泣きじゃくるアレンをしっかりと抱いて、部屋の奥に入る。
なかなか泣きやまなくて大変だったけれど、根気よく背中を叩いてあやしていたら、十分ほどして落ち着いてきた。


たった十分が数時間にも思えたのは初めてだ。
時計を見て、冗談じゃないかと思うほど驚いた。


「アレン、お腹空いたでしょ?今何か作るから、ちょっと待っててね」


とにかくまず、何よりも食事だ。
キッチンに行こうとして立ち上がろうとすると、はっとしたように反応したアレンにしがみつかれた。


「……アレン?」
   や……!」


泣きそうな声で手に力をこめて、アレンの頭が胸にすりつけられる。
あまりに必死なその様子に、小さく首を傾げてしまった。

もう一度座り直して、どうしたのかと覗きこむ。
その先では、碧い目を真っ赤に染めて、アレンが必死にしゃくり上げるのをこらえていた。


「アレン?泣きたいなら泣いていいんだよ」


確かに泣きやんでほしいけれど、無理矢理止めてほしいわけじゃない。


泣ける時に泣けばいい。
特に子供は。


うながしてみても、アレンはふるふるとかぶりを振るばかりだ。


「アレン、泣いていいってば」
「うー……」


ぐしゃぐしゃの顔で、アレンはそれでも口を押さえてかぶりを振り続ける。
どうしてそこまでかたくなになるんだろう。


「声出しなって。誰も笑わないし、怒らないし、何も言わないよ?」


ぎゅうと抱きしめてそう言うと、ようやくアレンが小さくしゃくり上げた。
さっきと同じようにとはいかないけれど、声をあげて泣き出したアレンに、そっと安堵の息をもらす。
顔まで真っ赤にして泣くアレンは、年相応の状態だ。


「ごめんね、寂しかったね」
、さん……!」
「うん、一緒にいるよ」
「いかないで、ください……!」
「うん」


答えながら、思わず顔がゆるむ。

馬鹿みたいと言われようが何だろうが、アレンがわがままを言ってくれるのが嬉しかった。
だってこの子、いい子すぎるんだもの。


しがみついてくるアレンをはがすことはできずに、片手で抱きながら簡単な食事を用意する。

ラップに包んで保存していたご飯をレンジで温めて、おすましも某有名メーカーのインスタント。
片手じゃトマトも切れないから、プチトマトを洗ってお皿にのせる。
後は……もう遅いし、みかんとかでいいか。


「アレン、ごはん食べられる?」
「……あんまりたべたくありません」
「泣いた直後は食欲なくなりやすいしねえ。落ち着いたら空いてくるから、まずは早く食べちゃおう」


こんなに泣いて何も食べずに寝たら、お腹が空いて夜中に起きてしまうだろう。
比較的食べやすいみかんだけでもと、皮をむいて口元に近づけた。


「食べよう?アレン」
「はい……」


膝の上のアレンにみかんを食べさせながら、私も手早く食事をする。
アレンも始めは両手が離れるのを嫌がったけれど、その度に大丈夫だとなでていたら、徐々に落ち着いてきた。


さん、あの……」
「何?」
「ぼく、これからはいいこにしてます」
「アレンはいつでもいい子じゃない。今回は私が悪いの、気にしなくていいんだよ」


今度、携帯をもう一台買ってこようか。
最新機種である必要はないし、受け専用に近いプランにすれば問題ないだろう。
お金もそんなにかからないし。


専用でウィルコムを2台買ってしまおうかなどと考えていると、アレンが再び袖を引いた。


「ん?」
「……めいわくかけて、ごめんなさい」


しょんぼりとうなだれるアレンの頭をくしゃりとなでて、その謙虚さに苦笑する。


「だから、いいんだって。これからはちゃんと連絡とれるように考えるし、アレンが不安に思わなくても済むようにするよ」


取りあえず明日、携帯のショップに行って買ってこよう。
アレンも頭がいいから、きっとすぐに覚えてくれるだろう。


歯磨きとお風呂を済ませて、寒くないようにしっかりと布団をかぶせる。
しんと冷える部屋に首をすくめながらその横に滑りこむと、ずっと何かを言いたげだったアレンが、勇気を振り絞ったように顔を上げた。


「あの、さん」
「どうしたの?」




「……きらわないで、ください……」




「……大丈夫だって」


見上げる瞳は暗い中でもはっきりとわかるほど綺麗だけれど、言うことはとても必死で悲しいものだった。
これだけ言ってもまだ信じないか、このわんこは。


そう簡単に信じられないような環境にいたんだろうと悲しくなって、布団の中でアレンを抱きしめる。


「信じてよ、アレン。大好きだってば」


次言ったら怒るからねと額を小突いて、抱きしめる腕に力をこめた。


明日はきっと、起きたら腕がしびれているだろう。
けれどそれも、たまにはいいかもしれない。


「おやすみ、アレン。ゆっくり寝てね、いっぱい泣いて体力使ってるはずだから」
「おやすみなさい、さん」


ようやく小さな笑顔を浮かべたアレンの頭をなでて、そのうちあの店長をどついてやると決意した。
アレンを泣かせたんだから、それ相応の報復をさせてもらいますよ、店長?