ラビは意外に頭がいいことがわかった。

や、別の意味で頭が弱いんじゃないかと思うことは多々あるけれど、1度教えたことはほぼ確実に覚えている。
小さい割には器用だし、これなら放置していても危険はないだろうと判断した。



ので、遠慮なく置き去りにして試験に行くことにした。




「じゃ、行ってきます。火には近づいちゃ駄目だからね?」
「わかったさ……」



さっきまで置いていくなと盛大な駄々をこねていたラビは、少し拗ねたように口をとがらせている。


「はい、復唱」

「かってにそとにいかないこと。ピンポンなってもでないこと。ひはつかわないこと。たかいとこにはのぼらないこと。はものはつかわないこと。ものはだしたらしまうこと。おひるはテーブルのうえにあるのをたべなさい」


うん、完璧。


「多分、3時過ぎには帰ってこれるから。いい子にしててね」
「うん!」



いい子のお返事をしたラビに笑って、いざ鎌倉。
違った、試験。

一緒に住むようになってからお留守番は初めてだから、帰りにケーキでも買ってきてあげようか。
それとも、もう1枚くらい洋服を買ってあげてもいいかもしれない。

そんなことを考えながら試験を終わらせて(9割4分の確率で優はもらえると思う)、と軽くお茶。


、この後ちょっと買い物したいんだけど……いい?」
「いいよー、何買うの?」
「子供用の洋服」


答えた瞬間にがむせた。



「ちょ……あんた、いつの間にそんなにでっかい子供をこしらえたの!?」
「違うわボケ!そんなボケいらんわ!!親戚の子供にあげるんだよ!!」




ええい、どうしてこいつはこんなにボケキャラなんだ……!


「なんだ、つまんないの」
「何その発言」
「イエ、ナンデモアリマセンヨー?」


そんなを引っ張ってベビー服の専門店へ行き、なんとかラビに似合いそうなものを数着見繕う。

「ねえ、これってベビーベッドには寝にくいよね?」
「いいのいいの、そんなの考えてないから」

あれをベビーベッドに転がしておいたら、何をしでかすのかわかったもんじゃない。









「ただいまー」

さて、どんな顔をして喜ぶかと思いながら玄関を開けると、ラビが弾丸のように突っ込んできた。


「おうっ!?」
、おかえり!!」



や、弁慶の泣き所に、もろ衝撃があったんですけ ど !
地味に痛い……!



そんな私の悶えっぷりなど露知らず、ラビは満面の笑みで私を見上げてくる。


「おれ、ちゃんとるすばんできたさ!えらい?えらい?」


きらきらした目でそう訊かれたら、怒る気も失せてしまう。

「偉い偉い。よくできました」

かなり投げやりに頭をなでても、ラビは幸せそうに笑うだけだ。


「ラビ、おみやげ」
「!!」


うさ耳がぴくりと反応する。
何ともわかりやすい反応で、こちらとしても嬉しい限りだ。

「なにさ?」
「自分で開けな」



ぽいと紙袋を渡して部屋に入った瞬間、何事かと思うほどの悲鳴が響いてきた。



「ラビ!?」

慌ててリビングに戻ると、服を持ったままふるふるしているラビがいた。



「……ラビ?」



思わずうろんな声が出てしまったのは、まあ仕方のないことだろう。



……!」



感極まったように振り向いたラビは、何故か今にも泣きそうだ。


「……どうしたの?」
ー!!」
「ぐふっ!?」


目線をあわせて膝をついたところでタックルをくらった。
頭と鳩尾がこんにちはだ。


「すっげうれしい!ありがとありがとありがとありがとー!!」
「そ……か、それは嬉しいよ……」


ガッツリ食い込んだ頭をさらにぐりぐりと押し込んでくるものだから、こっちはもうたまったもんじゃない。

「ラビ、顔あげて」
「ん!」

素直に顔をあげたラビの身体をべりりとひっぺがし、ようやく一息つく。


「気に入った?」
「もち!!」


両手で服を抱きしめて答えるその様子は、本当に幸せそうだ。
どうやったらこんなに幸せそうに生きられるんだろう。


、これ、きてみてもいい?」
「あーうん、タグ取ってからにしてね」
「ん!」


ずずいと出された服を受け取ってタグを全部外すと、ラビはどれを着ようかとためつすがめつし始めた。



「これきたいさ!」
「はいよ。ばんざーい」



いまだに1人ではうまく着替えられないラビの洋服をひっぺがし、代わりに買ってきたばかりの服を被せる。
首がうまく出てこなくてじたばたしてたりもしていたけれど、ラビの場合はそこまで手伝わなくても大丈夫だし。


