しょうがないなと、いつまでも笑っていられる仲でいられればいいと思ってた。
馬鹿やって、それを見て、なぐさめて。
そんな関係が心地いいと思っていたのは、私だけ?
遮光カーテン
テニスコートで一際目立つ、オレンジ色の髪。
普段はへらっとしている事が多いのに、テニスをしている時だけは真面目な表情をする、キヨ。
「暑いのによくやるねえ」
そんな私はと言えば、冷房完備の教室から窓も開けずに眺めていたりする。
こんな暑い中、テニスコートに張り付いて黄色い声を上げている女の子達の気が知れない……。
だってさ、みんなどうせ目当てはキヨなんでしょ?
そんなん、わざわざコートに行ってまで騒ぐ必要ないと思うんだけど。
だってキヨ、女の子大好きだし。
「こらこら、また鼻の下伸びてるぞ」
こっそり呟いて頬杖をつく。
向こうでは可愛い子を見つけたらしく、キヨが練習の手を止めて南に怒られていた。
次のターゲットはその子なのかなあと思いながら帰る準備を始めると、目ざとく見つけたキヨにぶんぶか手を振られちゃった……。
あの、正直、恥ずかしいんでやめてください。
何を叫んでるのかわからないけど、多分帰るなとか待ってろとか言ってるんだろうなあ。
手元の本を持ち上げて、図書館にいるよとアピールする。
今度はわかったと言うようにぶんぶか手を振るキヨに背を向けて、そそくさと教室を出た。
うちの学校の図書館は中高にしては蔵書数が多くて、しかも小説系が多いから好き。
大学に行くと専門書が中心になっちゃうって聞いたから、今のうちに読める本は読んでおこうと決心している。
冷房のきいた館内で寒すぎない場所を選んで、奥のちょっと暗い場所を陣取る。
さて、何を読もうか。
「ー!!酷いよ、何にも言わないで行っちゃうなんて」
「ちゃんと図書館にいるって伝わったでしょ?」
汗だくのままで飛び込んで来たキヨからさりげなく離れると、ものすごく傷ついたような表情をされた。
そんな顔をされても、私までその汗の餌食にはなりたくないんだよ、キヨ……。
「今日はどうするの、また可愛い子ウォッチングでもして帰る?」
あのギャラリーの中にターゲットを見つけたんだろう。
そう思ったから言ってみたのに、何故かキヨはがっくりとうなだれた。
「俺は一筋なのになぁ……」
「こらこら、私にはその手は通用しないよ」
そんなことを女の子相手に言ってる現場を、何度も目撃してるしね。
早くシャワーを浴びてこいと手を振ると、キヨはしょんぼりとうなだれたまま図書館を出ていった。
「大変ねえ」
「いつもうるさくてすいません」
すっかり顔なじみになった司書さんに苦笑すると、そのやり取りを楽しみにしてるから気にしないでと笑われた。
……何か、微妙な心境……。
確かにキヨのことはかっこいいと思うし、一時期はそういう関係になれたらなんてほのかに思ったこともあった。
だけど、あんなに無防備に信頼して、可愛い女の子とかナンパの話をされたんじゃ……ねえ?
友達にしかなれないって、そう思うしかないでしょう。
「千石君も、もう少し落ち着きがあるといいのにね」
「言ってやってくださいよ、本人に」
「私は彼とは面識がないもの」
「っ、お待たせ!!」
司書さんがころころと笑ったところで、力の限りにドアを押し退けたキヨがとびこんできた。
「帰ろ!」
「はいはい。 それじゃ、お邪魔しました」
「さようなら」
ぐいぐいと急かすキヨに引っ張られながら学校を出ると、真っ赤な夕暮れが綺麗に空を照らしている。
「、俺の部活見てた?」
「時々ね。キヨが可愛い女の子見つけて、だらしない顔になってるのも見てた」
「げ……アンラッキー」
「何がよ」
今更やばいと思うような関係でもないでしょうに。
おおげさに肩を落とすキヨに笑ってやると、何故かさらに落ちこまれた。
「はさあ、俺といてどきどきするとかないの?」
上目遣いで可愛らしく(しているつもりなんだろう)キヨに訊かれて、確かにするけれどと内心で呟く。
するけど、キヨが友達としか思ってないんじゃ、どきどきも半減するよね。
「キヨは?」
仕方がないから質問で返してみれば、やけに真剣な顔でうなずかれた。
「あるよ」
不覚にも、その表情に心臓が跳ねる。
もしかしたら、キヨも私のことを、なんて。
「そんな訳ないか」
小さく小さく呟いて、それは光栄とキヨに向けて軽く笑った。
そうするしか、思いつかなくて。
「だから、本気だってば」
「今までの行動を省みてから言ってね」
「そんなあ」
「それより、最近の面白い話はないの?」
冗談の掛け合いが心地いい。
やっぱり私達は、こうやってふざけあっているのがちょうどいいんだね。
にやりと笑えば、キヨも笑い返してくれる。
いつもそうだから、今日もそうだと思ってた。
だけど 。
「……なんて、嫌いだ」
「 え?」
いつもとは全然違う態度。
いつもとは全然違う言葉。
意味を理解するのに、数秒かかった。
「ばいばい」
ぽつりと無表情に呟いたキヨは、もう振り返ってくれなかった。
「え キヨ?キヨ!?」
どうして急に、こんなことになっちゃったんだろう。
いつも通りのはず、だったのに !
「……どうして?」
何がいけなかったんだろう。
キヨはどうして怒っちゃったんだろう。
考えても考えても答えが出なくて、途方に暮れた声がぽつりともれる。
嫌いだと、その一言が酷く胸に刺さった。
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