ユウにはシンプルな服がよく似合う。
何枚も着重ねるよりも、白いシャツに黒いズボンとか、そういうすっきりした組み合わせの方が、きりっとした雰囲気が際立つのだ。
ほんの時たま、あの着物も着てくれるから、それはもうそれだけで充分!


と、思っていたんだけれど……。


、これ」


小さい手で精一杯差し出されたのは、回覧板だ。
郵便受けにでも入っていたかと受け取った私に、ユウが小さく首を傾げた。


「なつまつり、って、あのよるでもあかるいのか?」
「あ、知ってたんだ。そうだよー、提灯いっぱいぶら下げて、幻想的で素敵だよね」


この近くには割と大きな神社があって、毎年そこで夏祭りが行われる。
今まで積極的に行ってみたことはないけれど、毎年ちょっと覗くだけでも楽しそうだった。
今年は行ってみてもいいかもしれないなあ。


そんな風に思いながらユウを見下ろすと、尻尾が密かにふるふると振れていた。
視線はお知らせに釘付け。


「……行きたい?」
「……べつに!」


試しに訊いてみるとふいっと横を向くけれど、横目でお知らせをうかがっているのがばればれだ。


……行きたいんだよね、そうなんだよね。


意地っ張りな態度が可愛くてたまらなくて、さらさらの頭に手を乗せてぐりぐりとなでてしまった。


「なんだよ!」
「お祭り、一緒に行こう?」


怒ったように尻尾を逆立てるユウに笑いかけたら、むすりとした顔をされる。
そんなことは予想済みだから、更にもう一押し。


「私、ユウと一緒にお祭り行きたいなあ」
「……」
「一人で行くの、寂しいなあ」
「…………がいきたいっていうなら、いっしょにいってもいい」
「ありがとう」


本当は行きたいくせに意地っ張りな態度に小さく笑って、ジュースを注ぎ足した。


その日の夕方、ユウの着物を作ってくれたおばあちゃんに「今度お祭りに行くんです」と言ったら、なんと浴衣を作ってくれたらしい。
1週間後に「似合うといいけど」と持ってきてくれた。


「あの小さな子のも作ってあげたいんだけどねえ……女の子だった?」
「いえ、今回は男の子のでお願いします!」


のほほんと言ったおばあちゃんに、反射的に即答してしまった。
男の子用の浴衣を着ているユウも見てみたい。

おばあちゃんは首を傾げていたけれど、サイズはこの間と同じでいいからと頼みこんで了承してもらった。
あんな子でこんな子でと特徴をたっぷりと語って、柄はお任せだ。

どんな浴衣を作ってくれるんだろう、今からとても楽しみ!












お祭りの前日になっておばあちゃんが届けてくれたのは、若草色の古典柄だった。
一目見てすっかり虜になってしまった私は、奥からユウを抱っこして連れ出す。
もちろん、頭はヘアバンド風にしたスカーフで完全防備済みだ。


「ほら、ユウ!ユウの浴衣だよ!」
「おれの……?」
「そ!おばあちゃんが作ってくれたの!」


ほら、とユウに浴衣を渡すと、まばたきを繰り返しながらじっと見つめている。


「あらまあ、可愛い子だねえ」


のほほんと笑うおばあちゃんに、ユウがぽつりと呟いた。




「…………ありがと」
「はい、どういたしまして」




嬉しそうに目を細めたおばあちゃんは、軽くうなずくと踵を返す。
まだお金を払っていないと慌てて呼び止めると、にこにこ笑いながらかぶりを振られた。


「こんなに可愛い子を見れただけで、もう充分だよ。お祭りの帰りにでも、また着たところを見せてね」
「……はい!」


本を見ながら何度か着付けをしてみて、いい具合に生地もなじんだし、何とかまともに着付けられるようになった。


「行こっか、ユウ」
「ん」


しっかりと手を握って家を出る。
からころと鳴る下駄が珍しいらしく、ユウはいつもよりもさかんに足元を気にしていた。


「転ばないでね」
「わかってる!」


がうと噛みついたユウがふと視線を上げて、ぐいと私の腕を引く。
早く行こうという無言の訴えにこっそり笑って、歩く速度をほんの少しだけ上げた。
やがて見えてきた提灯に、ユウの顔がぱっと明るくなる。


、あれ!」
「うん、あそこだよ。広いでしょ?」
「はやく!」


今にも手を振りほどきそうな勢いのユウを慌ててしっかりつかまえて、でも抱き上げたら怒るだろうなあとため息をついた。
駆け足のユウに引っ張られるように早足で境内に入ると、オレンジ色の温かい光が視界いっぱいに広がる。


「ユウ、わたあめ食べる?」
はいるか?」
「ううん、でもユウが食べたいなら買うよ?」


こんなことで子供に我慢させるほど生活に困ってはいないからと促したけれど、ユウは口元を引き結んでかぶりを振った。


「おれ、どうせすこしたべたらあきるし。がいらないならいい」


……確かに、あの量をユウ一人で食べきるのは無理だろう。
私も小さい頃に何度も挑戦したけれど、あれは大人でもきつい。

そこまで考えているユウに感動しつつ、それじゃあと辺りを見回す。


「わたあめは今度、家で作ろうか。りんご飴は?」
「……わたあめ、つくれるのか?」
「ん。空き缶とモーターとザラメ糖があれば、どうにでもなるよ。りんご飴は?別に他のでもいいけど」


空き缶にアイスピッカーで穴を開けて、ちょいちょいと工作をすれば、小学生でもできる程度の道具だ。
詳しい材料とか作り方は忘れたけれど、ネットにでも載っているだろう。


「……きんぎょすくい、やりたい」
「いいよー。金魚鉢あったかな?」


なかったら買えばいいか。
真剣な表情でポイを持っているユウの後ろで、そんなことを考えながら見学する。


「っや!」


ばちゃり、と大きく立つ波。
垂直に叩きつけられたポイは、一瞬で破れた。

悔しそうな顔をしているユウの頭をなでて、おじさんにもう1回お金を渡す。


「横から水を切るように動かすんだよ。縁に乗っけるみたいにするといいんだって」
「……わかった」


何度か失敗しては挑戦して、赤と黒の金魚を1匹ずつゲットしたユウは、左手にビニール袋を下げて満足そうだ。
その後もくじをやって、焼きそばたこ焼き広島焼銀杏金平糖、2人で思う存分楽しんだ。


くたくたになって家に帰りながら、疲れたらしく少し足を引きずっているユウを見下ろす。


「楽しかった?」
「ん」


尋ねればこっくりと大きくうなずいてくれたから、疲れなんてどこかに行ってしまった。
素直なユウは可愛いなあ!