あのことがあってから、ユウは何となく私に優しくなった……気がする。
ふとした瞬間に気遣いを見せるその態度が、まるですっかり一人前だ。


「ユウー、ちょっとこれ運んでくれる」
「わかった」


こっくりとうなずいて洗濯物を運びながら、ユウが小さな手を差し出した。


「ん」
「ん?」
「それも、もってく」
「……ありがと」


大きなタオルも折り畳んでその上に乗せると、ほたほたと可愛らしい歩調で持っていってくれる。


私があれくらいの頃なんて、あんなにお手伝いをしていただろうか。
親にうまいこと使われて手伝っていたことはありそうでも、自分からああやって手伝うことはなかったと思う。


、あめ!」


からからと雨戸を閉める音をたてながら、ユウが向こうから大きな声をあげた。
視線を外に向けると、なるほど小雨が降り初めている。
洗濯物を取り込んだ後でよかったと安堵しながら、窓とカーテンを閉めた。


「せんたくもの、ぬれなかったな」
「よかったね、ほんと。ランドリーまで行くの、大変なんだよねえ」


ちょっと奮発して淹れたキャラメルティーを飲みながらそんな話をしつつ、しとしとと糸のような雨が降る外を見やる。

雨だと外に行くのが一手間かかるから、買い物に行くのも大変だ。
シャンプーの詰め替えと洗顔石鹸を買おうと思っていたんだけれど……明日でもいいか。

食べるものはまだ冷蔵庫の中にあるし、焦ることはないだろう。


「晩ご飯どうしよっか」
「なんでもいい……」
「その答えが一番困るんだけどね……もう、残り物でチャーハンとかにしちゃおっかなあ」


確か冷蔵庫の中に、一昨日の鳥肉が余っていたはずだ。
ミックスベジタブルもあるし、ちょっと古いちくわも入れようかな。


頭の中で材料をリストアップしながら、少しほつれていたユウの髪をなでつける。


つやつやの髪の毛はうちに来た頃から変わらないもので、私が大好きなものの一つ。
そろそろ前髪が長くなってきているから、今度切らないと駄目だろうな。


「……なんだよ」
「ユウってほんとに可愛いなあって思って」
「けんかうってんのか!」
「だって、可愛いじゃない」


可愛いものを可愛いと言って何が悪い。
口を尖らせて反論すると、ユウが怒ったような表情でむっつりと黙ってしまった。


「ユウ?どうしたの?」
「……かわいいっていうな」
「何で?」


ユウは可愛いじゃないかと首を傾げても、ユウは黙りこくってキャラメルティーを飲むだけだ。
本当に、一体どうしたんだろう。


仕方がないからこちらも無言で飲みつつ、読みかけの本に手を伸ばした。
そんなに深刻な拗ね方じゃないし、問題はないよね、うん。

甘い匂いのする紅茶を飲みながら、時折ユウの様子を見ておく。
ぶすくれた表情でマグを抱え、ちびちびと飲む姿が可愛かった(さすがユウ!)


ユウの紅茶が空になりかけたところで、おかわりはいるかとポットを持ち上げる。


「一回置いて?」
「ん」


両手に余るかという大きさだったマグも、今ではそれほど気にならなくなってきていた。
落とすんじゃないかとひやひやした時期もあったけれど、もうそんな心配もない。


大きくなってるんだな、ユウ。


「お砂糖は?」
「いい」
「……甘い方が、おいしいよ?」
「いらない」


いつもは1つだけ入れる砂糖を、何故かいらないとかぶりをフルユウ。
惰性で訊いたようなものだったから、驚いて手が止まってしまった。

すぐ上で停止している角砂糖から逃げるように、ユウがマグを持ち上げる。
ふうふうと冷まして飲んでちょっぴり顔をしかめたけれど(やっぱり砂糖入りの方が好きなようだ)、やっぱり入れてくれとは言わなかった。


まあいいかと首を傾げながら自分のマグにも注いでいると、ユウがぼそりと呟く。


「……かわいいって、いうな」
「可愛いのに……」


こんなにふにふにつやつやな子を可愛いと言っちゃいけないなんて、ものすごくもったいない!
それでもユウが嫌がるならやめようかと思いながらうなずくと、マグを持ち上げたユウがさっきよりも小さく呟いた。




「……は、おれがまもるんだもん……」




…………え?
何か今、ものすごく可愛くて嬉しい言葉が聞こえたような!


「ねえねえねえ、今何て言った?」
「…………」
「ユウったらあ」


上半身をかがめて覗きこんでも、ユウはマグを傾けて口元を隠してしまう。
けれどさすがに、耳が真っ赤なのは隠せていなかった。




   っ、ユウ大好き!」
「はなせばか!」
「やだ!」




じたばたと暴れるユウを抱き上げて、ぎゅうぎゅうと抱きしめる。
嫌がっていても絶対にひっかかないあたりが愛ですよ、愛!