながら亮と二人で見ていたら、不意にその顔がこちらに向いた。




「宍戸さんも、さんも、一緒にやりますよね!」
「……はあ?」




信じて疑わないというかのような純粋な目に、亮が思いっきり訝しげな声をあげる。

正直、私も同じ気持ちだ。
そこでどうして私達が?


「やりましょうよ、宍戸さん!」
「あ、じゃあ、私はパ」
「もちろんさんも!」


……逃げられなかったか(チッ)


鳳君の純粋なオーラは、何故か断れない気分になってしまう。


「……わかった」


渋々うなずいた途端に、鳳君がぱっと顔を輝かせた。


「おい、
「しょうがないでしょ。この状態の鳳君、断れる?」
「……確かに」


亮に腕を引っ張られてこそこそと話し合い、諦めようとお互いの肩を叩く。
叩いてから、ふと気づいた。

私はお母さんの着物があるからいいけれど、そもそも亮は着物を持っているんだろうか。


「……ねえ、あんた着ていくものあるの?」
   げ」


固まる亮。
どうやら、すっかり忘れていたようだ。


「やべえ……親父のあるか?」
「おばさんに訊いてみなきゃねえ。達也さんは?」
「兄貴が持ってるわけねえだろ」
「それもそっか」


ひそひそと頭を突き合わせて話していたけれど、ふと気づけば日吉にものすごくうさんくさそうな目で見られていた。
我ながら怪しい自覚はあるから、何とも気まずい。


「……何やってんだ?」
「いや、別に。ねえ?」
「お、おう」


微妙に慌ててごまかして、亮と二人で曖昧な笑顔を浮かべる。
着物がないなんて言ったら、馬鹿にした目で見られそうだ。何となく。
馬鹿にされるのは私じゃなくて、亮だけれど。

兄弟みたいに育った亮が馬鹿にされるのは、何となく嫌だ。


「……まあ、いざとなったら、お祖父さんちとかに行けばあるんじゃない?」
「だといいな……」


げんなり呟いた亮の肩をもう一度叩いて、日吉に向き直る。


「で。いつやるの?」
「そうだな……今月中はばたばたしているから、来月の頭か次の週か……」


考えながら日吉がそう言って、それなら大丈夫だろうとうなずいた。
日程が決まったらまた連絡すると言われ、こちらもうなずく。


「一応、そこら辺の予定は空けておくよ。はっきりしたら早めにお願いね」
「ああ」


がっつがっつとお弁当を食べる亮の横で、こいつのスケジュールもキープしておかなければいけないかもしれないとため息をついた。
……多分今の会話、お弁当に夢中で聞いていないだろう。
鳳君はいそいそと手帳に書きこんでいるから、こちらは心配ないと思うけれど……。


「……宍戸さん、聞いてますか?」
「日吉、亮は気にしないで。私が調整しとくから」
「……頼む」


日吉も無駄だと悟ったんだろう、呆れたような顔でうなずく。


「楽しみだね、さん!」
「ああうん、そうだね」


心底楽しみにしていますと言いたげな鳳君に適当に返しながら、これはまた面倒なことになりそうだと、少し嫌な予感がした。