「どうさ!?」
「可愛い可愛い」
「おとこがかわいいっていわれてもうれしくないさー!」
「はいはい、かっこいいかっこいい」


投げやりに言っても十分嬉しそうな顔をするって、この子どこまで幸せなんだろう。

ていうか、むくれてみても、それがさらに可愛いだけっていうことに気づいてるんだろうか。


「ラビ、お尻きつくない?」


ラビのお尻にはもちろんウサギの尻尾が生えてるから、おむつをつける赤ちゃんの服でもちょっときついかもしれない。
実際、ラビがこっそりとお尻のところを引っ張ったりしてるのを何度か見たことがある。

だけどラビは、そんな素振りも見せずににっこりと笑った。


「へいき!」


ああ言ってるけど……やっぱり尻尾は出した方がすっきりするだろう。


うーん、耕介に頼んでみるか。
あいつ確か、服飾の専門に行ってるし。

ああでも、ラビを見せるのはちょっとなあ……。


さんざん迷ったあげくに、なんとかごまかしてみようという結論に達した。



「耕介ー、ちょっと服のパターン起こしの練習してみる気ない?」



久しぶりに電話をしてみたら、耕介は思った通りに食いついてきた。



『やるやる!買ってくれんだろ?』
「友達のよしみで割り引いてくれるなら」
『乗った。   で、どんなのだ?』


もうちょっと渋られるかと思っていたけど、予想外にも即座に応じてくれた。
ありがたいと息をつきながら、さてどうするかと頭を回転させる。

「大きさ的には赤ちゃん服なんだけど、ちょっと変わってて……」
『は?何お前、できたわけ?』
「んなわけないだろボケ!そんなボケはだけで十分だ!!」



ええい、どいつもこいつも……!



『はははは、ちょっとふざけただけだって。   寸法の測り方はわかるよな?』
「なんとか。家庭科で習ったから」
『オッケ、それで十分。細かいサイズと注文どぞー』
「ちょい待ち、今メジャー出すから」


携帯を肩ではさんで、メジャーを探りながらラビを手招きする。
手振りで脱げ!とやったら真っ赤になって猛烈に反抗したので、問答無用でひん剥いてみました!



、なにするさー!」
「はーいはいはい、じっとしてねー」



暴れるラビを押さえつけて、胸にメジャーを巻き付ける(冷たかったらしく、ヒィ!と悲鳴をあげたけど無視しておいた)
そんなやりとりが聞こえたらしく、耕介が向こう側で苦笑した。


『ちっちゃいのはあんまりいじめんなよー?』
「渾身の力を込めて愛情を注いでるわよ」
『うわー、嘘くせぇ』
「おだまりこのヘタレ   胸部、正確にはどこを測ったらいい?」


正確なサイズを知らせたかったので、結局全部耕介に教えてもらいながら採寸する。


『他に何かリクエストはあるか?』



そう、このリクエストが一番大事。



「ベビー服みたいには作らないで。普通のメンズと同じようなデザインのがほしいの。あと   
「ヒィ!」


尻尾を触られて変な声を上げたラビを無視して、所見を述べる。


「尾てい骨の真上に、3cmの切れ込みをお願い」
『おい、今何か変な声が   って、はぁ!?』


どうして切れ込みを入れるのかがわからないんだろう、耕介がすっとんきょうな声をあげた。

うんうん、わかるよ。その気持ち。


「深くは訊かないで。気持ちはわかるけど、それ以上訊かないで」


心の底からお願いしたのがわかったのか、耕介も曖昧にうなずいてくれた。
恩にきるよ、耕介!

「いくつかできたら教えてね、引き取りに行くから。お値段は生地代とデザイン料で。中間マージンないから、その分安くなるでしょ」
『デザイン料も格安にしてやるよ。2週間待っててくれ』
「サンキュ!よろしくね」

耕介の服は割としっかりしてるから、ラビも気に入るだろう。


「ラビ、2週間待ってなよ。ちょうどいい服がくるから」
「!!」


おー、尻尾までふるふるしてるよ。



「ありがとー!!」
「はいはい」



おざなりに返事をしながらも、しっかりと抱きしめ返しているあたり、私も結構毒されたかなあ。
ま、いいけど。