「ー!!」
小さい身体で一生懸命走ってくるラビは、危なっかしそうに見えて案外うまくバランスを取っている。
「どうしたの、ラビ」
泣きそうな顔で(というよりもむしろ半泣きで)飛び込んで来たラビをなだめながら、今度はどうしたと首を傾げる。
確かこの前はテレビに写ったライオンの吠え顔が怖いと泣きついてきたし、その前は薄暗い部屋に幽霊が出そうだとべそをかいていたし。
今日はそんなに怖い物はなかったと思うんだけど……。
「ゆ、ゆゆゆゆ」
「何?」
ぶわっと涙をあふれさせたラビが、私の問いかけに悲痛な叫び声をあげた。
「ゆびわがないさー!!」
うわあああぁぁぁぁん!!
「……は?」
大泣きのラビを前に考える。
はて、指輪とは何だろうか。
わあわあ泣き続けるラビを見ながら考えることしばし。
「……もしかして、この間買ってあげたあれ?」
渋谷で覗いたお店に似合いそうな物があったから買った、細工がしてある1500円くらいの銀の指輪。
大喜びしてくれてまんざらでもなかったけど、まさか失くしたくらいでここまで大泣きするとは……。
「泣かないの。うちにしかいないんだから、絶対どっかにあるんだし」
抱き上げて背中をなでても、一向に泣きやむ気配のないラビ。
「だ……だってえ、せっかくにかってもらったのにぃ……!」
「あんなのでいいんなら、また買ってあげるから」
「やー!あのゆびわがいいんさー!!」
じたばたともがく様子は、まるで癇癪を起こした子供。
仕方がないとため息をついて、とりあえずは気のすむまで泣かせることにした。
ご近所迷惑な泣き声を放置していろいろ仕事を片付けていると、ぐずりながらラビが足元にひっしと抱きついてくる。
「ー……ゆっ、ゆびっ、ゆびっ、ゆびわぁ……」
「はいはい」
「なくなっちゃぁ……」
「そうだねぇ」
ラビを足にくっつけたまま、洗面所へと移動する。
脱水が終わった洗濯物をよいせと抱えて、またリビングに戻った。
足元が結構邪魔だ。
……今度、おぶい紐でも買ってこようかな……。
「ラービ。これが終わったら一緒に探すから、ちょっと静かにしてて?」
「ううぅぅぅー……」
ぐしぐしと鼻をすすりながらうなずいたラビは、それでも手を離そうとしない。
「ラビ、手を離して」
少し強い口調で繰り返しても、びくりと震えるだけで離れる気配はなし。
仕方がないかとため息をついて、どんどん洗濯物を干していく。
小さい同居人が1人増えるだけで、洗濯物がこんなに増えるとは思ってもみなかった。
小物干し1つ分増えたそれをせっせと干して、やっぱりラビをひっつけたままベランダに出す。
「じゃあ探そっか」
よいせと抱っこして視線を合わせると、ラビの顔は涙でぐしゃぐしゃだった。
「ー……」
「怒ってないから。どこで失くしたのか、覚えてることはある?」
「……ないさ」
しょんぼりしょぼしょぼ、ウサギ耳が垂れる。
覚えてたらこんなに大騒ぎはしないか。
「昨日、お散歩に行った時は?」
「してた……とおもうさ」
自信なさゲにうなずいたのをうけて、とりあえず探してみようとうなずいた。
「まずは家の中を探してみようか。それから外に行ってみよう?」
「……ん!」
ぐしっと鼻をすすって、泣くのをこらえてラビがうなずき返す。
頑張れと背中をなでて床に下ろすと、果敢に部屋の中を走り出した。
「おれ、のへやさがす!」
「あんまり荒らさないでねー」
危ないものは全部高いところに置いてあるから大丈夫だと思うけど、やっぱり何だか心配だ。
元気な返事を聞きながら、後でこっそり様子を見ておこうと決心する。
「さて、どこかな?」
ラビのことだから、そんなに高い場所には置いていないはず。
となると、私が探すのは多少骨が折れるかもしれない。
小さい子の目線なんて、もう意識してもよくわからないからなあ……。
とりあえずは視界を低くしてみることから始めたけど、それでもいまいちよくわからない。
子供の思考回路って、時々びっくりするほど突拍子もなかったりするからなあ……。
ソファーの下やテレビ台の端を探したところで、早くも腰が痛くなってしまった。
駄目だこれ、予想以上に腰がつらい。
よいせと腰を伸ばしながら、さてラビの方はどうなっているかと覗きに行ったら。
「うぇえっ……ひっ、うぅぅ……」
盛大に嗚咽をもらしていた。
涙でぐしょぐしょの顔を腕で何度も拭いながら、必死にあちこちを探している。
その泣き顔に思わずぞくりとしたけれど、そこまでいくと本格的に人間捨ててしまうような気がしたから、すぐさま気のせいだと宇宙の彼方へ飛ばすことにした。
「ゆびわぁ……」
どこー?と必死に探す姿が、いじらしくて可愛らしい。
たとえ、部屋の中がぐちゃぐちゃに荒らされていたとしても。
「……あんまり荒らすなって言ったのに」
それでも出てくるのは、苦笑しかなくて。
ひょいとラビを抱き上げると、涙目のままぱしぱしと瞬かれた。
「?」
「ちょっと休憩。ほら、涙ふいて」
「ん」
渡したハンドタオルに顔を埋めるラビの頭をなでて、これで見つからなかったら本当に大惨事だと小さくため息がもれる。
体中の水分なくなっちゃうんじゃないか、このウサギ。
しっかりとアクエリアスを飲ませながらそんなことを考えて、洒落にならないとかぶりを振る。
「いつまで指輪があったのか、もう1回ゆっくり考えてみて」
いくら探しても指輪は見つからなくて、ラビは結局干からびるんじゃないかってくらいに号泣した。
なだめながらさて買ってくるかとこっそり考えていたら、何とひょっこり出てきましたとさ。
洗濯物のズボンの、ポケットの中から。
多分、手を洗う時に入れたまま、忘れちゃったんだろう。
見つけたそれをラビに渡すと、踊り狂うようにして喜ばれた。
大事そうに手にはめたラビは、ほうとため息をつく。
「なんでそれじゃなきゃ駄目なの?高くないんだから、同じの買ってあげるって言ったのに」
「だめなんさ!これ、にはじめてかってもらったのだもん!」
……そういうことかい。
可愛い奴め。
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