次元が違いすぎるなんてことは、とうにわかってた。
だって、あの顔は反則だもの!









あさぎいろ









幼なじみって、ものすごく不公平だ。
始めから恋愛対象に入らないも同然なんだもの。

まあ、取り繕うものもないくらい一緒にいて、相手のことをよく知っているってことだから、虎次郎の周りにいる子からはうらやましがられるっていうのはわかってるけど……。


、まぁたぼーっとしてる!」
「……ごめん」


ぱんぱんと肩を叩かれて、苦笑しながらを見上げる。


「もう!授業中もそんなんだったでしょ」


絵に描いた美少女というわけじゃないけれど、くるくるとよく表情の変わるは、とても魅力的。
実はこっそりいろんな男子が狙ってるのも知ってる。

……まあ、女子校ですから!
それが泊づけに一役かってるのも、否定はしませんが!
塾であれだけ視線を感じれば、誰でも気づきますって。

そんなは、もちろん水もしたたるような彼氏がいたりする。
しかも氷帝に。


「あ、彼氏さん元気?」


確かバスケ部だったはず。


「まあ、今日も元気にバスケ馬鹿だよ。今度全国に出れるって喜んでた」
「へえ、すごいじゃない!」


悪口を言いながらも嬉しそうに顔をほころばせるに、思わず私も笑顔になる。
でも、次の瞬間がずずいと顔を寄せてきた。



「で、は?」
「は?」



無意識にのけぞると、その分まで詰めるようにさらに顔を寄せられた。


「だから!いるんでしょ?彼氏」


いい加減吐きなよと言われ、力一杯かぶりを振る。


「ないないない!ありえない」
「嘘つけ!」
「ほんとだってば!」


何なのこれ、拷問だわ……!

泣きそうになりながら必死に否定して、そのまま逃げ出すように学校を飛び出す。
今日も虎次郎は部活のはず。


……こっそり見に行っても、大丈夫かな。


地元までは1時間半。
ちょっとくらいは、虎次郎の部活姿を見れるはず。
いつもしてる連絡メールをするのはやめて、はやる胸をおさえて流れる景色を見た。















通うはずだった中学は、やっぱり田舎で小さい。
しかも男の子が普通にいるのが新鮮で、何だか不思議な感じがした。



……ううう、何だか視線を感じるよぅ……。



やっぱり一旦家に帰って、着替えてから来ればよかった。
居心地の悪さを味わいながら、懐かしいコートに目を向ける。
結構な数の女の子達がコートの周りを囲んでて、テニスってこんなに人気があったのかと驚いた。

その中でもひときわ目立つ、色素の薄い髪。
すらりと伸びた身体を見つけて、小さく口元がほころんだ。




「……虎次郎だ」




楽しそうに、小学生の時と同じように、ボールを追いかける虎次郎がいる。


「私にはお兄さんぶった顔しか見せないくせに」


ここの子達は、いつもあんな虎次郎を見てるんだろうなあ。

うらやましくなって口をとがらせて、けれど3年ぶりに見る虎次郎のそんな姿に見惚れた。
見つからないうちに帰らなきゃ、そう思っているのに足が動かない。



「……かっこいいなあ、虎次郎」



呟いた瞬間、テニス部の誰かと目が合った。


……まずいかもしれない。


帰ろうと思って小さく会釈をしたところで、その人が隣の人に話しかけた。
これは本格的にまずいかもしれない。

踵を返して走り出す。
虎次郎に見つかる前に、何食わぬ顔で家に戻らなきゃ!




   !?」




驚いたような虎次郎の声。
けれど、それに構わずにただ走る。
もう少しで校門   




「何やってるんだ!」




ぐい、と右腕に強い反発。
……つかまっちゃった……。


「どうしてここにいるんだよ!」
「……ごめんなさい。でも」
「でもじゃないだろ?ここまで来るのに何かあったらどうするつもりなんだ!」


大きな声で怒られて、びくりと身がすくむ。
虎次郎の剣幕が怖くて、顔をあげられない。




「……ごめんなさい……!」




じわりと涙が出てきた時、虎次郎の勢いがぴたりと止まった。
しばらくして小さくため息をつく音が聞こえて、くしゃりと髪をなでられる。


   わかったならいいけど。あんまり心配かけないでくれよ」
「うん……」


ほら、と差し出された手を握って、そのまま手を引かれてコートに戻った。
女の子達の視線が痛いけど、虎次郎にとって私はそんな存在じゃないよ。

私はむしろ、あなた達がうらやましい。

視線を避けるようにうつむいて歩いていると、坊主刈りの男の子に人好きのする笑顔で声をかけられた。


「君、サエさんの彼女?」
「はっ……?い、いえ……」

「剣太郎、言ったことあるだろ。幼なじみの
   ああ!サエさんご自慢の!!」
「その制服、皆槻のだろ?すごいな」


固そうな髪の男の子も感心したようにそう言ってくれるけど、何だか怖くて反射的に虎次郎の後ろに隠れてしまう。
そんな私に気づいたのか、虎次郎は苦笑して包み込むように両肩を抱いてくれた。


、みんないい奴だから」
「う、ん……」

「挨拶は?」
   です。初めまして」


震えそうになる声を必死におさえて、どうにか頭を下げる。

……駄目。やっぱり男の子、怖い。

虎次郎の後ろににじるように隠れたけど、今度は押し出されたりしなかった。
仕方ないというように頭をなでられて、虎次郎が苦笑しながらテニス部の人にフォローしてくれる。


「ごめん。、人見知りが激しくてさ……これでもかなり良くなった方なんだけど」
「気にしてないのね」


鷲鼻の人がにっこり笑ってくれた。
……優しそうな人。


「しっかし、この子が噂のねえ」


くせっ毛の人にひょいと覗きこまれて、思わず身体が痙攣する。
そんな私の背中をなだめるようにさすって、虎次郎はコートの端のベンチを指さした。


「練習が終わるまで、あそこで待ってて」


送ってくから。

いつものメールと同じ言葉。
ほっとして安心できて、けれど情けなさと悔しさを痛感させる言葉だった。