どうやら最近、ラビは私がいない間も1人で遊ぶ事を覚えたらしい。
言いつけ通りに、危ない事を一切せずに遊ぶ頭のよさは、正直言って驚いた。


ー!!おかえり!」
「ただいま。また何かやってたの?」
「ん!これさ!」


自慢げにうなずいて見せたのは、昨日よりもだいぶ綺麗な形の紙飛行機。
まだ折り線が斜めだったり、先がひんまがったりはしているけれど、この外見年齢でここまでできれば上出来だろう。

しかもこれ、私が教えたわけじゃないのが空恐ろしい。
いらなくなったちらしとか、古新聞とか、そういうものを器用に千切っては作っている。


始めのうちはぐちゃぐちゃの意味不明なものばかりだったけれど、最近は船とか紙飛行機とか、簡単なものを生み出すようになってきた。
その様子は人間が何かを生み出す過程を見ているようで、実はちょっぴりおもしろい。


「昨日よりうまくできたね」
「ほんと!?」


頭をなでて褒めたら、ぱっと顔を輝かせて勢いよくこちらを見上げた。
明らかにもっと褒めてと言っている目に苦笑して、小さな頭をくしゃりとなでる。


「ラビは手先が器用だね」
「これ、にあげる!!」
「これ?」
「ん!!」


何度も遊んだらしく、くたりとしんなりしている紙飛行機。
はっきり言って何の役にもたたない代物だけれど、ラビの気持ちは素直に嬉しかった。

ゴミ箱を覗くと、くしゃくしゃに丸められたちらしがいくつも入っている。
何度も作り直してやっとできた、快心の作品なんだろう。
ひょいと抱き上げて小さな手から紙飛行機を受け取ると、ラビが嬉しそうに笑った。


「おれも、にぷれぜんと!」
「ラビも?指輪なら、別に気にしなくていいのに」


私が気に入って買ったものだし、ラビから何かを返してもらおうなんて思ってはいない。
紙飛行機だけテーブルに置いて苦笑すると、むっとした顔のラビが私の顔に両手を伸ばした。


「おれ、といっしょにいれてうれしいもん!にもよろこんでほしいんさ!!」
「……そっか」


ああもう、こういう風に不意打ちでクリティカルヒットを出すからタチが悪いのよ、このウサギ!


わしゃわしゃと乱暴に頭をなでると、嬉しそうに歓声をあげる。
きゃあきゃあとはしゃぐラビを高い高いすると、さらにはしゃいだ声をあげた。


「もっとー!」
「もう無理、腕が限界」


暮らし始めた当初より、ラビはほんの少しだけ大きくなった。
それに伴って体重も少し増え、ただでさえ少々辛かった高い高いも、もうほとんどできなくなっている。


、おれ、おもいん?」
「そりゃあ、大きくなったからね」
「ほんと!?おれ、おっきくなったさ!?」


重くなれば抱っこ遊びもできなくなるというのに、何故かラビは大喜びだ。
一体どうしたのかと首を傾げると、ラビが力一杯握り拳を作った。


「おれ、はやくおっきくなる!んで、をまもるんさ!!」


……どうやら今度は、戦隊ヒーローものにはまっているらしい。
ヒーロー達の中でも主人公役の人には、もれなくヒロイン役もくっついてくるようで。


「……ありがとねー」
「まっててね、!」
「はーいはい」
「やくそく!」
「うんうん」


どうせ明日になったら忘れているだろう。
適当に笑顔でうなずいたら、満面の笑みで抱きつかれた。



「ん?」




「おれがおっきくなったら、、おれとけっこんしてくれる?」




思わずラビを落としそうになった。
慌てて首にしがみついてくるラビに腕の力を入れ直して、まじまじとその顔を見る。


「……ラビ、結婚の意味知ってる?」
「だいすきなひとと、ずっといっしょにいること!」
「……まあ、間違ってはいないけど……」
「しらゆきひめもしんでれらも、みんなおうじさまとけっこんしたさ!おれも、とけっこん!」


自信満々に答えるラビの顔を見ながら、さてどうしようと頭が痛くなってきてしまった。
意味としては確かに違ってはいないんだけれど、論点の違いをどう説明したらいいのだろうか。


好きということと結婚は、本質が違う。
ラビが私に抱いている好意も、loveではなくlikeの方だろう。

そもそも、ラビが大きくなるまで待っていたら、普通に考えたら私が適齢期を過ぎている気がする。


そんなことを真面目に考えていたら、ラビが不安げに眉根を寄せた。


「……?」
「ん?ああ……」


何と答えたものか。
ここはひとまず、夢を壊さないようにしておくか。


「いいよ。ラビが大きくなって、そのときにまだ私を好きだったらね」
「おれ、じゃないひとなんて、すきにならないもん」
「変わるかもしれないでしょ?」
「かわらないさ!」
「……大きくなったら、また考えなさい」


こつりと額を小突いて、不満そうなラビを床に下ろす。
しびれている両腕を曲げ伸ばししながら、気づかないうちに大きくなったと密かに驚いた。

耕介の服は縫代をかなり多くとっていたから、何度かサイズ直しをしてもらっている。
けれど着ているのは同じ服だから、つい「成長した」ということを忘れてしまうのだ。


もう少ししたら、また新しい服を作ってもらうのもいいかもしれない。
バイト代もちまちま貯めているし、3着か4着くらいなら何とかなるだろう。


「……小さいままの方が、可愛いんだけどねえ……」


ずっと今のままでいてほしいと思うのは、やっぱり私のエゴなのか。
おやつの準備をしながら、ラビの成長が寂しいと思っている自分に苦笑した。