あれだけお風呂でマッサージをして氷水に浸したタオルで散々冷やしたのに、翌朝もラビの目はちょっとうるんでいた。
ちくしょうめ、でたらめ教えおって!


「目、痛くない?」
「へいきー」


にへらと笑ったラビは、まだ寝ぼけているのかそのまますり寄ってくる。
確かにぬくくていいけれど、いつまでもベッドに入っているわけにもいかない。

「ラビ、起きるよー」
「……はーい」

声をかければ、もう一度すり寄ってからゆるゆると起きあがる。


「おはよー、
「おはよう、ラビ」


ベッドから降りれば、一拍遅れてラビも飛び降りた。


、きょうのごはん、なんさ?」
「何にしようねえ。目玉焼きとオムレツ、どっちがいい?」
「オムレツ!あまいのがいいさ!」


おさとうたっぷり!とはしゃぐラビの頭をくしゃりとなでて、顔を洗ってくるように促す。
リクエスト通りに砂糖たっぷりのオムレツとチーズトーストを作って、トマトを最後にのせていたら、ようやくラビがちょこちょこ戻ってきた。



ー」



短い両手をいっぱいに伸ばして、抱っこしてのジェスチャー。

身長が足りなくて、ラビは自分で椅子に上ることができない。
というか、よじ上ろうとする姿が危なっかしすぎて、見た瞬間即行禁止にした。
包丁を流しに置いて抱き上げたら、何だか妙に温かい。


「……ラビ、まだ寝てる?」
「おれ、おきてるよ?」


顔を覗き込めば、とろんとした目でこてんと首を横に倒した。
……寝てるな、こりゃ。


「よしよし、食べて歯を磨いたらまた寝てもいいからね」
「おきてるってばー」


一生懸命主張するけど、この熱さはどう考えてもいつもと違う……違う?




「違うじゃん!」




熱だよ熱!
風邪引いてるんじゃないの、このウサギ!?


「ラビ、ベッドに行く!!」
「やー、おれげんき!」
「呂律が回ってない奴が何を言う、さっさと行きなさい!」


じたばたと暴れるラビを抱き上げて、乱暴にベッドに押し戻す。


「フギャ!」
「今日は1日安静!オムレツもハンバーグもなし!」
「えええぇぇぇ……」


泣きそうなラビは放置して、朝食を作り直すことにした。
あの様子だと、かなり熱も高い気がする。

「ラビ、熱測るよ」

試しに耳で熱を測ってみると、見事に39度5分。


「ちょ、あんた!何無理してんのよ!!」
「むりしてないもん……げんきだもん」


へちょりと眉を下げるラビは、どこをどう見ても無理をしているようにしか見えない。


「いいから、じっとしてなさい。誰も怒ったりしないから」


ぐしゃりと頭をなでてそう言うと、ラビは驚いたように目を瞬かせた。
何だ何だと見ていたら、幸せそうに笑み崩れる。
……何なんだ?


「……うん、いいこにしてる」
「よしよし。お粥作ったげるから、それまで待っててね」
「ん」


こっくりとうなずいたラビをもう1度なでて、手早くお粥の準備をする。
具は何がいいかな、やっぱり王道に梅干しがいいかな。

土鍋に半合のお米と5倍のお水。
じっくり炊き上げたら最後に卵を回して、ふんわりした状態で火を止める。
梅干しは食べられるかどうかわからないから、小皿に乗せて。
ラビ愛用のスプーンを使おうかと思ったけど、熱くて危ないから木のものにしておいた。


「起きあがれる?」
「へいきー」


ふらふらしながら起きあがったラビの背中を支えて、お盆を膝に乗せてやる。


「熱いから気をつけてね」
「はーい」


ふうふうと懸命に吹いて冷ましているけれど、正直危なっかしすぎて見ていられない……!



「……貸して」
「あ」



まずはお盆ごと、ラビの膝から取り上げてサイドテーブルに置いた。
器にちょっとだけ取り分けて、早く冷えるように真ん中にくぼみを作る。
十分に吹いて冷まして、さあ持たせようとラビを見たら。



きらきらした目で 口 を 開けていた。



「……」

「あーん」
「…………」

、あーんしてさー」
「や、何がどうしてそうなるのかわからないんだけど」


「……して?」



上目遣い+潤み目+小首傾げ。
このウサギ、いつの間にこんな小細工を身につけたの……!?

結局その渾身の一撃には勝てず、屈辱の「あーん」をやってしまった。
何でだろう、この上ない敗北感を感じるのは……!

悔しいから梅干しをこっそり入れてやったら、「すっぱー!!」って飛び上がってた。ざまあみろ。
すっかり完食したお粥を下げて薬を飲ませようとすると、苦いからといやいやをする。


「こら、わがまま言わない」
「にがいのいやさー!」
「はーいはいはい」


仕方がないとラビの鼻をつまむと、すぐに我慢できずに口を開けた。
すかさず顆粒を投下して、続けざまに水を含ませる。
後は吐き出さないように口を押さえていれば、涙目になりながら飲み込んだ。


、ひどいさ……」
「しょうがないでしょ、これしか家にないんだから」
「ひどい……」


しくしくと泣き出したラビに思わずもっといじめたいという感情がわいてきたあたり、
私もそろそろ人間として問題ありな気がしてきた。
まあ、そのことに関しては考えるだけ無駄だと判断して、ラビの頭をかき回すだけにとどめておく。


「ほら、薬飲んだら寝る。   汗、酷いね……着替えようか」
「ん」


洗面器にお湯を……と思ったけど、あれは意外にすぐ冷めることを思い出して、鍋に熱めのお湯を注ぐ。
固く絞った布で汗だくの身体を丁寧に拭いていった。


「そこはいいさー!」
「何言ってんの、いつも一緒にお風呂に入ってるくせに。ウサギのくせに今更色気付いてんじゃないわよ」


もちろん、パンツの中もしっかり拭いましたとも。ええ。
何度も何度もそうして着替えさせると、ラビは余計にぐったりしたようにベッドに潜りこんだ。



「お休み、いい夢を」
「……、ここにいてくれる……?」
   はいはい、寝るまではいるから。安心して寝なさい」



布団の上からぽんぽんとなだめるように叩いたら、ラビはそれだけで安心しきったようだった。
へにょりと笑ってじっと私を見ていたかと思ったら、じきにとろとろ微睡んで眠ってしまう。
世話の焼けるウサギだと思いながら、苦笑してなでた髪の毛は柔らかかった。