「…………」
「…………」


びとーっ。


「……ラビ。重い」
「……!」


熱が下がってからこの方、ラビはべたべたと甘えるようになった。


いや、いいんだけどね?
懐かれるのは嫌な気はしないし、可愛いけどね?


前もじっと見すぎたのが原因で怒られたのを覚えていないんだろうか、このウサギ。
しかも、それがきっかけで熱を出したのも忘れたんだろうか。


トリ頭?ねえ、3歩歩くと忘れるの?


ほっぺたを引っ張って離れろとアピールしてみても、いやいやをして離れない。


「ラビ。いい加減にしないと怒るよ?」
「やー!!」


ちょっと怒った声を出すと、おもしろいほどびくりと反応した。
これで離れるかと思ったのに、ますますしがみつく力が強くなる。




「おるすばん、いやさ……」




へちょりと眉を下げて小さく呟かれ、思わず軽いため息が出た。


「ラビ、どうしたのさ。前はちゃんと1人でお留守番できてたじゃない」
「……やー」


おや、涙目。
……仕方ないか。


たまにはわがままも聞いてやろうと、今日の予定を断念した。
まあ、どうせ買うのはラビのものだったから、私は全然困らないんだけど。


「ラビ、おいで」
「……、おでかけしないん?」
「やめた。今日は一緒にいるよ」


苦笑してそう言った瞬間、ラビがぱっと顔を輝かせた。


……!」
「今日だけだからね」
「……っ、だいすきさー!!」
「はいはい」


ひしっと抱きつかれて、おざなりにぽんぽんと背中を叩きながら立ち上がる。
さて、そうと決まったら部屋の片づけでもしようか。


ラビをおんぶにしようかとも思ったけど、下手をすると首を絞められそうだと気づいて断念する。
片手だけでもある程度は片づけられるし、まあ問題はないだろう。


「なにするさ?」
「部屋の片づけだよ。時間があるときにやっておかないと、後々困るからね」
「おかたづけ?」


こてりと首を傾げたラビにうなずくと、何故か一気に張り切りだした。


「おれ、てつだう!」
「あーはいはい、ありがとね」


あんまり期待せずに返事をして、両手で握り拳を作っているラビを抱き直す。

どうでもいいけど結構重いな、この子。
子猫サイズだからってなめてかかってたけど、日々成長してるのか。

ちょっとばかりしびれてきた右腕を自覚しつつ部屋に戻ると、ラビが懸命にたしたしと私の肩を叩いた。


「おりる!おかたづけ!」
「はいはい」


軽く腰を屈めると、それだけでラビは身軽に着地する。
やっぱり野生だ、身のこなしが違う。


そのままとたとたと軽い足取りで駆けていったラビは、両手で雑誌を何冊か抱えあげた。


、これは?」
「そこのラックに入れてくれる?代わりにラックの中のを捨てるから」
「ん!」


気負ってうなずいたラビだけど、ふらふらと危なっかしい足取りで、見てるこっちがはらはらしてしまう。
どっこいしょとラックの前で雑誌を置いて、まずは中のものを引っこ抜く。


「んしょ……!」
「あ、ラビ!」


重心のバランスの悪さを考えていないのか、思いっきり反り返ったラビがそのまま後ろに倒れた。


「ピギャ!」


慌てて抱き上げると、打った頭を両手で押さえて涙目になっている。
たんこぶはできてなさそうだけど、結構いい音がしただけに心配だ。


「大丈夫?」
「だ……だいじょぶ……」


おれ、つよいこ!


明らかに強がりとわかるその様子に、思わずため息がもれる。
じっとしていてもらった方が、精神衛生上いいかもしれない。


「ラビ、後はもういいよ。ベッドの上で待ってて」
「お、おれ、おてつだいするさ!」


なだめるように背を叩きながらそう言うと、何故か必死に手伝うと主張する。
一体どうしたってんだろう、このウサギ。


「大丈夫だよ。元々そんなに汚くないし、すぐに終わるから」


だから無理をするなと言っても、ラビは泣きそうな顔で手伝うと繰り返すばかり。
どうにもおかしいと首を傾げたところで、ラビが小さく小さくささやいた。




……おれ、やくにたたないからいらない?」



……なるほど。


この間のことをまだ引きずってたわけね。
ため息を1つ、ラビを床に降ろして。




「馬鹿かお前は」




両手で頬を思いっきり挟んでやった。
ほほほほ、変な顔!!


「あんたはうちの子なんだから、遠慮なんてしなくていいの。怪我する方が心配だから、おとなしくしてなさい」
「うゆゆゆうぅぅ」
「何言ってんのか全然わかんないし」


おもしろがってさらに挟む力を強くしたら、ラビがばたばたと両手を暴れさせた。
これ以上やったら本気で泣くかもしれない、すでに涙が決壊寸前だ。
仕方がないのでぱっと離すと、すぐさま全力のタックルがやってきた。


ー!!」
「みぞおち痛い……!」
「すきすきすきだいすきー!」
「はーいはい」


このみぞおちに頭突きはどうにかならないんだろうか……。


ぐりぐりと押しつけられる頭を諦め混じりになでて、ぼんやりとそんなことを思う。
可愛いんだけどね、痛いものは痛いんだよ。


、おわったらおやつ?」
「そうだねえ。今日はドーナッツでも作ろうか」

「ドーナッツ!!」


油っこいものも平気らしい(そういえばウサギは雑食だった気がする)ラビは、ドーナッツもホットケーキも大好物だ。
小さいラビ用にげんこつドーナッツを作るのは結構大変だったりするけど、喜んでもらえるからよしとしている。


「おさとう、さらさらなのがいい!」
「粉糖でしょ?多分残ってるから、たっぷりまぶそうね」
「やったさ!」


万歳、と両手をあげて、そのままバランスを崩して後ろに倒れる。
ベッドの上だから大丈夫だろうと放置しておいたら、案の定そのままきゃあきゃあとはしゃいでいた。












「んまー!」
「ラビ、砂糖こぼしすぎ。顔にもつけすぎ」


大喜びでドーナッツを頬張る姿は可愛いけど、床にぼろぼろこぼすんじゃない!
ああもう、誰が掃除すると思ってるんだ!


「ってコラー!そのまま走るなこのウサギ!!