嫌いだ。
そう言われて初めて、皮肉にも自分がどんなにキヨを好きだったのかを思い知らされた。
友達でいいと、そう思っていたはずなのに。
遮光カーテン
「キヨ……」
人を好きになるって、ものすごく苦しい。
たかだか15歳でそんなことを言うなと馬鹿にされそうだけど、何歳だって本気で恋愛してるんだ。
前の席に座って紙パックのコーヒーを飲んでるに、ちょっと詳しい事情を説明する。
「ねえ、何がいけなかったんだと思う?」
「その流れなら、確実にあんたが悪いんでしょうよ」
「でも、何が悪かったのかがわからないんだよねえ……」
いつも通りのやり取りのはずだった。
何回頭の中でリピートしてみても、それに変わりはなくて。
「……千石も難儀だねえ」
「え?」
が何かを呟いたけれど、聞き返しても教えてはくれなかった。
「こういうのはさ、多分あんたが自分でやらなきゃいけないんじゃない?」
「それはわかってるけどさ……」
どうしたものか見当もつかずに、ついついため息がもれる。
「どうしたらいいのかなあ」
仲直りしたい。
恋人になりたいなんて贅沢言わないから、せめて今まで通りの関係に戻りたい。
そう考えていたから、の言葉にどきりとした。
「、あんた今の関係にあぐらかいてたんじゃないの?」
「え 」
「いいチャンスじゃん。もっかい考えてみたら?千石とどうしたいのか」
ごまかしじゃない、本当の気持ち。
楽な方に逃げすぎた罰だと、言外に言われた気がした。
「キヨと……」
どうしたいか?
きまってる。
馬鹿やって騒いで、時々呆れて。
そんな関係が、いつまでも続けばいい。
「仲直りしてみる。まずはそこからだよね」
キヨが私を嫌いだろうと、私はキヨが好きだ。
だからせめて、以前と同じ関係になれるように。
そう言ったらは呆れたような顔をしたけれど、まあ頑張ってみなよと適当に応援された。
仲直りをするぞと決心してから2日後、ようやくキヨを発見。
前はあんなにしょっちゅう会ってたのに、こっちが会いたいと思った途端に会えなくなるなんて、神様は意地悪だ。
や、別に、神様なんて信じてないんだけど。
「キヨ」
勇気を出して声をかけてみても、キヨは何だか苦しそうな顔をして踵を返してしまった。
「キヨってば」
どうして返事してくれないの?
返事もしたくないほど、嫌いになったの?
目の前が真っ暗になりそうになりながら、必死にキヨについていく。
「キヨ、待って!」
大きな声を出しても、キヨは無言だ。
いつもなら普通に歩いても余裕で隣に並べるのに、走っても走っても追いつかない。
そういえば、あんなに毎日会っていたのは、キヨが私のところにきていたからだ。
自分がどれだけキヨに甘えていたのかを、思い知らされた。
「キヨ、ごめん」
息が切れてかすれた声で、キヨの背中に向けて必死に言う。
「ごめん。私きっと、キヨの気に触ることしたんだよね」
キヨの歩調が少しゆるくなった。
「でも、何で怒ってるのかわからないよ。何がいけなかったの?」
追いすがるように手を伸ばして、ようようキヨの服をつかむ。
離すものかと握る手に力をこめると、やっとキヨが立ち止まってくれた。
「……」
まだ振り返らない、キヨの声。
それでも話してくれたことにほっとして、思わず笑みがこぼれた。
「何?」
だけどキヨはそれきり何も言わなくて、仲直りできるんだと弾んだ心が急激にしぼむ。
「……どうしたの?」
「……俺、のこと好きだよ」
「 私も!」
やっぱり許してくれるんだ!
「だけど、嫌い」
「……どういうこと?」
キヨの言いたいことがよくわからない。
私に恋愛感情を持つはずがないんだから、これは友情の「好き」なはずなのに。
戸惑っていると、今度こそキヨがくるりと振り向いた。
その表情は、やっぱり苦しそうなままで。
「ねえ、ほんとにほんとに好きなんだよ」
苦しそうなまま、キヨが一歩近づいてくる。
反射的に後ずさりかけた腕を強くつかまれて、小さく顔が歪んだ。
「逃げないで、」
「キ、ヨ 」
好き?誰が?
キヨが?私を?
「信じ、られないよ」
いつもいつも女の子を見てるキヨ。
ナンパ大好きなキヨ。
私の前で、いつも楽しそうにそんな話をしてたキヨ。
「……信じてよ、俺本気なんだよ」
「本命の前で平然とナンパの武勇伝をするはずないじゃん」
今でもはっきりと思い出せる、キヨの失敗談や武勇伝の数々。
本当に私が本命なら、そんな話題は何よりもまず避けるものじゃないの?
さりげなく腕を振りほどこうとしながらそう指摘したら、キヨもぐぐっと言葉に詰まった。
ただし、手は離してくれなかったけど。
「だ……だって、の前だと」
何話していいか、わからなくなっちゃうんだよ。
だって、俺のこと何とも思ってないみたいだったし。
興味持ってもらうには、これくらいしか話題ないなって。
「…………」
何その乙女みたいな発言。
そんな乙女行動のために、私はキヨを諦めてたの?
「……っ」
馬鹿馬鹿しい。
私もキヨも、馬鹿馬鹿しい。
お互い空回って、勝手に落ちこんで。
こみあげてくる笑いをこらえきれずに、声を殺して必死にうつむく。
するとそれをどう取ったのか、キヨが必死な声になった。
「ほ、本気だよ!俺の本気、信じてよ!」
ぎゅうぎゅうと痛いくらいに両肩をつかまれて、それでも笑いは止められない。
やばい、もう限界。
「……くくっ……!」
「……はへ?」
「あはははははっ!!」
一回出ちゃうと、もう笑い声は止まらなかった。
散々笑いながら、間抜けな顔のキヨを見る。
「私達、お互い馬鹿みたい!勘違いしあっちゃってさ」
「え……じゃあ」
「OK、信じるよ。こんな馬鹿馬鹿しい話を聞いちゃ、信じるしかないじゃない!」
呆然としていたキヨが我に返って、力の限りに抱き締められたその向こう、部活が始まる合図のチャイム。
南ごめん、今日だけは見逃してやって!
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