面倒事は嫌いなの。
君ならわかってくれるでしょう?
ガブリエルと嵐の日々
とうとう合宿も最終日だ。
ようやく平和な日々に戻るのかと、布団をたたみながら思わずため息をついた。
「もうテニス部とは関わりたくない……」
切実に。
平部員は特に害はないけれど、問題はレギュラーだレギュラー。
跡部先輩の俺様ぶりには、もう閉口するしかない。
「おい、」
とか考えていたら、さっそくドアをノックされた。
「今日の午後は練習試合を組むからな。準備をしておけよ」
「はい」
何をどう準備するのか全くわからないけれど、とりあえず返事をしておく。
後で亮にでも訊けば大丈夫だろう。
荷物をまとめて簡単に掃除をして、見苦しいところがないかを確認する。
……まあ、これだけ片づいていればいいか。
後で部員共の部屋もチェックしなければいけないかもしれない。
男所帯だし、きっとそういうところまで気が回らないだろう。
荒れ放題の部屋を想像して少しげんなりしつつ、さて活動を始めようと部屋を出た。
「おはよ」
「はよ」
食堂で亮と短い挨拶をして、部員よりも早めに食事を済ませる。
まだ朝早いのにじわりと暑い外の日差しに軽く眉を顰めて倉庫に入ると、意外な事に1年が3人ボールの手入れをしていた。
「早いのね」
川崎、柳瀬……後の1人は誰だっただろう。
6日間も一緒にいたおかげで半数ほどの部員は覚えられたけれど、3軍は特に覚えられていなかった。
「あ、さん」
「おはようございます」
口々に立ち上がって頭を下げた3人に挨拶を返して、鍵はどうしたのかと首を傾げた。
ここの鍵、跡部先輩と私しか持ってないはずなんだけど。
「いつもさんにばかりやってもらってたんで、最後ぐらい俺達でやろうと思って」
「鍵は昨日、跡部部長にいただきました」
「ネットの点検も終わってるんで、ゆっくりしててください」
いい子達だ、素直にそう思った。
跡部先輩にこの子達の爪の垢を煎じて飲ませてやりたい……。
ドリンクは昨日の夜のうちに作って冷蔵庫に入れておいたし、その他の事も彼らがてきぱきとやってくれている。
本当にすることがなくて、少し手持ちぶたさだ。
練習が始まるまでには、まだ時間がある。
どうせだから彼らにお礼でもしようと考えついて、のんびりと歩き始めた。
材料があるかどうかが心配だけど、まあなかったらなかったでどうにかなるだろう。
「すいませーん」
「あら、さん」
「ちょっと厨房と食材を貸していただきたいんですけど 」
「ええ、どうぞ」
気前よく場所を貸してくれた厨房の皆さんにお礼を言って、さて作りますかと腕まくり。
食材がたくさん必要だから、あるかどうか心配だけど……。
「何とか間に合いそうですか?」
「ぎりぎりですけど……何とかします」
苦笑して包丁を手に取って、ひたすらスライススライススライス。
3軍しか作る気はさらさらないから、どうにでもなるだろう。
「あと、バニラビーンズと三温糖と 」
材料を大きな鍋に入れて、ことこと煮ること30分。
その間の鍋の番は厨房の人が請け負ってくれた。
「どうせお昼の準備もするし、気にしないでくださいね」
「ありがとうございます」
テニス部の練習ももう始まっている。
あれやこれやとやることもあるので、ありがたく甘えることにしてコートに戻った。
いつもと同じように基礎メニューをこなしているあの3人を見つけて、軽く頭を下げる。
「おい、」
「はい」
跡部先輩に呼ばれて近付くと、ひょいと顎で大量のドリンクボトルを指された。
「洗っとけ」
「……わかりました」
もう慣れたわよ、こんなこと。
次のドリンクは冷蔵庫に入れてあるから、その次のドリンクの準備をしなければ。
小さくため息をついて籠を持ち上げようとしたら、少し遠くにいた日吉が近寄ってきた。
「手伝う」
「大丈夫だよ」
「……そうか?」
小さく眉を顰めながらも、日吉はそれ以上何も言わずに練習に戻る。
やれやれと苦笑して、今度こそ籠を持とうと 。
「おら、行くぞ」
「……だからあんたも練習してなさいって」
「馬鹿、ほっとけるか」
持とうとした籠を一つ亮に奪われた。
返せと手を伸ばしても当たり前のようにかわされ、返してもらえない。
「お前なあ、無理すんなって言ってんだろ。何でもかんでも一人でやろうとすんなよ」
「だって、別に重くないじゃない」
「そういう問題じゃないっつの」
呆れたようにため息をついた亮が、日吉に視線を送る。
「お前もきてくれねえか?いっぺんに運んだ方が効率いいだろ」
「はい」
ちょっと待て。
勝ち誇ったようににやりと笑ってくる日吉が忌々しい!
歯ぎしりをしながらも3人でボトルを厨房に運び、そこでさっさと2人を追い返す。
「もう……お人好しばっかり」
思わず苦笑がもれたのは、仕方がないことだろう。
休憩に入ってちょっぴり死にそうな3軍。
「お疲れ様です、差し入れです」
鍋ごとがっつりベンチに置けば、わらわらと群がってくる部員達。
蓋を開けて中身を見た1年が、小さく歓声をあげた。
「レモンの蜂蜜漬けだ!」
「マジで!?」
歓声が大きなものになるのを聞きながら、騒ぎを聞きつけて様子を見にきた鳳君をさりげなくブロックする。
「何、作ったの?」
「スポーツ選手への差し入れとして定番なもの。 あげないからね?」
「ええ!?」
ものすごく残念そうな鳳君に苦笑して、あれは3軍の1年へのお礼なのだと説明する。
「準備を代わってくれたからね。だから、3軍だけ」
「何だ、残念」
本当に残念そうに小さく笑って、鳳君は亮のところに戻っていった。
その後無事に練習試合も終わって、来た時と同じように無意味に豪華なバスに乗って学校へ。
「おい、やっぱりお前、マネージャーやれよ」
「お断りします」
跡部先輩のしつこい誘いを瞬殺して、行きよりも軽くなった荷物を背負い直す。
あれだけあったクッキーは見事に鳳君達にたいらげられて、空になったタッパーが容積だけをくっていた。
それにしてもあの食いっぷり、作ったこちらが嬉しくなるようなものだった。
蜂蜜漬けに関してはずいぶん恨めしげに何度も言われたから、今度こっそり作って渡さなければいけないかもしれない。
今度はきちんと2日ほど漬ける、正当派にしようと苦笑した。
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