今日もラビは至って元気だ。
休みに入ったから1日中一緒にいられるし、ラビもそれを喜んでるみたいなんだけど……。
「ラビ」
「なんさ?」
「家の中ばっかりで、飽きちゃわない?」
いくらなんでも、ずっと家の中で生活するわけにもいかないだろう。
引きこもりじゃあるまいし、このウサギは日の光に当てないと、そのうち弱って死んでしまいそうだ。
「がいればそれでいい!」
「あら、嬉しいこと」
本心からそう言ってるのは十分すぎるほどによくわかるし、それはそれですごく嬉しいんだけど。
やっぱり、外で遊ぶのは必要なことだと思う。
と、いうわけで。
「ラビー、散歩行くよー」
「!!」
あ、ものすごーく嬉しそうな顔をしてる。
「とさんぽさ?」
「そうだよ。ほら、帽子かぶって。マフラー巻いて。寒くないよね?」
「ん!」
一応見つかったときに何も言われないように、マンションの外までは抱いていく。
すとんと地面に降ろした瞬間、ラビは嬉しそうにあちこちをきょろきょろしだした。
「どこいくさ?」
「ラビはどこに行きたい?」
質問に質問で返すのはちょっと卑怯かとも思ったけど、なるべくならラビの喜ぶところに連れていってあげたい。
目線を合わせてそう訊くと、ラビはきょとりとした目で首を傾げた。
「おれ、といっしょなら、どこでもたのしいよ?」
何この可愛い発言。
「ラビは可愛いね」
「お、おとこがかわいいっていわれてもうれしくないさ!かっこいいんさ!」
ぐりぐりと頭をなでながらしみじみ言ったら、ラビが顔を真っ赤にして怒った。
ように見えるけど、尻尾はふるふる横に振れてる。
……嬉しいんだね、そうなんだね。
頭なでられるの好きだもんね。
しばらくぐりぐりなでたところで、しっかりと手をつなぎなおして河川敷に向かう。
あそこなら草もいっぱい生えてるし、川もあるし、ウサギには嬉しい環境だろう。
この時期のこの時間帯に、わざわざ寒いあそこに居座ろうって物好きもあんまりいないし。
はしゃぎまくってぶんぶか繋いだ手を振りまくるラビをなだめながら、やっぱりポンポン付きのマフラーにしてよかったと思った。
初期装備だったのでも十分可愛いんだけど、こっちの方が跳ねる度にポンポンが動いてなお可愛い。
ラビの洋服代を稼ぐためにバイトがちょっとハードになったとか、達とのつきあいがちょっとばかり悪くなったとか、そういうことはこの際関係ない。
ラビもポンポンが揺れるのがおもしろいみたいで、わざと身体を左右に振っては身体に当たるのを見て喜んでいる。
「ラビ、楽しい?」
「ん!」
思いっきりうなずいたラビは、繋いでいる手をぎゅっと握った。
「、そとってやっぱりさむいさ」
「うん。大丈夫?」
「てぇつないでるからへいき!」
風にあたってほっぺたも鼻のてっぺんも赤くして、それでも嬉しそうに笑うラビ。
思わずきゅんとしちゃったじゃない……!
そんなことをしながら着いた河川敷には、やっぱり誰もいなかった。
一安心してラビの手を離すと、きょとんとした目で見上げてくる。
「、どしたん……?」
「私はここで待ってるから、好きなように遊んできなよ。帰るときにはちゃんと呼ぶから」
「ほんとに?おいてったりしないさ?」
どこか必死に私のコートの裾をつかむラビの頭をなでて、用意しておいたビニールシートと水筒を取り出した。
「ほんとほんと。寒くなったらここにおいで、温かい飲み物もあるから」
ついでに人間カイロもやってあげると言えば、ラビもようやく安心したように笑う。
「いってくるさー!」
「転んで怪我しないようにねー」
元気よく草むらに飛び込んでいった背中にそう声をかけた瞬間、ずべっという音と「うわっ!」という悲鳴が聞こえたのは、気のせいだろうか。
いや、気のせいだ。そうに決まってる。
「……ー……」
「……はいはい」
半べそをかきながら草をかき分けてでてきたラビの顔を、ウェットティッシュで拭いてあげる。
枯れ草でいい感じに切れたんだろう、頬にいくつか小さい傷がついていた。
「痛い?」
「へいきだもん……」
いや、べそべそしながら言われても、説得力は皆無なんだけど。
……ま、いっか。可愛いし。
「お家に帰ったら消毒しようね。まだ帰りたくないでしょ?遊んでおいで」
「……ん!」
涙目でうなずいたラビは、また走りだそうとしてびたっ!と動きを止めた。
そのまま私にすり寄ってくる。
「ー」
「ん?」
「ちゅーしてぇ」
「は!?」
何をおっしゃるウサギさん。
ぎょっとして思わず身を引くと、ラビは一生懸命身を乗り出してきた。
「だって、こないだテレビでやってたさ!おかあさんがおでこにちゅーしたら、みのるくんのいたいのとんでったもん!」
……あー……。
昼ドラでやってたなあ、そういうの。
子供の情操教育にいいんだろうか、でこちゅーで「いたいのいたいのとんでけ」は。
子供同士でやったらどうしてくれるんだ、テレビ局。
「ー」
へにょりとラビの眉が下がる。
ちょっと、その目やめてよ!
私がその目に弱いのを知っててやってるでしょ、このウサギ!
「……ああ、もう」
膝の上に抱き上げて、バンダナをつけていない額をかきあげて軽くキス。(バンダナは日常生活には必要ないという信念の下、同居初日に没収した)
くすぐったそうに肩をすくめたラビは、照れたように笑ってひょいと膝から飛び降りた。
「いってくるさー!」
さっきと全く同じ言葉を言いながら駆け出していくラビにひらひらと手を振り、ちょっと冷えた身体を暖めようと水筒の麦茶を飲む。
絶え間なく聞こえるがさがさという音とはしゃぐラビの声が、今ウサギがどこにいるのかを教えてくれる。
気持ちのいい程のはしゃぎっぷりに、連れてきてよかったと目を細めた。
「ー、けがしたさー。ちゅーしてー」
「ええい、いい加減にしろっ!」
どうやら味を占めたらしく、あれから何度も(絶対わざと)転んではやってくるラビにとうとう鉄拳制裁を加え、その日のお散歩は終了。
また今度、週に1度は連れていくことにしよう。うん。
|